揺れる評判

冒険者ギルドがいつも通り活気づいている朝、ギルド内ではいつもと違う雰囲気が漂っていた。


「おい、これ見てくれよ。昨日買った剣なんだけどさ……。」


市場の片隅で、一人の冒険者が仲間に剣を見せていた。刃の部分が不自然にひしゃげ、何かにぶつかって潰れたかのようだった。


「なんだこれ?こんな脆い武器、どこで買ったんだ?」


「街の露店さ。聞いたことない店だったけど、『星屑の鍛冶屋の特売品』って言われてな……。」


その言葉に、周囲の冒険者たちがざわめいた。


「星屑の鍛冶屋の……?あそこって、そんな粗悪品を売っているのか?」


「いや、でもガレオンが興味を持つくらいの鍛冶屋だろ?さすがにこんな欠陥品はありえねぇんじゃ……。」


「セリーナの一件から、とんでもなく繁盛していると聞くよな。もしかして、忙しくなったから手を抜いているとか……。」


冒険者たちの間に不信感が広がり始めた。

彼らは皆、命をかけて戦う者たちだ。武器の質が悪ければ、それは即ち命の危険に直結する。


そして、その疑念は、徐々に広がっていった。



―――――――――――――――――――――――――


「メイ、ちょっといいか?」


その頃、星屑の鍛冶屋ではケントがメイに声をかけていた。

その表情から、ただ事ではないことが伝わった。


「なに?」


「最近、街のあちこちで『星屑の鍛冶屋の武器が簡単に壊れた』という話が出始めているらしいんだ。今朝、街の市場に行ったときに噂を聞いた。」


メイが顔をしかめる。


「うちの武器が?そんなわけないわ。耐久性には特にこだわってるし……。それに、私たちが販売した人たちからそんな報告はまだ来てないわよ。」


「だよな。だから俺もおかしいと思ってる。

直接、武器を見たわけじゃないけど、どうも不自然なんだよ。

噂をまとめると、どうも市場の露店で『星屑の鍛冶屋製』を名乗る武器が売られているらしい。」


メイは驚いて言った。


「ちょっと待って!うちはどこにも卸していないわ!そういうことだったら、その武器は偽物よ!それに刻印はどうなっているの?!」


ケントは頷いた。


「そうだよな。じゃあ、一緒に確かめよう。おそらく冒険者ギルド内でも噂になっているはずだ。」



―――――――――――――――――――――――――


冒険者ギルドに着くと、大きな人だかりができていた。

ケントとメイに気づくと、何人かの冒険者が詰め寄ってきた。


「おい、星屑の鍛冶屋の武器はどうなっているんだよ!」

「アル・ミラージの体当たりだけで、小枝のように折れたぞ!」


ケントは「落ち着いてくれ」と制した。


「それは、星屑の鍛冶屋で作ったものではない。粗悪な模倣品だ。」


「嘘吐くな!この剣にも流れ星の刻印がしっかりとあるぞ!」


ケントとメイがその刻印をよく見ようと、武器を手に掛けたときに、一人の冒険者が抱え込まれてギルド内に入ってきた。


上腕には爪痕が刻まれている。傷口からは止まらない血が流れ、仲間が慌てて布を押し当てていた。


「ちくしょう……この武器のせいで……!」


「どうしたんだ?!」

周りの冒険者たちが駆け寄った。


「魔物の討伐依頼をしていたんだ。そうしたら、剣が折れて反撃を食らった……!クソッ、普段ならなんてことない魔物だったのに……!」


その冒険者がケントとメイに気づき、叫んだ。


「お前ら……!よくもやってくれたな…!」


ケントとメイは、あまりの剣幕にたじろいた。

ただ、ケントはわかっていた。間違っていることは、しっかりと、丁寧に相手に伝えなければならないことを。


「まず、命があって良かった。それだけは言わせてくれ。

そして、こんなときに言うことではないかもしれないが、その剣は星屑の鍛冶屋で作ったものではない。」


ケントの言葉に、傷を負った冒険者は納得がいっていないようだ。


ケントの横で、メイがじっとその剣を見つめる。確かに見た目は自分たちの作ったものとよく似ていたが、細部が違う。刻印も微妙に歪んでおり、バランスも悪い。


「これは……間違いなく偽物ね。」


「お前ら…!自分たちの保身のために適当な嘘を言っているんじゃないのか?!」


その時、聞き覚えの声がギルド内に響いた。


「ちょっと! ケントとメイがそんな質の悪いもの作るわけないでしょう!星屑の鍛冶屋の武器は、私が保証する!」


セリーナが、ケントとメイを擁護してくれた。


しかし、激昂した冒険者たちは詰め寄った。


「セリーナ、たとえお前が言ったとしても鵜呑みにはできないんだよ。証拠はあるのか?」


「あるわ!本物の刻印を見てみなさい!」


セリーナが『ルミナス・エッジ』を取り出し、折れた剣と並べて見せる。


「この刻印、本物と比べると雑でしょう?私たちが作る武器は、一本一本、丁寧に打ち込むから、こういう歪みは出ないのよ。」


冒険者たちはじっと二本の剣を見比べる。確かに、並べると素人目にも違いが一目瞭然だった。

しかも、彼らはランクに違いがあれど冒険者だ。

その変の素人よりも目利きはできる。


「……確かに。これは、偽物かもしれない。」


「じゃあ、誰かが偽物を流してるってことか?一体、誰が。」


――今回の一件で、利益を享受できるステークホルダーは彼らだけだ。


確証がないため、口には出さなかったが、ケントには検討が付いている。

ケントは、強く握り拳を作る。



―――――――――――――――――――――――――


「おい、さっきの騒ぎ、見たか?」


グランス鍛冶店の作業場では、双子の鍛冶師ライルとルークが、小声で話していた。


「やっぱり、俺たちが作った武器で冒険者が傷ついたらしい……。大変なことになったよ、どうしよう……。」


二人の顔には、後悔と不安が浮かんでいた。

奥に座っているガイルは、「これでまた、私の店が一番になりますね。」と満足そうに笑っていた。


「どうしようもないよ……。俺たちが何か言ったら、ガイルさんが……。」


ルークが怯えたように呟いた。その時、彼らの背後から、冷たい声が響いた。


「……何をコソコソ話しているんです?」


ガイル・ロッセンが、ゆっくりと立ち上がった。


「まさか、余計なことを考えているんじゃないでしょうね?」


双子は息を呑んで、また黙って槌を振り続けた。


このままでは、何か大変なことが起きるかもしれない――。


二人の胸には、次第に耐えきれない罪悪感が芽生え始めていた。

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