第9話
「さてお前ら、靴のサイズはなんセンチだ?」
「えっと、25センチです」
本当はもう1センチ小さい靴でも全然入るのだが、靴のサイズが小さいのはなにか恥ずかしいものがあり、大きめに申告してしまう。
「に、24です……」
なぜか渚もしどろもどろになっていた。
「よっし、なら実際に測ってみるか」
水無瀬先輩は目盛の付いた機器を床に置き、それを指差す。
「まずお前、コウっていったか? ここに足を置け」
「えー……」
この機器が足の大きさを測るものだということに今更気付く。だとすれば、嘘がすぐにバレてしまうじゃないか。なんとか回避できないか考えるが――
「さっさとしろ」
「はい……」
この水無瀬先輩も、大鳥先輩とは違う種類の怖さがある。睨まれては大人しくするしかない。
足の大きさを測ると、目盛は22.5の付近で止まる。
「ずいぶん盛ったなぁ。お前」
「いや、こんなはずは! スニーカーも24cmで……」
「それでもまだ盛ってるじゃねえか。まあ意外と正確な足のサイズって知らないやつが多いから仕方ないけどな」
もう片足も測り、水無瀬先輩は渚を見る。
「ほら、お前もやるぞ」
しかし、渚は唇を硬く結び、断固とした態度をとる。
「測りません」
「あん、何言ってるんだお前」
水無瀬先輩は鋭い眼光を送るが、さすがと言うべきか、渚は動じない。
「あたしは運動靴を選ぶときに測っているので大丈夫ですから」
「……」
渚の強硬姿勢に、なんとも言えない雰囲気が漂う。
我慢比べとばかりに睨み合う二人だったが、先に動いたのは水無瀬先輩だった。
「そりゃっ!」
「っ!」
目にも止まらぬ早業で、水無瀬先輩が渚の靴を脱がせる。
そしてまじまじと表示を見る。
「ちょ……返しなさいよ!」
「やーだね。やっぱ25.5cmあるじゃねえか」
「スニーカーだから! 少し大きく履くのは当然でしょ!」
「ならさっさと測れよ」
「わかったわよ……」
不承不承、渚は足のサイズを測る。
「24.5cmか。お前は確信犯だな」
「少しだけ小さく申告する意味がわからん」とぼやきながらどこかへ行く水無瀬先輩。
その後姿を渚は恨めしそうに睨む。
「なんなのあの人、乱暴すぎない……?」
「渚も水無瀬先輩も、ジャンルは同じだと思うけど……」
喧嘩っ早いところとか。
「殴るわよ?」
爽やかな笑みを浮かべて言うが、中身は物騒だった。
「行程の大半を歩行に費やす登山において、靴は核になる部分だ。極端な話、靴の合う合わないで山の楽しさが180度変わってくる」
「そんなものですか」
大鳥先輩が諭すも、渚は未だ釈然としない様子だった。
ほどなくして、水無瀬先輩がいくつかの靴箱を持って戻って来る。
「お前たちに合いそうな靴はこの辺だな。ちょっと履いてみろ。こいつも忘れずにな」
水無瀬先輩から登山靴と靴下を渡される。履いてみた感覚は、今までのどの靴とも違うものだった。
「なんかすごい安心感というか……」
「硬いわね」
僕が言わなかった部分を渚がはっきりと言う。
「テント泊の荷物を背負って舗装されていない道を歩くんだ。これくらいの硬さは必要さ……ここで少し歩いてみろ」
水無瀬先輩はスロープを指差す。登山道を模したものなのだろう。
まずは灰色の靴を履いた渚がスロープで上り下りをしてみる。
「どうだ? つま先が当たるとかかかとがホールドされていないとか、他に痛い場所があったりするか?」
「そういうのは大丈夫だし、こういうデザインも合わせやすいけど……ああいうのも履いてみたいかも」
渚が向けた視線の先には鮮やかな黄色の登山靴があった。
「あれはお前には足幅が広すぎると思うが……まあいい、試してみな」
「やっぱりおしゃれは足元からって言うもんね。ちょっと攻めたくらいのデザインがいいのよ」
ノリノリで黄色い登山靴を履いて、スロープを歩くが、渚は首をひねる。
「下りでつま先が当たるわ」
「それは靴のサイズか形が合ってなくて、ちゃんとホールドされていない証拠だ」
「なら、もう一つ小さいサイズよ!」
「へいへい」
靴のサイズを下げて再挑戦する渚だったが、今度は窮屈だったようで顔をしかめる。
「インソールとか入れれば合う可能性もあるが……やってみるか?」
しかし、渚は首を横に振ると灰色の靴を手に取る。
「うーん……大丈夫です。せっかくぴったり合う靴があったんだから、こっちにします。よく考えたら、こっちのほうが色んなウェアを試せるしね」
はっきりとした物言いはするしへその曲がった事も言うけど、決して物わかりが悪いわけじゃない。それが渚のいいところだった。
「わかった……じゃあ、次はお前だ」
「はい!!!」
「うるせえな」
「すいません……」
わくわくしてしまい、つい大きな声を出してしまった。
「お前は女にしちゃ幅広だから、男女兼用の靴を選んでみた」
僕の靴は、赤と銀が基調のかっこいい靴だった。
この靴はかっこいいが、選んだ理由が納得行かなかった。
「だから僕は……!」
「せんせー、この靴下も試着用のと同じ厚さのものがいいんですかー?」
僕の不満は渚の質問によってかき消される。それに対し、大鳥先輩は満足げに頷く。
「いいところに目をつけたな。そのとおりだ。靴下の厚さが違ってもフィット感が変わってくるからな」
「ほら、お前もさっさとスロープ歩け……そういや風華、今日は登山靴を選びに来たって言ってたが、ザックとレインウェアは買ってかないのか?」
「それは部の備品を貸し出すことができるので。水無瀬先輩も知っているでしょう?」
「そうだったか? そういやあのペラペラザックがあったな……お前ら、もし自前のが欲しくなったらうちに来てくれよ」
先輩二人はすらすらと登山の知識を披露していく。水無瀬先輩は3つ、大鳥先輩は2つしか変わらないのにやたらと大きく見えた。
山に登ったら妖怪がついてきた 毒爪マン @Genmai-tea
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。山に登ったら妖怪がついてきたの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます