SNSのない時代、手紙から始まる交流が絆を繋ぐ。

 私がヘルマン・ヘッセを読んだのは『車輪の下』からである。晩年の氏が日本人とドイツ語の手紙で交流していたこと、その作家が書簡体の小説を発表し、亡くなられたヘッセに捧げたこと、その小説が評判となり、熱狂的な読者が多数のファンレターを寄せたことも全く知らなかった。かつて作家と一度だけ会ったことのある筆者は、作家が作品に込めた思いを考えていく。
 時代こそ違え、現在ではSNSやカクヨムなどの小説投稿サイトで作者と読者の交流は続いている。たとえ文豪と言われる作家でも、後の世には忘れ去られそうな作家でも、読者に何かを残すことができた作家は幸せなのだと、しみじみ思う。