火と山、そして……

 赤髪の男性が自らの胸を軽くトントンと叩く。

「え……」

「ミュージック、スタート♪」

「え、ええ……?」

 真虎が困惑しているうちに、ライブショーが始まった。ステージには赤い薔薇がこれでもかと敷き詰められていた。さらに真虎を戸惑わせたのは、いつのまにか、ステージ最前席に移動させられていたからである。

「烈火のライブショーを楽しんでいってくれよな!」

 烈火と名乗った男性がウインクする。ノリの良い曲が続いたため、真虎も気が付くと、手拍子をステージに送っていた。

「はっ⁉」

 真虎が我に返って、己の両手をマジマジと見つめる。

「赤い薔薇……花言葉は『愛情』・『情熱』・『あなたを愛しています』だよ……」

 烈火は呼吸を整えながら、花言葉について説明する。

「そ、そうですか……」

「ここはアイドルカフェ! 『火』を司る! 俺っちの『愛情』はよ~く伝わったと思う。ファンちゃんもありったけの『情熱』をもってこちらに応じてくれたよね……」

「あ、は、はい……」

「つまりだ、俺っちが何を言いたいのかというと……『あなたを愛して』……」

「それ以上は言わせない……!」

「‼」

 低く鋭い声が響く。真虎はいつのまにか、席を移動させられていることにも驚いた。移動させられた先の店の一角は暗い。黒い薔薇が敷き詰められている。真虎は顔をしかめる。

「……暗いとお思いになられましたか?」

「! え、ええ……」

 背中から声がしたので、真虎は少しビクッとしながら、答える。

「黒い薔薇……花言葉は『憎しみ』・『恨み』・『あなたを呪う』……」

「ええ……⁉」

 真虎の首筋にオールバックの男性が噛みついた。あまりに自然な動きだったので、真虎はなんとなく受け入れてしまった。オールバックの男性が真虎の前に回り込み、笑う。

「ふふっ……これで、あなたと自分は『永遠の愛』に近づきました……」

「ヴァ、ヴァンパイアカフェ?」

「察しがよろしい……この大山は『山』を司ります……」

「……いかがですか?」

 やや間を置いてから疾風が真虎に尋ねてきた。

「えっと、言いたいことは色々あるんだが……まずは……」

「まずは?」

「客層にまったくかぶらない俺にアピールされても……」

「いいや、アリだと思うよ?」

「アリって……」

「これまでとは違う層にリーチしようとは思っていたんだ」

「これまでとは違う層って……⁉」

 真虎が驚く。疾風が白い薔薇を、静林が青い薔薇を、烈火が赤い薔薇を、大山が黒い薔薇を持って、真剣な目つきで真虎を見つめていたからである。

「……」

「か、覚悟はとうに出来ているってことか……」

「そういうことだね」

「……おばあちゃんの忘れ形見だからな……分かった、僕も覚悟を決める!」

「!」

「新生コンセプトカフェ、『風林火山』、再始動だ!」

「おおっ!」

 真虎の叫びに応じ、執事とキャットスーツを着た男と、アイドル衣装の男と、ヴァンパイア姿の男が声を上げる。前途多難しかないが、今は気にしないことにする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

コンセプトカフェ『風林火山』! 阿弥陀乃トンマージ @amidanotonmaji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画

同じコレクションの次の小説