大寒や被災地今も仮設村
「ほな、マー君、いこかー」と緊張感のない関西弁で相方は俺の肩を叩いた。中年のおっさんを捕まえていまさら「マー君」でもあるまいし、といつものように感じたが、今更ツッコミをいれてもしゃーないと諦めて頷く。
「マー君、ですか」
右肩のあたりで見知らぬ声がした。振り向くと、眼鏡を掛けたかわ腰小柄なボランティアらしき人がすぐ横を歩いていた。彼女も遠方からやってきたに違いない。俺や相方と違い関西弁ではないので、東日本の方なのだろうか。
「え、、、いつもそうよばれてます。もうあいつとは腐れ縁みたいなもんで。」
と、何となく俺の声で無いような他所行きの言葉で返答する。その場にいたのは俺、相方、他に五、六人のボランティアの面々で、今から大地震で壊滅的な打撃を受けた山村の被災地の自警団としてパトロールをするのだ。熊は餌があると冬眠しないと聞く。人間のコソドロと共に熊の心配もしなくてはならない。相方のように軽口を叩けない俺は多少緊張感をもって歩く。踏みしめる雪がミシミシと音を立てる。
「え、、、どちらから参加されたのですか。」丁寧な言葉に自分でも驚く。それでも懐中電灯を左右にくまなく当てて全壊、半壊の家屋、蔵の中に不審者がいないか目を凝らす、
「私は仙台です。この前の災害で北陸の方々にもお世話になったので。」と心なしか声が低くなった。俺はその時初めて横の人が若い女性だとわかった。帽子やマスクでほぼ性別、年齢は判別不可能なのだ。そういえば、初会合には何名か女性がいたことを思い出す。
「俺は神戸からきました。それで、、、、。」
「マー君、ちゃんと見てや」
と相方は何となくちゃちゃを入れてくる。声の調子でニヤけているのが十分わかる。せっかくこれから話をつなげようと思ったのに、空気を読まないヤツだ。
ふと、俺の頭のなかのタイムマシーンが動き出す。
30年前の冬の朝、1月17日、午前5時45分頃、ガツンと床全体が上空に飛び上がるような衝撃と耳を押しつぶすような轟音と地響きが来たかと思いきや、次の瞬間には建物全体が上下左右に激しく揺れた。ガチャンガチャンと食器が落ちて割れる音が凄まじい。「マー君!」「おい!」両親の声は轟音の中で途切れ途切れに聞こえるがこの揺れでは手も足も出ない。数分間なのだろうが、実際には数十分にも感じられた激しい揺れがおさまった。まだ10歳、小学4年生だった俺には何が何だかわからない、そもそもそれまで関西では大きな地震を経験したことがなかった。関東に住む従兄弟からはよく地震の話を聞いて、知識としては知っていたが、実感は伴っていなかったのだ。関西人は日本に住んでいながら地震はどこかの遠い国の出来事だと思っていた。そこへこの地震だ。幸い自宅は半壊程度、家族も無事だった。しかし、自宅は危険な状態のため、一家で過ごした避難所での生活とそれに続く仮設住宅での生活は結局1年続いた。あの避難所での不便さは、経験した者でないとわからない。小学4年生ながら何事にも我慢することは自然に覚えた。多分親たちの疲弊しきった表情を少しでも軽減しようと子供ながらに、考えたのかもしれない。
「マー君、こっち、こっちやで」
相方の声で我に返る。横にいた女性はいつの間にか別の班に合流していた。おれは相方と別方向の道を巡回すべく、道を曲がった。
懐中電灯で半壊、全壊した民家を照らし出し、維持用がないかどうか目を凝らした。
この山村から離れた場所にも仮設村ができている。
あとどれくらいで仮設村の方々は元の故郷に戻れるは撤収できるのだろう。この無人のゴーストタウンに人々の生活が戻ってこれるのはいつのことなのだろう。
俳句 大寒 よひら @Kaku46Taro
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