ブルーローズ
染乃 遥
第1話
「おい、そこのねぇちゃん」
「ん?なにかな?」
「あんた、ブルーローズって知ってるか?」
「手に入れたものは薔薇色の人生を送れるって言われてる伝説のはなでしょ」
「あぁ、そうだ。これから俺らはそいつを探しに行くんだが助っ人が欲しいんだ。ねぇちゃんは魔法使いみたいだし、来ねぇか?」
「お断りだね。それと忠告しておくけどブルーローズなんて探さない方がいいよ。あんなもの見つけても何もいいことなんかないよ」
「うん?なんでだ?」
「私が言えるのはここまでだよ。じゃあね」
そうだ。あんなもの見つけても幸せになんかなれはしない。それを私は、身をもって知っている。半年前のあの時に。
------------------
ざーーーー
「いや〜、助かったよ」
「いえいえ、突然降ってきましたからね」
国から国へ移動中だった私は、突如降り出した雨によってその歩みを妨害されていた。
始めは雨の中を進むつもりだったが、次第に風も強くなってきたのでどこかで休もうかと考えたところで、偶然森の中にぽつんと建つ一軒家を見つけたのだ。
これぞ僥倖と思い、家の扉を叩いて出てきたのが目の前の青年だ。事情を話すと家にあげてくれ、ご飯まで用意してもらった。
「何か恩返ししたいんだけど私にできることはあるかな?」
「気持ちだけで十分ですよ」
「いやいや、それじゃ私の気がすまないよ」
「う〜ん、それじゃあひとつ。危険なことなので無理そうなら断ってもらっても大丈夫です。あなたはブルーローズという花を知っていますか?」
「ブルーローズ?初めて聞くね。けど、名前から考えると青い薔薇かな?」
「その通りです。手に入れたものは巨万の富と幸福を得られ、薔薇色の人生を送れると言われている伝説の花です。私はそれを求めて各地を調査しました。そして、あの山の頂上にあるということが分かったのです」
そう言って青年はこの辺りでいちばん高い山を指差した。木は生えておらず、急傾斜の岩肌が覗き、頂上付近には雪が積もっている。
「僕は1週間後あの山に登る予定です。あなたは魔法使いの様なのでできることなら手伝ってもらいたいのですが、どうでしょうか?」
「確かに、私は魔法使いだよ。私がいれば登山の難易度は下がるだろうね。分かったよ。手伝おう」
「それは助かります」
「しかし、物資は足りるのかい?」
「1週間あるのでその間に集めましょう。幸い、この森には食料が豊富です。防寒具や登山道具は予備があるのでそれを使ってください」
「分かったよ。けど、防寒具は私も持ってるからそっちを使うよ。これでも旅人だからね。そういうのは揃えてあるんだ」
「そういえばあなたも旅をしているんでしたね。そういうことなら、予備は予備として取っておきましょう」
「それじゃあ、1週間後に向けて準備しますか〜」
こうして私は登山をすることになった。それから1週間は登山のための物資集め及び山の確認を行なった。1日目から3日目までは山の近くまで行き、どのルートをどれくらいの速度で登るのかを確認した。4日目から6日目は物資を集めた。火を起こすための木の枝、私の分の食料。肉は脱水させる時間がなかったので私が凍らせて保存が効くようにした。
そして、7日目。登山当日。
「確認ですがあなたは基本的には徒歩で登って行き、傾斜が急な場所や危険な場所を魔法で登る。それでいいですね」
「分かったよ」
「それでは出発しましょう」
こうして登山が始まった。
急な傾斜の多い山のできるだけなだらかな道を登っていく。最初から魔法で頂上まで行けばいいのでは?と考える人のいるが、この高さの山を人一人を抱えて魔法で登ろうとすると魔力が保たない。それに、酸素のある場所からいきなり薄い場所に行くと高山病になる危険性もある。健康面から見ても登山を魔法だけでやろうとするのは危険なのだ。
登山を始めて半日がたった。今は山の3号目といったところ。
「ここまでは順調だね。魔力も温存できてる」
「そうですね。しかし、ここからはそうもいかないでしょう。急な場所が増えますから。それとやはり今日中の頭頂は難しそうです。上に休める場所があるといいのですが」
その後の登山は青年が予想した通り、これまでとは難易度が違った。崖と呼べるほどの急傾斜や巨大なクレバスが増え、魔法で超える機会が増えた。それと予想よりも気温が低くなり、体温確保のために魔法を使わざるを得なくなった。魔力の消費が増え、山の7合目付近で魔力が尽きてしまった。
「今日はここまでにしましょう」
「ごめん。魔力が尽きちゃった」
「仕方ありませんよ。予想よりも気温が低くなりましたし。もしあそこで体温を上げる魔法を使ってなかったら引き返すことになってました。ここまで来れたのはあなたのおかげですよ」
「ならよかった。しっかし、こんなところに洞窟があるなんて、不幸中の幸いだね」
