探偵、某、したためる。

ヨル

第1話

異能アビリティ

生まれつき持っている特殊な能力を人はそう呼ぶ。

異能をもって生まれてきた人々は異能力者とよばれ、異能を持つ人間の割合は、おおよそ家族に一人いるかいないか程度の割合である。

異能力者の多くは東雲学園と呼ばれる、異能力者だけが入学できる学校で青春を送る。

東雲学園の校舎は、普通の学校と見た目に大差はない。

けれども、その中に通う生徒たちはどこか普通とは違っていた。

廊下をすれ違うだけで、誰かが手のひらから火花を散らしたり、空中に浮遊するペンを操っていたりする。


これは、そんな学園の異能探偵の話だ。


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古びた空き教室に似合わない長く、大きい机に、レトロ調の椅子に座るのは先生ことエイミ―・アルバンス。


「先生。今回もさすがの活躍でした!」

「まあね。」


その横に、エイミーの横でものすごい速度でペンを走らせるのはエルマ・バレンタイン。

ペンを走らせる音が心地よい。エイミーが持ち込んだコーヒーセットから深く挽かれたコーヒー豆の香りがする。


「糖尿病になっちゃいますよー」


エルマが少し引きぎみの声で言う。


「推理には糖分が必要だからね」


彼はそう言いながらコーヒーにミルクをいれ、角砂糖を4つ入れた。

コーヒーの香りに、少し甘い香りが混じった。



ガラガラ... 建付けの悪いこの教室の扉があけられる。


「ここ...不可解事件解決同好会であってますか...?」


長めの黒髪のおとなしそうな少女と少しボーイッシュな女の子が入ってくる。


「あってますよー。ご依頼ですかー?」


エルマが手を止め、声をかける。


入学当初、ある事件で容疑者にされたエルマを見事な推理で解決したエイミー。

そこからエルマは彼を慕い、先生と呼んでいる。

さらには、エルマの提案で不可解事件解決同好会を設立し、エイミーの異能探偵としての活動を支えている。


「はい...」


今にも消え入りそうな声であった。


「どうぞすわってください」


エルマに促され、彼女ら二人ふたりはエルマとエイミーに机を挟んで席に座る。


「お名前と依頼について教えていただけますか」

「1年F組のベル・ノワールです...。最近、私の私物がどんどんなくなっていくんです...。小さいもだと文房具とかで、最初は最近失くしものが多いなーくらいに思ってたんですけど...」

「けど...?」


エルマがベルに促すように尋ねると、彼女は少しためらいながらも続けた。


「けど…最近なくなったものが、明らかにおかしいんです。」

「おかしい?」

「…先週、部屋に置いていたカバンがなくなったんです。それはまだいいとして、昨日、鍵をかけておいたロッカーの中身まで全部消えてしまって…。でも、鍵はそのままだったんです。」


エイミーの表情が微かに動く。


「鍵をかけていた?」

「はい。壊された形跡もないのに、中身だけが綺麗さっぱり…。」


ベルの声は震えていた。


「なるほど...。先生どうですか?」


エルマがエイミーに首を少し傾けて聞く。


「ご依頼はその調査と原因究明でいいですか?」

「はい。」

「ご依頼引き受けましょう。」


ベルは先程より少し安堵したような表情になる。

相反するようにボーイッシュな子はこわばった表情でベルに小声で囁く。


「やっぱりなんか怪しくない...?ベルのことは私が守るからさぁ...」

「そんなこと言ったら失礼だよルーちゃん...」


「あの...お隣の方は...?」


少し控えめな声でエルマが二人に向かう。


「...同じく1年F組のアイル・ケストレルよ」


不貞腐れた表情で、さも不満足ですと言わんばかりの顔をしている。

その刹那、


「先生...?」


エルマの声は、立ち上がったエルマに向けられたものだった。


「失礼」


エルマはアイルの前に立つと、突然手を取った。


「なっ何よ?!」


アイルがそう言いながら手を振りほどくと同時に、彼は小さく何かをつぶやいた。


エイミーの瞳に赤色が宿る。

異能アビリティを使用している間、使用者は目の色が変化するのである。


「アイル・ケストレル。君は美術部の所属だろう。」

「...何で知ってるのよ」

「君のこの手にできているまめが教えてくれたさ。」

「ふん。その程度の推理誰でもできるわ。」


エイミーはニヤリとする。


「ではこんなのはどうだろう。どうやら最近ネイルを始めたようだが、気になるでも男性いるだろうかね?」

「なっ!?」


図星をつかれたのか、アイルの顔が赤く染まる。


「先生そのくらいにしてください。女の子に対してノンデリが過ぎますよー。」


呆れたような顔をしたエルマが言う。


「これは失礼。」


取ってつけたような声色で謝罪をし、エイミーは続ける。


「ただ、これである程度は信用していただけるのではないかな?」

「先生、いい加減毎回依頼に来てくれた人にそれやるのやめましょうよー。」

「いいじゃないか、これなら手っ取り早く依頼者の信頼を勝ち取れるだろう?」

「まあ、そうですけどぉー。」


不服そうなエルマに対して、満足げな表情を浮かべるエイミー。


「ベル、もう行こ!!」


無理やりベルの手を取るアイル。


「で、でも助けてくれるって言ってるんだよ?」


「いいから!やっぱり私がベルを守るから。ね?!」


一層の力が加わったのか、ベルは引っ張られるように教室の扉へ向かっていく。


「うう...せっかくお時間いただいたのにごめんなさい!」


ガラガラと音だけが部屋にこだまする。


「あちゃー。...先生。」


エルマは所謂ジト目でエイミーを見る。


「ふむ。エルマ、現場を見に行こうか。」

「えっ。」


颯爽とエイミーは扉へと向かっていく。


「先生待ってー。もう!」




二人並んで、ごく普通の校舎の廊下を歩く。


「アイルさんあんな感じでしたけどいいんですか先生?」

「そもそも依頼主は彼女でなくベルさんだからね。それより、今の僕の見立てだと少しこの依頼は面倒な事になるかもしれない。」

「面倒?」


そうこう話していると、例の1年F組の教室に到着する。

授業が終わり、放課後であるため数人のみが教室に残っていた。


「エルマ、教室に残っている人にどこのロッカーがベルさんの物なのかと、アイルさんとベルさんはどういった人物なのかを聞いておいてくれないか。」

「ロッカーはわかるんですけど、アイルさんとベルさんについて聞くのはなんでですか?」

「まあ、いいから頼んだよ。」


エイミーには何かしらの考えがあることはわかっているので、エルマは多少不服ながらも聞き込みを開始する。


「すみませーん。ベルさんのロッカーってどこですか?」


エルマは残っていた男子生徒のグループに話しかける。


「え、あ、ああ、アイルさんロッカーはそこの上から2列目の左から3番目だけど...」


すこし顔を赤面させ照れながら、ひとりの生徒が答える。

エルマはかなりの美形であるため、こういったことがしばしばある。


「ありがとうございます!。あともう一つだけ聞いてもいいですかー?」

「も、もちろん。」


エイミーがエルマに聞き込みを頼んだのは、対男子生徒に関しては、抜群の効果を発揮するという部分が大きい。


「アイルさんとベルさんってどんなひとですかー?」

「えっと、アイルさんはちょと強気な性格っていイメージってくらいかな。」

「ベルさんは完全にクラスのマドンナって感じー。」

「ふむふむ。ありがとうございましたー!」


すこし残念そうな顔をする男子生徒を背に教室を出る。


「ありがとうエルマ、少し全体像が見えてきたよ。」


教室のすぐ横で聞き耳を立てていたエイミーがエルマを迎える。


「それならよかったですけど...」

「さあ、少し時間をおいて教室に誰もいなくなったらロッカーを調査させてもらおう。」




数十分ほどして、教室に誰もいないことを確認し教室に入る。

エイミーがベルのロッカーを確認する。


「ロッカーのカギ確かに壊れてないですねー。」


エイミーによって開かれたロッカーを見ながらエルマが言う。


次の瞬間、彼の目に赤色が宿る。


エルマはその様子をすぐそばで見守っている。


(...確かにロッカーの鍵はそのままに見える...が内側から不自然な形で破壊されている。力任せでない、これはそう、まるで"磁力"によって...)


赤色がすこし薄くなり、そのままだんだん赤色がすっと抜ける。


「エルマ、追加調査だ。ベルさんとアイルさんの関係者周りと...

"アイルさんの"異能"について。」



























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