魔法少女♡メルティドール
宵宮祀花
永遠のヒロイン
キラキラかわいいピンクの衣装。揺れるツインテールもピンク色。大きなリボンはヒロインの証。
「平和を乱すかいじゅうさんは、このメルティドールが成敗しちゃうんだから!」
ビルの頂上で仁王立ちし、ビシッと指をさす一人の少女。
その傍らには小さな羽で空を飛ぶキャンディブルーのテディベアがいた。
視線の先にはビル街の合間に聳える巨大な紫色のドラゴン。のような謎の生き物。当然、現代日本にいてはならない存在だ。海外の児童書か、それとも映画か。架空の世界で生きているはずのそれは確かに東京ど真ん中の交差点に存在していて、大地を揺るがすような雄叫びと共に紫色の炎をまき散らしていた。
足踏みをすればアスファルトの地面が割れ、尻尾を振ればビルが崩れる。紫の炎はコンクリートをも溶かし、怯える人々に絶望を突きつける。
人々は燃え盛る炎やドラゴンの足踏みから逃げ惑い、泣き叫んでいた。
『メルティドール、相手は強敵だよっ! 油断しないで!』
「わかってるって! いつもみたいにドカーンとやっちゃうよっ☆」
空飛ぶテディベアにメルティドールと呼ばれた少女は、大きなハートの宝石と羽がついた可愛らしいステッキを構え、スッと息を吸い込んだ。そして、
「必殺! メルティ♡ラブハート!」
大きな声でそう叫ぶと、ステッキの先端についているハートの宝石からピンク色のビームが敵めがけて放たれた。ビームの外周をハートのリングがいくつも連なって、暴れるドラゴンをピンクのハートで染め上げていく。
やがてドラゴンはぐんぐん小さくなっていき、最終的にメルティドールの両手にも収まる大きさの、シャーベットパープルのドラゴンのぬいぐるみとなった。
『やった! メルティドールのラブパワーが届いたよ!』
「うんっ! 早く迎えに行かなきゃ!」
メルティドールはドラゴンが暴れていたところまで真っ直ぐに飛んでいき、地面に落ちて鳴いているドラゴンを拾い上げる。ドラゴンは先ほどまでの暴れっぷりが嘘のように、まるで親とはぐれた子犬の如きおとなしさを見せていた。
「さあドラゴンさん、これからはわたしとずっと一緒よ。もう寂しくないからね」
『きゅいっ♪』
可愛らしい声で鳴きながら、メルティドールの指先に頬ずりをするドラゴン。
その様子を見た街の人々は、ボロボロの格好でメルティドールを取り囲んだ。誰も彼もが傷ついていて、疲弊していて、いますぐにでも温かい家に帰りたいだろうに。それでもメルティドールの元へと歩み寄ってくる。
「メルティドール、ありがとう!」
「私たちを助けてくれてありがとう!」
「もう少しで全部壊されちゃうところだったよ」
「うえぇぇん! こわかったあぁ!」
煤汚れに塗れた顔でお礼を言う人、恋人らしき女性を支えながら頭を下げる男性、母親と思しき女性に抱かれながら泣きじゃくる子供。ありとあらゆる人々が、感謝を告げている。
メルティドールは感激の涙を浮かべて、人々からの感謝を胸にしまった。こんなに傷ついているのに、痛い思いをしたんだからもっと早く助けてほしかったと言ってもいいはずなのに。誰もメルティドールを責めたりはしなかった。
零れそうになる涙をぐっと堪え、大きく息を吸う。
「みんなの平和のためなら、わたしはいつだって駆けつけるからねっ☆」
メルティドールは魔法のステッキについている宝石と同じくらいキラキラ輝く瞳を笑顔の形に変えて、ピースサインを送った。
そしてふわりと浮き上がると、市民の皆へ向けて手を振りながら街を去った。
壊れかけの街では、メルティドールへ向けた感謝の声と明るい声援が、いつまでもいつまでも止まなかった。
いつからか、東京に『かいじゅう』と呼ばれるモンスターが現れるようになった。かいじゅうは突然現れ、街を壊し、平和を乱す。彼らは人の言葉を話さない。ゆえに何故破壊を繰り返すのか、その原因は未だ判明していない。
世界制服か、ただの破壊衝動か、それとも他に理由があるのか。
何処から現れ、何処へ消えるのか。なにが原因で発生したのか。隕石か、それとも化学兵器による突然変異か。あるいは異星からの侵略か。
わからないものは怖い。それがただ正体不明なだけでなく、実際に日常を脅かしているのなら尚更だ。
そんなとき現れたのが、[[rb:魔法少女 > マジカルヒロイン]]メルティドールだった。
彼女はかいじゅうと同じく突然東京に現れ、不思議な魔法でかいじゅうをかわいいぬいぐるみに変えてしまった。
最初こそ市民たちは元かいじゅうのぬいぐるみなど燃やしてしまおうと叫んだが、メルティドールが「とろける愛の魔法で悪の心はなくなったから大丈夫」と告げると人々からも敵愾心はなくなった。デモ行進のように「燃やせ!」「壊せ!」コールが上がっていたのが嘘のように、皆が心を静めたのだ。
愛は世界を救う。愛があれば寂しくも苦しくもない。愛されていれば満たされる。だから愛で満たされたいま、悪いことなんか一生出来ない。その言葉を、市民たちは信じてみることにしたのだ。
それからというもの、メルティドールは暴れるかいじゅうを愛で次々ぬいぐるみに変換していった。そして一度ぬいぐるみになったかいじゅうは、二度と暴れることはなかった。それどころか、テディベアに至っては魔法少女アニメの相棒マスコットのように、メルティドールと平和を取り戻すお仕事までしているのだから。
確かに愛がかいじゅうを救い、街を救ったのだと納得せざるを得なかった。
お陰でいまメルティドールの部屋には、たくさんのぬいぐるみたちがいる。
魔女帽を被ったカボチャ色の猫、ピンクのウサギ、今回の任務についてきた水色のテディベアに、新入りのシャーベットパープルのドラゴン。
みんな、最初はかいじゅうだった。
猫は黒豹のような大型肉食獣の姿で街中を駆け抜けており、いくつもの交通事故を巻き起こしていた。ウサギはその力強い後ろ足で飛び回り、地震のような揺れを街に起こして何人もの怪我人を出していた。テディベアは元々グリズリーのような大きな熊で、鉄塔によじ登って停電騒動を起こした。
いまはかわいいぬいぐるみだけど、かいじゅう時代は大暴れだったのだ。
「ねえクマさん、かいじゅうさんってどうして暴れちゃうのかな?」
目尻に涙を浮かべたまますやすや眠るドラゴンを胸に抱き、ベッドに腰掛けながらメルティドールが呟く。
彼女は魔法少女の衣装から普段着に替わっており、しかしテイストは衣装と近い、ピンクとリボンとフリルが使われた十代少女向けメゾンの洋服だった。胸の中央にはメゾンのロゴである『ファンシー[[rb:♡ > アイ]]ランド』の文字と虹のイラストが描かれていて、十四歳の少女にしては服の趣味が少し幼い印象を受ける。
『……きっとさみしいんだよ』
「さみしいと暴れちゃうの?」
『ほかの方法を知らないのさ。人間の赤ちゃんが泣いてお母さんを呼ぶしか出来ないようにね』
「そっかぁ……」
メルティドールはそのままの体勢でベッドに転がり、胸の上で眠るドラゴンの頭を優しく撫でた。枕元で寝ていたカボチャ色の猫が片目を開けて欠伸をし、また静かに寝息を立て始める。ピンクのウサギは自慢の脚力でベッドに跳び上がると、猫と逆の枕元でお座りをした。
『さあ、今日はたくさんがんばって疲れたろう。もうおやすみ』
「うん。……ねえクマさん」
『なんだい?』
「クマさんは、さみしくない?」
メルティドールの問いかけに、テディベアは丸い瞳をぱちりと瞬かせた。
『もちろんさ。キミやみんなが一緒だからね』
テディベアがそう答えると、メルティドールは安心した笑みを浮かべた。そして、目を閉じたのを確かめたテディベアも寄り添うように体を横たえた。
