御宿泊

白川津 中々

 彼女とそういう宿泊施設でそういう事をしようと決意し双方納得のうえで宿泊プラン(宿泊施設なのにどうして宿泊以外のプランがあるのだろう)を取って部屋に入るとなんとなしに気まずい空気が流れた。


「あの、前にも言ったけどさ、俺、経験なくって……」


「そんなの私もだって!」


 困った。お互いエアプのため何をしていいのか分からない。備え付けのテレビをつければそういう映像が流れると聞いた事はある。改めて視聴すれば参考にはなるだろうが、何やら二人で肩を並べて観るのも気恥ずかしい。やはりここは勢いのまま肩でも抱いて接吻という流れが自然だろうか。どうだろう。分からない。本当に。


「あ、ゲームあるよ、ゲーム。まずはゲームでもしよっか」


 緊張によりぎこちなくなっている俺に気を使ってくれたのか、彼女からそんな提案があった。情けないやら申し訳ないやら。しかし、ゲームが盛り上がれば自然と会話も弾みそういう雰囲気になるかもしれない。ここは一つ、お言葉に甘えてなにか適当に対戦でもと思い備品を見る。


「……え、まじ?」


 驚愕。


「どうしたの?」


「初代PSって……まだ動くんだ……初めて見た……しかもこれ、ガンパレあるじゃん。一回やってみたかったんだよなぁ……」


「それって、二人でできるの?」


「いや、一人用だけど……」


「じゃあ私、やってるとこ見てるね」


「いやいや、それじゃ悪いよ。こっちのぷよぷよにしようよ。これなら二人でできるし」


「うぅん。私、ゲーム見てる好きだから」


「そうかい? じゃあ、ちょっとだけ……」


 性の興味と同等にカルト的人気を誇るレトロゲームも同じくらい気になっていた俺は、彼女に促されるままソフトをセットして電源ボタンを入れたのだった。


 どぅぅぅぅぅぅぅぅん。

 でぃぃぃぃぃぃぃぃん。

 てぃれり。

 ぽんぽんぽーん……

 

 起動音。そして始まるオープニングを無事鑑賞。ゲーム開始。


 ……


「ねぇ、この芝村って人怖くない?」


「そうだね。鼻持ちならないね」


 ……


「なんでこの壬生って人、敵陣に単騎で突っ込んでいくの?」


「武士だからじゃないかな」


 ……


「森って子、交通事故って、なに? 怖……」


「ねー」


 ……


「ちょっと! そこでミサイルはないって! 絶対次のターンヒュドラに落とされちゃうよ!」


「大丈夫! 大丈夫だから! 任せて!」


 ……


「なんですり足の有用性を理解できないのー? もう! 貸して! 私がやるから!」


「そんな……学校パートだけはやらせてください!」


 ……



 気が付けば朝。盛り上がりに盛り上がり、一睡もせずプレイした結果、見事Sランククリアを果たして二人で歓声を上げそのまま爆睡。起きたら昼過ぎ。やってないのにやっちまったと急ぎ支度を整えて、追加料金を払ってそそくさと帰路を辿るのだった。初体験失敗である。


「……」


「……」


 昼下がり、青空は太陽に染まりオレンジ色が差し込んでいた。青春のほろ苦い一ページが刻まれた俺達はそんな中をしばらく無言で歩き続けていたのだが、ふいに彼女が「ねぇ」と一言零し、立ち止まる。


「うん?」


「できなかったけどさ」


「……うん」


「また、来ようね」


「……うん!」


 付き合うってのは、そういう事ばかりじゃない。

 二人が楽しければ、それでいいじゃないか。


 俺は帰った後、そういう動画を観終わってから、そんな事を考えた。

 恋愛って、いいもんだなぁ……

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