「本当にそうですね。外でテントを張るより寒さが凌げます」
この洞窟は登山の途中で偶然見つけたものだ。普通なら登れないであろう崖の途中にあったのだ。洞窟の中なら安全に夜を越せると思い最後の魔力を振り絞って登ってきたのだ。洞窟の中はかなり奥行きがあり、中で曲がっていたため、外の風が届きにくく夜をより超えるには絶好の場所だった。
「明日は頂上まで行きます。魔法は使えそうですか?」
「魔力は寝れば回復するから明日は魔法が使えるよ」
私たちは食事をしながら明日の予定について話し合っていた。
「魔法というのは羨ましいですね。僕にも魔法の才能があったらもっと早くブルーローズを見つけられてたでしょうね」
「ちゃんと努力しないとまともな魔法は使えないから長所ばかりじゃないんだけどね」
「しかし、使えるのと使えないのじゃあ世界が違うのでしょう?」
「まぁ、それはそうだね」
魔法は確かに便利なものだ。魔法を使えない者からしたら羨ましがるもの分かる。しかし、何事にも良い面と悪い面があるものだ。実際体験してみてそれを良いと捉えるか悪いと捉えるかは本人次第だ。
「今日は明日に備えて早めに寝ましょう」
「うん」
食事が終わり、私たちは持ってきた寝袋を出した。今日消費した体力をできるだけ回復させるため私たちは眠りにつくのだった。
------------------
登山2日目。
昨日に続き崖を魔法を使って登っていく。
崖が増えてきたため、今日は急な崖でも短ければ魔法を使わずロープやペグを使って登っていく。
そして、2日目の登山を始めて半日。
「見てください。あと少しで頂上です」
「よーし、このくらいなら魔法で行っちゃおう」
最後の数十メートルを魔法で登り、ついに頂上まで辿り着いた。
「これは・・・」
「遺跡・・・?」
山の頂上にあったのは街一つ分もあろうかという巨大な遺跡だった。いつのものなのだろうか。並んでいる石造りの家にはツタや雑草が生い茂っている。
私と青年はどちらも何も言うことなく、遺跡の街道を進んだ。なぜここに遺跡があるのかなぜこんな環境で植物が生えているのか分からないけど、その光景は神秘的で私たちから言葉を奪った。
歩き始めてから少しすると開けた場所にでた。どうやら街の広場らしく、中心には銅像が立っている。そしてその足元に、
「あ・・・、ブルーローズだ」
青い花が咲いていた。
「間違いない。これがブルーローズですよ。伝説の」
「これが・・・、綺麗だね」
形は薔薇、色は深青。これまでみてきた花の中でも最も綺麗な花だった。それが銅像を囲うように咲いている。
「僕は今から採取をします。旅人さんはどうしますか?」
「私は、少し周りを探索してくるよ」
「では、30分後にまたここで落ち合いましょう」
そうして私は広場から離れた。確かにブルーローズをもっと見ていたい気持ちはあったが旅人としては、採取して標本にできる花より、この街の景色を見ておきたかったのだ。
そして、一際大きな家を見つけその中に入ってみる。どうやら、この街で最も偉い人が住んでいた屋敷らしい。家の中の作りが他とは違っていた。壁にも絵が描かれている。しばらく探索をしているといくつか石板を見つけた。
そして、そのうちの一枚に青い花が描かれていた。
「ははぁ、なるほどね」
その石板には他にすり鉢で擦っているいる人と何かを飲んでいる人の図が描かれていた。どうやら、昔の人はブルーローズを薬として飲んでいたらしい。まぁ、持っているだけで幸せが手に入る花などあるはずはない。何かカラクリがあると思っていたが、薬なら病を治し売ることができるから確かにお金も幸せも手に入れることができる。これは彼にも見せた方がいいだろう。そう思い私はその石板を鞄の中に入れた。
「丁度30分。何かいいものでも見つけましたか?」
「これ」
私は青年に先ほど見つけた石板を見せた。
「なるほど。幸せと金が手に入ると言うのはそういう理屈ですか。確かにこちらの方が現実的ですね」
「ただ、問題があって何の病気の薬かわからないんだよね。それが分かれば売れるんだけど」
「それは帰ってから調べます。案外、病気じゃなくて漢方みたいな薬かもしれません」
こうして私たちは山を降りた。
帰りは楽だった。道を把握しており休む場所も決まっていたし、気温も上る前の想定と同じくらいまで上がっていた。何の問題も起きず私たちはまた森の家に戻ってきた。
「いやぁ〜、疲れた〜」
「お疲れ様でした。これは今回の報酬です」
「泊めてもらったお礼で手伝ったからいいのに」
「いえいえ、それ以上のことをしてもらいましたよ。それに、ブルーローズの収益を考えたらこれじゃ少ないくらいです。手持ちがもう少しあればよかったのですが」
「なら、ありがたく貰っておくよ。流石に疲れたからもう一泊してもいいかい?」