眠るときはいつも皆と一緒で、だからこそメルティドールはさみしくなかった。
* * *
「おっはよー!」
後部扉から教室に飛び込みながら声をかけると、クラスメイトが一斉に振り向いて友人たちが表情を明るくさせた。
ショートカットの活発なスポーツ少女と、ボブカットのお菓子作りが趣味な少女、ロングヘアの読書が趣味な少女の三人だ。全くタイプが異なる四人だけれど、中学に入って初めての班行動で一緒になってからすっかり仲良くなったのだ。
「おはよ!」
「ねえ、昨日のメルティドールの活躍見た!?」
友人の言葉にドキリとしながらも、笑顔で「も、もちろん! テレビでだけど」と取り繕った。
自分がメルティドールであることは誰にも秘密で、友人たちは勿論のこと、両親も自分の娘が魔法少女だなんて夢にも思っていない。
特別顔を仮面で隠したりはしていないが、変身すると魔法の力で正体がわからなくなるのだとか。
「かっこよかったよねー!」
「あんなおっきいかいじゅうまで大人しくさせちゃうんだもんね」
「たぶんあたしたちと同い年くらいでしょ? それなのにかいじゅうと戦ってるとか凄すぎだよね!」
「そんけーしちゃう」
友人三人がスマートフォンの画面を覗きながらキャッキャとはしゃぐ姿に、内心で焦りを抱きながらも「すごかったよね!」と不自然にならない程度に同意した。
メルティドールを褒めるのは、熱い自画自賛に他ならない。
かといって「そう? わたしは別に」などと言おうものなら、彼女たちにとってのヒーローを貶すことになる。男子の中にはメルティドールをただの目立ちたがりとか大したことないヒーロー気取りだと言って腐す者もいるが、さすがにそれと同じにはなりたくなかった。
「これこれ! 最後の笑顔とピースサインめっちゃ最高なの!」
友人の一人がスマートフォン画面を見せながら、興奮した様子ではしゃぐ。
其処には、立ち去り際に市民たちに向けた笑顔でピースサインをする様子の画像とネット記事があった。見出しには『魔法少女メルティドール変わらぬ活躍』とある。
他にもメルティドールの働きを讃える記事や、かいじゅうについて議論する記事、魔法少女とかいじゅうとの関連性を調査したものの、なにも掴めなかったという個人ブログなどが並んでいる。
「この笑顔を見ると、きっと大丈夫って気持ちになるよね!」
「わかる! なんかすっごい安心するんだよねー」
「あはは……うん、そうだよね」
不自然にならないような同意や褒め言葉は、案外難しいもので。どうしてもどこか上の空のような物言いになってしまう。それでも熱中している友人たちはあまり気にしていないようで、メルティドールの活躍をまとめた記事をあさっていた。
「……でもさあ、メルティドールはかっこいいけど、早く平和になってほしいよね」
そんな中、不意に落とされた友人の言葉に、愛想笑いが凍り付いた。
「そうだよね……かいじゅうが出たら怪我する人だっているし、それがいつうちらに向くかもわかんないんだもん」
「いつ出てくるかわかんないしさぁ、もしメルティドールが近くにいなかったらって思ったら怖いよね」
「ねー」
彼女たちの意見は尤もだ。
危険なんてないほうがいいに決まっている。
もし授業中に学校のど真ん中にかいじゅうが出たら、大変なことになってしまう。先日見たあのビルのように学校が崩れてしまったら。考えただけで怖くて仕方ない。戦う術がない友人たちなら、尚更怖いだろう。
当たり前のことなのに、考えもしなかった自分に気付く。
「何にしても、早く元の世界に戻るといいよね」
友人の言葉に「そうだよね」と同意したとき、胸の中心がズキリと小さく痛んだ。原因が何故なのかわからず、首を傾げる。制服のリボンごとシャツを掴んで、じっと痛んだ胸を見下ろす。
チクチク、ズキズキ。
何故、思いもしなかったんだろう。かいじゅうなんて恐ろしいもの、出ないほうがいいに決まっているのに。何故。
「どうしたの?」
「えっ?」
ぼうっと考え込んでいたら友人の一人が顔を覗き込んでいて、思わず目を丸くして仰け反ってしまった。あわあわと手を振り、姿勢を正す。
「う、ううんっ、何でもない! 寝坊して朝ごはん食べ損ねちゃったから、ちょっとお腹空いたのかも……あはは……」
後頭部を掻きながら笑ってみせると、友人たちは「なぁんだ」と言って笑った。
ちょっとした変化にもすぐに気付いて心配してくれる、なんていい友達だろうか。やっぱり、かいじゅうなんて出なくなったほうがいい。だって彼女たちが傷ついたら立ち直れないから。
突き刺すような胸の痛みを無視して、そう結論づけた。
「じゃあ、私がとっておきをあげちゃおう」
「えっなになに?」
「ふっふっふ……まあ、待ちたまえよ」
お菓子作りを趣味としている友人が、もったいつけて鞄を漁り始める。ガサゴソと音がするのを三人で見守っていると、猫型ロボットがそうするようになにかを大きな動作で取り出して掲げて見せた。
「じゃじゃーん! ブラウニーだよ!」
友人の一人が鞄から取り出したのは、小さなビニル袋に入ったブラウニーだった。友達全員分を包んできたようで、色違いのリボンがついた小袋が四つある。
「えーすごい! 自分で作ったの?」
「もち! バレンタインの練習でね。試作品でも良かったら食べて」
黄色がショートカットの子に、オレンジが読書好きの子に、そしてピンクを最後に渡されて、キラキラと目を輝かせた。作ってきた本人もしっかり自分の分を確保しており、リボンは水色だった。
「うわあ、ありがとう! めっちゃ美味しそう!」
「うちらまでいいのー?」
「やったあ!」
朝のHR前の賑やかな自由時間が、より賑やかになる。
どこかほろ苦くも甘さが丁度良いブラウニーを食べていると、友人がぽつりと。
「メルティドールも、こんなふうに戦わなくていいようになるといいね」
「やっぱさ、かいじゅうが出なくなって、ヒーローがいらない世界が一番だよね」
「うんうん。あんな危ないこと、なくなったほうがいいもんね」
平和を願う友人たちの会話を、何故かどこか遠いことのように聞いていた。
自分もずっと、平和を願っていたはずなのに。誰も傷つかない世界を目指していたはずなのに。何故胸が痛むんだろう。何故寂しいんだろう。
ヒーローのいない世界。ヒーローのいらないせかい。それがきっとあるべき姿で、目指すべき未来で――――
チクチクとした痛みは一日中消えることなく胸に居座り続け、帰宅するなり制服を脱ぎ散らかして、部屋着のワンピースを頭から雑にかぶった。
『おかえり! どうしたの、メルティドール?』
「んー……何でもない」
ふよふよと飛んできたテディベアを抱きしめ、メルティドールはベッドに腰掛けてそのまま仰向けに倒れた。何でもないと言うわりに、表情は冴えない。朝は元気よく登校していったはずなのにと、テディベアはまん丸な首を傾げる。
『何でもないって顔じゃないよ? ぼくにも話せないことかい?』
「うーん……わたしもよくわかんないんだぁ……」
心配そうにぽてぽてと寄ってきたドラゴンが、胸の上に転がる。
まるで慰めてくれているようで、メルティドールはくすりと小さく笑った。
「わたしって、平和のために戦う魔法少女だよね?」
『もちろんだよ。ずっとそうしてきたじゃないか』
迷いなく答えたテディベアを見つめ、ふと視線を逸らし、俯いて考え込む。なにを疑うことがあるのかと真っ直ぐ言われて、メルティドールの中で浮かびかけた疑問が形を失いつつあった。
もう少しで言語化できそうだったぼんやりとした不安が、ほどけていく。
「そう、だよね……?」
『キミのお陰でぼくたちはいまこうしていられるんだよ? 暴れることしか出来ずにたくさんの人を傷つけてしまったぼくらに、キミが愛を教えてくれたんじゃないか』
「うん、……ありがと。そうだよね。わたし、ちゃんと出来てるよね」
『この前だって大活躍だっただろ? ほら、その証拠がそこにいるよ』
胸の上で伏せているドラゴンを見れば、宝石のような円らな瞳でメルティドールを見つめている。血走った目で破壊の限りを尽くしていたドラゴンと同じ生き物だとは思えない変わり様だ。それはテディベアや他の子も同じなのだが。
「うん。……ごめんね、迷うなんてわたしらしくないよね」
『そんなことないさ。キミは魔法少女である以前に一人の女の子なんだから。悩みも不安も抱いて当然だよ。そしてそんなときのためにぼくらがいるんだ』
テディベアは空中でくるりと回って見せ、メルティドールの頬にキスをした。
『いつだってぼくらはキミの味方だよ!』
「えへへ、ありがと!」
ドラゴンとテディベアを一緒に抱きしめていると、ウサギが跳び上がって自分もとすり寄ってきた。猫も近寄っては来ないが横目でメルティドールをじっと見ている。くっつきたくなるとすぐ寄ってくるウサギも構ってほしくても素直に言えない猫も、みんなまとめて抱き寄せた。
「みんながいるから、わたしさみしくないよ」
この日も、みんなと一緒にくっつき合って眠りについた。
そばにいればさみしくないと思ったから。実際、昼間悩んでいたわりにはすんなり眠りにつけた。だから、きっと大丈夫。
そう、思っていた。
少なくとも、メルティドール本人は。
――――ブチッ。ブチブチッ。
糸が弾ける音がして、テディベアは閉じていた目を開けた。
『……ああ。また始まってしまったね』
丸くなって寝ていた猫も目を開けて、小さく欠伸をしてからお座りの姿勢になる。ウサギも真っ赤な瞳で音の発生源を見つめている。
『今日はだめだと思ったんだ』
糸が千切れる。ほつれて落ちる。
ブチブチ、ブツン。
音はメルティドールの胸元から響いていたが、胸の上に乗せて寝ているドラゴンの音ではなかった。更にその下――――音は、メルティドール本人から聞こえていた。服が破れたのではない。ボタンが千切れたのでもない。
テディベアは器用にメルティドールのパジャマのボタンをいくつか外して、胸元をあらわにした。
『今日のはずいぶんと大きな傷だね。ドラゴンを超えるかも』
糸は、メルティドールのツギハギの胸から千切れてほつれていた。
胸の真ん中に貼られているピンク色のハートの布が、胸から外れようとしている。ハートを縫い止めているピンク色の糸が、次々に千切れていく。
メルティドールを形作っている愛の象徴が、壊れてしまう。
『不安もさみしさも、ぜんぶまとめてしまおうね』
テディベアが歌うように言うと、メルティドールの胸に空いた穴からモヤモヤした灰色の綿が溢れ出た。灰色の綿は最初こそモヤの塊だったけれど、いつしか何らかの動物にも見える形を取り始めた。
目も鼻もない、作りかけのぬいぐるみのような形。それが徐々に輪郭を得ていく。
『さあ、お行き。もうさみしくないように』
綿の塊はふわりと浮かび、ふよふよ漂ったかと思うと姿を消した。
それを見送ると、テディベアはどこからともなく針とピンク色の糸を取り出して、メルティドールの千切れた胸の糸を縫い直した。一連の出来事を見守っていた猫が、窓の外をじっと見つめる。ウサギは哀しげに俯くドラゴンに寄り添って、スリスリと慰めるようにくっついた。
ほつれた糸を捨て、新しい糸で縫い止める。これでもう暫くは大丈夫。
何処か遠くで、かいじゅうが哀しげに吠える声がした。
『これからもキミは、平和のために戦う魔法少女だよ。……ずっと』
魔法少女♡メルティドール 宵宮祀花 @ambrosiaxxx
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