ハムスター、想い出
博雅(ひろまさ)
ジャンガリアンハムスター
高校生の頃、ジャンガリアンハムスターを飼い始めた。
最初は男の子。ハムちゃんと名付けた。
ひまわりの種が大好きで、誰に教わるでもなく、端から端へと器用に殻をむき、ぽいっと投げ捨てて中身をかじかじするのだ。
ハムちゃんは、初めての飼育ということもあってか、だいぶ早く慣れてくれたように思う。ケージの横辺りに開閉するドアのギミックがあるのだが、散歩をせがむ時は、いつもその近くでうろうろしていた。ドアを開けると、真っ直ぐに手の上に登って来た。
亡くなって後だいぶ経ってから知ることになるのだが、ハムスターにひまわりの種をあげるという行為は、人間に毎日ステーキを食べさせるようなものだという。
とまれ、ハムちゃんが半年ほどして大人のハムちゃんへと変貌を遂げた、そう思ったタイミングで、今度は二匹目──女の子──のハムスターをお迎えしたのである。名を、スタちゃんという。
ハムちゃんもスタちゃんもよく脱走した。ケージにある僅かな隙間から逃げ出すのだが、特にスタちゃんには困らされた。二日程度行方が知れなかったのである。だが三日目くらいの晩、夜中に、寝ていた部屋のタンスの裏から、ごそごそ、ごそごそっという音がした。これだ! と思った僕は、急いで懐中電灯を持ってきて照らす。
やはり、大量のティッシュ(床材にするためだ)とともに、スタちゃんの姿があった。僕は呆れかえるとともに、自らのケージ管理能力のなさをも嘆いた。
☆ ☆ ☆
両方がいい塩梅の年齢層に達したと判断したので、お見合いをさせることにした。ケージは当然、別々に飼育してある(Oし合いを防ぐためだ)。最初はそれぞれのケージを、1cmくらい離して置いてみた。
ハムちゃんも、スタちゃんも、お互いに触れようとするのか、かじってやろうとするのか、ケージの金網の隙間から手を、ほいっ、ほいっと出して何かに必死である。
日をそこそこ置いて、ケージを極限にまで近づけてみる。かじり合いはしなさそうだ。
また日を置いて、今度こそいい雰囲気になりそうだったので、二匹を同じ机の上に放してみる。ケンカはしない。攻撃するそぶりすら見せない。お互いの匂いを確認し、鼻でつんつんしたりしている。ただ、ハムちゃんが交尾の体勢をとるかと言われればそうではない。
その夜、一緒のケージ(大きい方)に入れて、その夜はケージに覆いを被せてあげた。タイミングよく覗くのだが、その時、確かに交尾中なのを確認できた。(´・ω・`)
☆ ☆ ☆
子どもはすぐ生まれた。7匹である。
最初、なんだろう、ぴよぴよ言ってるな、まさか、と思って、人間の匂いがついていないであろう割り箸を用意し、スタちゃんの巣箱を覗く(思えば、これが、一番やってはいけない行為だった)。紅色の小さいハムたちがうごめいていた! 感動である。
しかし、数日後、一匹が何やらティッシュの下に頭だけを隠して動かなくなっているのを見つける。恐る恐るティッシュを動かす。
頭は、もぎとられていた。
どうやら、割り箸を触ったのと、覗いたことにより、スタちゃんに極度のストレスを与えてしまったようだ。これは未だに僕も反省しているところである。
時間は過ぎ、子どもたちもすくすくと育っていった。
手に乗せてみると、怖がって狭い場所を探そうとするのか、指と指の間の股に入り込もうとする。こそばゆかったのを覚えている。
また、高さの概念がないということもわかった。
床のプレートに赤ちゃんを乗せると、大人のハムならば高さを判断して飛び降りないはずなのだが、赤ちゃんは何も知らないので、突進してプレートから落ちてしまうのである。やわらかい布団の上であってよかったと今でも思う。
子どもたちは、僕が後に飼育することとなる一匹を残して、僕の知り合いや妹の知り合い、保育所の知り合いなどにもらわれていった。今考えると無責任な繁殖である。これを読んでいる「ハムスターをつがいで飼いたい」と思っておられる方は、自分で育てることができるか、万が一無理だと判断したら(僕のように)引き取り手がありそうか、というのを考えてから飼育してほしい。偉そうに言う立場にないのは重々承知しているが、どうしてもハムちゃんを飼育してみたい場合、ぜひ最初は、少なくとも、一匹だけを飼育することをおすすめする次第である。
☆ ☆ ☆
別れは当然、やってくる。ハムちゃんもスタちゃんも死んだ。二匹とも、庭の木の下に埋めてあげて、急いで作った墓標──ハムちゃんのはか、スタちゃんのはか──を立ててあげた。
かじるもの・特に乾燥とうもろこしが大好きだったハムちゃん。ハムちゃんを超える勢いで、一晩中走り続けるのが大好きだったスタちゃん。
今となっては遅いかもしれないけれど───、
合掌。
ハムスター、想い出 博雅(ひろまさ) @Hiromasa83
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