「僕は依頼が終わったらさようならというほど薄情じゃありませんよ。疲れが取れるまで泊まってかまいません」
「ありがとう」
そのあと私は自分に当てがわれた部屋に入って泥のように眠った。2日ぶりのベットと2日連続で魔力を使い果たしたことで私の意識は普段より遠いところまで行ってしまったらしい。次に起きると何と夕方になっていた。
「しまった。今日出ていく予定だったんだけどな」
流石に今から出るわけにもいかないので、もう一泊させてもらうことにしよう。
「おはようございます」
部屋を出たところで青年が挨拶をしてきた。
彼も私と同じように2日間登山をしたというのになぜか私よりも元気そうだ。
「おはよう。ごめんね。すごい寝ちゃった」
「仕方ありませんよ。なかなかハードな登山でしたから」
「その割にあなたは元気そうだね」
「普段から体を鍛えてますから。それとブルーローズおかげでもあります」
「ブルーローズ?」
「えぇ、ブルーローズを少し調べてみたところ疲労回復の効果があることが分かりました。試してみたところ、既存の薬と比べて効果が段違いです」
「なるほど。それを飲んだから元気ということね」
「まぁ、あとはブルーローズを手に入れたという嬉しさで少し興奮してるのもありますね」
「ふふっ、はしゃぎすぎるとまた疲れるよ」
「ははっ、そうなったらまたブルーローズを飲みましょうかね」
この後私たちは夕食を食べた。2人であの時は大変だったとか、頂上の遺跡のここが綺麗だったとか私たちだけの冒険譚について語り合った。しかし、私たちはまだ真実を知らなかった。あの遺跡、そしてブルーローズの真実を。
------------------
次の日の朝。
私は、青年の声によって起こされた。
「おはようございます。起きてください」
「う〜ん、おはよう、どうしたの?」
1週間以上彼と過ごしてきて、起こされたのは今日が初めてだ。だから、私はこの地点で気づくべきだったのだ。彼のこの異変に。
「もう一度、僕とブルーローズを取りに行ってくれませんか?」
「え〜、何で?流石にもう一回はきついよ」
「そこを何とか」
そう言って彼は私の肩を掴んできた。
「痛っ」
肩に痛みが走る。あまりの強さと突然のことに驚いてしまう。
「一応、魔法なしで登れるところも確認したんだから次は一人で行ってよ」
「出来るだけ早めに欲しいのです。どうかどうかお願いします」
そうして今度は彼は私の前で土下座をした。
「ちょっ!やめてよ」
「どうかどうか・・・」
何を言っても頼んでくる彼に私もイライラが溜まってくるが、ここははっきり断るべきだと思い口を開く。
「どんな理由か分からないけど無理なものは無理。私は本来旅に戻る」
「・・・」
私が強めに断る意思を伝えると青年は頼むのをやめ、立ち上がった。ようやくわかってくれたかと思っていると次の瞬間、いきなり押し倒され首を絞められた。
「かはっ」
「何だよ・・・、たった2日じゃないか・・・、僕はブルーローズが欲しいだけなんだ」
彼はブツブツと何かを言いながら私の首を絞める。その時になって私はやっと彼の目を見た。濁っている。何かに犯されたかのように濁っている。明らかに昨日までの彼の目とは違っていた。
「頼む・・・、頼むよ」
「やめ、て!」
ドコォーン
力ではどうにもできないと思い私は魔法を放った。ただ、首を絞められているという状況で手加減ができなかった。彼は家の壁を突き破り、外の木に頭をぶつけて死んだ。
それが私とブルーローズを求めた青年との間にあった出来事の全容だ。
この後、調べてみて分かったが、確かにブルーローズには疲労回復の効果があった。さらに、他にも体力増強や視力回復の効果まであった。それらの効果と比にならないくらい強く発揮される効果がブルーローズにはあったのだ。それは快楽効果。すなわち、麻薬。薬というのは間違っていなかった。しかし、ブルーローズとは既存麻薬よりさらに強い麻薬だったのだ。言い伝えにある富や幸福をもたらすというものこちらの影響の方がが強かったのだろう。山の上にあったあの遺跡の街が滅んだのもこの花のせいだろう。ブルーローズに依存する人が増え、治安が悪化し滅んだ。
手に入れたものは薔薇色の人生を送れると言われる花、ブルーローズ。青年がそう説明した時、皮肉のきいた謳い文句だと思った。実際それは皮肉だったのだろう。薔薇色の人生と言われれば多くの人は赤い薔薇をイメージする。しかし、薔薇の色は赤だけじゃない。ピンクに白、黄色に橙、そして青。赤い薔薇色の人生が華やかな人生の例えだとするなら、その反対の青い薔薇色の人生は、果たしてどんな人生の例えになるのだろうか?
ブルーローズ 染乃 遥 @serine10509
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます