薔薇とお酒と素敵な夫婦の物語……
アニマル
第1話 大好き!
都内 某日 その夜──
数日前に仕事でトラブった挙句に旦那に八つ当たりまでして気まずくなってしまった私は今日も仕事に身が入らず、ただなんとなく仕事をこなすだけの日を過ごしてしまった。
もやもや…… ううん。 イライラする……
そんな負の感情に支配されている私の目の前に一匹の黒い猫が舞い降りる。
「! 猫ちゃん!? こんなところに…… 野良かしら? でも凄く綺麗な毛並みだし……」
その猫は私の右足にすり寄ってきてはその可愛らしい仕草と表情で私の負の心を癒してくれる。
「かっ…… 可愛い過ぎる!」
だがそんな猫ちゃんは私の足の裾を軽く引っ張ってくる。
「? どうしたの? そんなに引っ張って」
「ニャー」
「…… もしかして、ついてこいって言ってるの?」
「ニャー」
まさかね…… でもこのまま帰るのも気が重いし、もうちょっとこの猫ちゃんに付き合ってみようかしら。
私は猫ちゃんの後をついていった。
そして──
「こんな所にお店? BARか何かかしら?」
「え〜っと…… BAR&喫茶
「ニャー」
「あっ! 猫ちゃん!」
猫ちゃんは一枚開いている窓からそのお店の中へと飛び入っていった。
「…… ここの子なのかな……」
「せっかくだし…… 今日は飲んでこうかな」
カランカラン──
私はお店のドアを開け、中へと入っていく。
「いらっしゃい」
「おひとり様ですか? お好きなお席へどうぞ」
中には長髪を後ろに束ねたイケメンマスターがカウンターから声をかけてくる。
二十代後半位かな? ていうか超イケメンだな……
まあうちの旦那のゆるふわ癒し顔には負けるけど……
てか喧嘩中でも心の中で惚気てる私って一体……
それはそうと中は…… 七十代位の男女が一組…… 夫婦かな?
店内はその一組がテーブル席に座っていただけだったので正直席は選び放題だったが、一人だった私はそのままカウンター席の方へと向かった。
「何にします?」
「お任せしてよろしいでしょうか? 多少強くても構いませんので」
「かしこまりました」
そういってマスターは見事なまでに美しい、それでいて無駄がない所作で手早く一つのカクテルを用意する。
「どうぞ」
「ありがとう」
「! 美味しいですね」
程よい…… それでいて無理のない強さ…… おまけにさっぱりとしていながら舌に印象が残る絶妙な味……
本当に美味しい……
何となくだけどわかる。
ただ単にレシピ通りに作っただけじゃない。
多分顔に出ていたであろう私の精神状態を考慮して出してくれたカクテルなんだ。
この人、実は凄いバーテンダーなのかも……
「本当に美味しいですよ。 正直びっくりした位です」
「ありがとうございます。 お客さん、うちの店は初めてですよね?」
「ええ。 さっきそこの道で黒い猫ちゃんと会って…… そしてらここを案内されて」
「ああ、やっぱりあいつの仕業ですか。 すいませんね。 あいつ何か酒飲みたそうな顔してる人見つけるとここへ引っ張ってくる癖があるんですよ。 今は二階の方でまったりしてるんじゃないですかね」
「そうなんですか! ってやっぱり私そんな顔してました?」
「ええ。 正直言って」
「ふふ、ほんと正直ですね」
裏表のなさそうな人。
思わず笑ってしまう自分がいた。
「綺麗なお店ですね。 この通りもたま~には通るんですけどこんなお店があったなんて今まで気付きませんでしたよ。 最近できたお店ですか?」
「いえ、一年位前からですかね。 といってもうちは気まぐれなんで気の向いた時にしか店は開けないんですがね。 おまけに奇数日はBARじゃなくて喫茶店にしてる上にどちらも夜中しか店を開けてないんで知らなくても無理はないですよ」
「そうなんですか! どうりで今まで気付かなかったわけだわ…… 失礼ですがそれでお店がやっていけるものなのですか?」
「まあ半分位は趣味でやってる様なものなんでね。 昼は昼でキッチンカーを使って気ままに外で飲み物とか出しててそれがそこそこ入ってくるんでまあなんとかやれてるってとこですかね」
「へえ…… なんだか変わった営業方法ですね」
「はは。 よく言われます。 お客さんはお仕事帰りで?」
「ええ。 まあ」
「こんな時間まで大変ですね」
「いや、マスターも人の事言えないと思いますけどね。 私、出版社に勤めててこの間からちょっとトラブっちゃってて、さっき
「そうだったんですか。 大変ですね」
「よっこらせっと」
「マスター。 ご馳走様」
「は~い」
マスターと話してる後ろで先程の老夫婦が声をあげる。
どうやらお帰りの様だ。
「また来るよ」
「今日も素敵なお酒と料理ありがとうねえ」
「ああ、いつもありがとうございます。 気を付けて帰って下さいね」
「「おやすみなさい」」
「おやすみなさーい」
会計を済ませた老夫婦は満足そうに店を去っていった。
その表情を見てマスターも嬉しそうだ。
「あんなご年配の方もいらっしゃるんですね。 それにさっきチラッとテーブル見ましたけど、BARの割には結構本格的な料理も出してるみたいですし……」
「ええ。 あのお二人はご夫婦でこの店が出来た頃からの常連さんなんですよ。 今日はお二人の結婚記念日だったので前々からこの日はお店を開けておいてほしいと言われてたんでそうさせてもらったんです。 料理を作るのも好きなんでそこら辺は割と自由に気の向くままやらせてもらってます」
「へえ! そうだったんですね!」
「未だにそこらの新婚顔負けのラブラブっぷりで見てるこっちがテレちゃいそうになりますけどね」
「だけどほんと素敵なご夫婦ですよ。 自分もああいう年の重ね方ができたらなって憧れてます」
「確かに…… おじいちゃんおばあちゃんになってもお互いちゃんと愛し合ってるんでしょうね…… 本当に仲良さそうだったな…… 羨ましい…… 私もあんなだったらな……」
「失礼ですがご結婚を?」
「ええ。 というか実は私も今日結婚記念日で…… 今日で二年目なんです」
「へえ! それはめでたい! おめでとうございます! というかそんな日に旦那さんとこに帰ってあげなくて大丈夫なんですか?」
「…… ちょっと今、旦那と喧嘩しちゃってて……」
「いや、喧嘩というか私の方から一方的にまくしたてちゃって…… 仕事が上手くいかなくてイライラしちゃって夫に酷い事言っちゃったりして……」
「ああ、すいません! こんな愚痴みたいな! こんな客面倒ですよね!」
「いえ、そんな事はありませんよ。 寧ろここに来るお客さんはほぼ毎回何かしらの悩みをぶちまけながら酒を飲んで帰っていきますからね」
「うあ~…… そうなんですね。 でもそれってマスターが大変じゃないですか?」
「そんな事はありませんよ。 これは私見ですが本来こういったお店は一つは単純に飲み物含めた出された物の味を楽しむ所」
「そしてもう一つは何かいつもの日常とは違う『非日常な体験』を味わう為のもの…… 例えばそれが普段家で宅飲みとかで自分では作れない味の飲み物や料理を楽しんだりとか隣同士になったお客さんとその場限りのお話をしたりとか……」
「もしくは日常的な空間では漏らせない不満を殆ど繋がりがない場末のマスターなんかに後腐れなく漏らしたりとかね」
そういって落ち着いた笑顔を私に向けるマスター。
やばい。 マジイケメンだな。 この人。
「まあうちの店の場合は何だかんだそのままリピーターになってくれる方もそこそこいるんですがそこはお客さんの意志に任せてるんで」
「悪酔いして店で暴れだしたりしたらガチでつまみ出しますがそれ以外だったらうちは割と自由ですよ」
「それでお客さんの明日への活力に少しでも繋がり、そして何よりも──」
「自分が出すものを少しでも満足して『ああ、ここで飲んで良かったな』って思って帰ってくれるんならね」
「ま、だからといって無理に話を聞こうともしませんが、聞いた方が楽になるってんなら聞きますよ」
「マスター……」
「じゃあ…… お言葉に甘えようかな」
「どうぞどうぞ」
「マスター…… 実は私、仕事で作家さん…… 今は主に小説家の方の出版を担当しているんですよ」
「へえ」
「三か月前までは漫画家さんの方の持ち込みとか既にプロデビューした方の新連載向けの作品とかも担当させてもらってたんですけど最近人員不足による配置換えで小説の方の担当になりまして」
「それでこの間、結構デビューしてからそれなりに長いキャリアの方の持ち込みがあってそこでちょっと揉めてしまって」
「おまけにその事でイライラして帰ってからうちの旦那に八つ当たりしちゃって…… 旦那は元々主夫で、でも今はパートもこなしてくれててそれでも家事も完璧にやってくれて…… それでいていつも私なんかを優しく支えてくれて……」
「なのに私ったら慰めてくれてる旦那に向かって『あんたになにがわかるの! 男のくせにパートと家事しかやってない奴が知った風な口きかないで!』って言っちゃって…… 私あの人の事大好きなのに…… 完全に八つ当たりです」
「自分がこんな人間だったなんて思わなかった……」
「なるほど……」
「そして猫ちゃんに案内されたこの店にヤケ酒目当てに入って今に至ります」
「最低ですよね……」
「んー、最低かどうかはわかりませんが少なくとも旦那さんは可哀想っすね」
「ですよね…… どうしたらいいと思います?」
「と言われても…… 自分の言う事が正しい答えかはわかりませんよ。 それでも単純に思った事を口にしていいってんなら喋りますが」
「ふふ、そうですよね。 でもなんか今日初めて会った赤の他人のマスターなら客観的な意見が聞けるんじゃないかと」
「なんか綺麗事とか言わずに思った事ガンガン言ってくれそうな雰囲気だし。 マスターって」
「否定はしませんがお客さんも大概はっきり物言う方ですね」
「ふふ、こういう性格なんで割としょっちゅう会社とかで揉めるんですけどね」
「いいんじゃないですか。 少なくとも相手の顔色ばかり窺ってそれに甘んじてる輩よりは好感が持てそうですけどね」
「ほら! やっぱりマスターもそんな感じじゃん!」
「はは! まあ性分なもんで」
「…… 遠慮しなくてもいいですか?」
「ええ。 今はそういった意見が聞きたい…… かな」
「じゃあ今の話だけ聞いた限りじゃ旦那さんが可哀想って事しかわからないんで、もう少し深く掘り下げても?」
「ええ。 どうぞ」
「じゃあ答えられる範囲で教えて下さい。 まず事の発端? かな。 作家さんと揉めた原因をもう少し詳細に教えてもらっていいですかね?」
「ええ。 実はその作家さん、昔はヒット作もそれなりの数出してたんですけどここ数年は鳴かず飛ばずで……」
「私個人としては凄い面白い作品だなって思ってるんですけど今の時代には流行らないテーマというか…… それでいて今は昔に比べて何でもかんでも規制が厳しいので一回でも炎上してしまうと火消しも大変だし、何より作家さんの作家生命にも関わってきますし……」
「私その方の作品は本当に大好きだから何とか上手くその良さを残しつつこうした方がいいんじゃないですかって色々言ったら向こうも怒っちゃって…… 『そんな作品にしたらそれはもう自分の作品じゃない!』って言われて……」
「あらら…… でもよくありそうなお話ですね」
「実際結構ありますよ。 こういう話」
「ん~…… 書き物は素人なのでそこを踏まえた上で聞いてほしいんですが──」
「これは書き物に限らずほぼ全ての仕事に言える事だと思いますが、残念ながらただ良い物作ってれば絶対売れるって時代はもう大昔に過ぎ去っていると思いますね」
「ほら、飲食店とかでもこの店めっちゃ美味いのにネットの評価はそんなに良くなくてお客さんもまばらで潰れちゃった。 けど口コミ評価MAXの別の店に行ったらぶっちゃけ味はかなりまずかった…… なんての結構ありません?」
「あるある! めっちゃある!」
「でしょ! ああいう口コミ載せてるサイトって無料か有料か…… 有料の中でも評価が高得点で上がりやすいプランってのもあるんですよ。 まあサイトによると思うので全部が全部そうなのかはわかりませんがそれでも大部分はそうなんだと思います」
「残念ながらこんな時代ですし今はインターネットも昔より遥かに一般化している上、その精度もかなり上がっています」
「販促方法や
「昔に比べて情報ツールが多いからすぐ問題になってしまう事、それも公になりやすくなってるから無難にやり過ごしたくてしょうがないって感じもあるのかもしれないし、それもしょうがないのかもしれないですが」
「それと流行りについてもどこの世界でもそういうのは結構あります」
「そしてこれが何気に厄介な事に、人間てのは『基本飽きやすい性分』な方が大多数占めてるんですよ。 勿論全員が全員ってわけじゃありませんけど」
「だからその世界で売れる為には良い物を作れる技術はプロなら持ってて当然…… でも今のご時世、商売として成立させるなら十点満点のうち五、六点位あれば何とかなるもんなんですよ。 とりあえずは、という意味でですがね……」
「そしてそれ以上に重要になってくるのは必要最低限の技術に加えて相手の好みに合うかどうか……」
「所謂商品、もしくはそれを提供する側と相手側との『好み』と『相手が求めているもの』、そしてそれをまとめてひっくるめて『相性』の問題なんだと自分は思うんですね」
「商品として本を出すなら残念ながらその辺を加味しなければどうにもならないと思います。 勿論それを気にし過ぎてそのものの本質がつまらなくなっちまったら言語道断ですが」
「それが納得いかないで自分のやり方『だけ』を通したいなら、そこはもう個人で出版するか特別なコネを利用するしかないと思いますよ」
「大事なのはまず自分が理想とするもの、そしてそれとは別に現実問題、結果が伴った状態で成功するには…… この場合は売れるにはってとこですか」
「理想と現実の『ギャップ』…… それを知って、どうすればその距離を埋められるかじゃないですかね」
「…… なるほど。 『ギャップ』…… ですか」
「ええ。 そして人はそれぞれ『ここまでが歩み寄れる限界ライン』ってのが必ずあります。 まあ無い方もいますがそれは完全に『ただ』の商売と割り切っている方ですね」
「一応言っておきますが自分はそれが悪い事だとは毛程も思っていません。 そうでもしないとやってけない事もあるだろうし、そうする事で何か大切なものを守ってる事もあるかもしれないですから」
「ただ今言った『歩み寄れる限界ライン』の線引きは人それぞれ位置が違いますし、もしそのラインが崩れてしまったら──」
「その時は、もうそういう方は『仕事』としてそれをやる事は引き際なのかなと思っています」
「でも書き手と販売、そして読者との想いの紡ぎ手である出版社…… お客さんの場合は如何にその作者さんに自身の想いを伝えられるか…… 伝わるまで何度でも喧嘩して、それでも今やれる作家さん含め、なるべく多くの人にとっての最良の道を『共』に見つけたいと想っているか、そしてそこに到るまでにはどうしたらいいのか……」
「はっきり言って胃が痛くなる様な作業でしょうが、もしお客さんが単に仕事としてだけではなく、その作家さんの作品が好きなんだったら…… もうとことんやって、そして自分の想いが伝わるまでやるしかないんじゃないですかね」
「逆にビジネス一辺倒でお客さんが考えられるなら、それこそやり様はいくらでもありますよ…… 脅しに近いやり方とかもね」
「様は諸々に向かってどう向き合うか…… 結局のところはそこなんじゃないですかね」
「どう向き合っていくか…… か……」
確かに…… 言われている事全てに納得がいく。
そう…… 結局はお互いどこまで歩み寄れるかなんでしょうね。
まあそれが難しいんだけどね~!
「それから旦那さんの事ですが──」
「時と場合によっては言葉はそこらへんの暴力なんかよりもよっぽどタチの悪い傷を残します」
「! ……」
「外傷的なものは治療すれば消えるものも結構多いです…… ただ心につけられた傷跡は結構根深く残っちまうものの方が割と多い様な気がします」
「そして一度出してしまった言葉はもう引っ込める事はできません」
「言葉の暴力は、時に何物よりも鋭利な刃物になっちまうからです」
「……」
「でも少なくともお客さんは旦那さんを傷つけちまった事に後悔している…… 本当に悪い事をしたなと思っている」
「…… ええ──」
「だったら…… それを伝えるしかないんじゃないですか」
「一度投げつけた言葉は取り返しがつかない…… けど反省し、謝り、その傷を少しでも癒そうとする努力はできる筈──」
「許す許さないは向こうが決める事だからこっちでいくら考えたってそれはただの自己満足にしかならないですよ」
「許されようが許されまいが自分の反省の意をしっかりと伝える…… それがけじめだしそれがちゃんと伝わればどうにかなるかもしれませんよ」
「…… そうですよね…… そうですよね!」
「── 私、ちゃんと謝ってきます! 旦那に!」
「だって私、旦那の事大好きですから! あの人とこのままなんて嫌だし! それと作家さんともとことん腹割って話してみようと思います!」
「そうですか…… そしたらこちらはサービスで──」
そういってマスターは私に新しい綺麗で真っ白なカクテルを出してくれた。
ていうか今の話しながらこれ作ってたの?
バーテンダーってほんと凄いな。
それともマスターが特に凄いだけなのだろうか?
にしても綺麗な色──
見てるだけで疲れ切った心が洗い流されそうな……
「これは?」
「ホワイトローズというジンベースになっているカクテルに自分流のアレンジを加えた一品です」
「これは実際に食用の白いスプレー薔薇を漬け込んでいます」
「花言葉は『素直な気持ち』──」
「!」
「それとこっから先は単なる独り言ですが──」
「ここのお客さんで、ここにきては『毎回自分の奥さんの事を惚気まくっていく方』がいるんですよ。 『自分には勿体無い奥さんだ!』とか『超絶可愛い! マジ天使!』とか『もう~大好き過ぎる!』とかちょっと乙女チックな位に自慢してくる方がいてね」
「ただ、この間仕事で傷ついて帰ってきた奥さんを励ましたつもりが、無神経な事を言ってしまって深く傷つけてしまったって電話で相談されましてね」
「でもその方の本当に凄いところは、自分が罵声を浴びせられた事よりも奥さんの気持ちを救えなかった自分をただひたすら責めていたところでした」
「喧嘩して、ただの一っ言も相手への恨み節を言わないのは中々できるもんじゃないですよ」
「ああ、この人本当に奥さんの事大好きなんだなあって思いました。 それにプロポーズの時に九十九本の薔薇を送ったそうなんですよ」
「九十九本の薔薇は『永遠の愛』という意味も含まれているらしいです。 百八本送って『結婚して下さい』って意味をそのまんま伝えようか迷ったみたいですが──」
「結婚しても、きっとなにかしら壁にぶつかったり喧嘩もするかもしれない…… でもどんなに喧嘩したってこの気持ちは変わらない…… それを伝えたかったみたいで九十九本にしたみたいです」
「! それって!!!!」
「中々凄いですよね。 今時プロポーズで薔薇を送る人いるんだなあって思いました」
「うぅ……」
何かそう言われると恥ずかしくなってきた…… あの人ったら外で何言ってるのよ!
…… まあ、私もめっちゃ嬉しかったんだけど……
「でも尊敬もしました。 ここまで一人の女性を本気で愛する事ができるなんてこの人はほんと凄いなあってマジで尊敬しましたよ。 まあ毎回惚気られるのは勘弁してほしいですけどね」
「それでこの間相談された時に仲直りにとびきりのお酒と料理を用意したいからってんで、自分でも作れるものを教えてほしいって言われたんですよ」
「それでその人にもできそう…… それでいて結構本気なレベルでギリギリ頑張れば素人でも作れそうなものをいくつか昨日手ほどきさせていただいたんです」
「本気の想いには本気で返したかったし、向こうもそうしてくれって言ってたしあの人なら絶対にできるって確信してたんでそれこそ手加減無用でね」
「そういえばその方が以前に惚気た時に丁度今日が結婚記念日だとか言ってたな」
「前にその方が奥さんと仲良さそうに映っている写真をほぼ強制的に見せられた時があったんですよ…… まあ、あんまり惚気がウザイから奥さんの顔をしっかりと見ていなかったのでどんな顔をしてたのかは覚えてませんがね」
「ただ、その写真をうちの黒猫も見てたからそのうち連れてくるかもしれませんねえ」
「……」
「まだ夜の十一時前……」
「最後の独り言ですが…… 早く帰ってあげた方がいいんじゃないですか?」
「旦那さん…… 待ってると思うなあ」
「マスター……」
あんなに理不尽に八つ当たりした私の事をあの人はちゃんと待っててくれてる……
帰らなきゃ! 帰ってちゃんと謝らなきゃ!
「マスター! ありがとうございます! ご馳走様でした!」
「ご来店ありがとうございました」
急いで会計をすまして店を後にしようとする私。
だけど店のドアを開ける前に私はマスターの方へと振り返った。
「あの!」
「?」
「また来てもいいですか? 今度は『旦那と二人』で!」
「! はは。 店が潰れてない限りはいつでもお待ちしてますよ」
「いやそこは頑張って下さいよ! 縁起でもない!」
「それじゃおやすみなさい!」
「おやすみなさい。 どうか良い夜を──」
そうして私は走って旦那の待つ家へと帰るのであった。
ガチャガチャ…… ガチャ!
「! あっ…… おかえり!」
「…… ただいま……」
勢い良く鍵とそのドアを開けた為、旦那を少し驚かせてしまった。
ごめんなさい! とにかく早く会いたかったからつい!
テーブル一面に豪華な…… でも手作りの料理が埋まっていて、しかも旦那の両手の指は絆創膏だらけであった。
うちの旦那、家事スキルはかなり高い方だけどそれでもきっと慣れないレベルの料理に張り切って作ってくれたのか、すっごく頑張ってくれたんだろうな……
こんなに手を傷だらけにして……
無茶しちゃって……
やばい…… なんだか泣きそう!
そんな走って汗だくで、しかも涙ぐんでる私に対して旦那の方はというと申し訳なさそう…… それでいて、いつもと変わらぬその優しさを含んだ表情で私にこう言った……
「あの…… 昨日はごめんね。 僕、やっぱりちょっと無神経だったかも──」
「! その薔薇……」
旦那の横にある椅子には九十九本の薔薇の束が置かれていた。
旦那は私の言葉に反応した後、その薔薇を持って私に歩み寄ってきてくれた。
「うん。 やっぱりどんなに喧嘩したって僕が君を好きな気持ちは一生変わらないから…… だからこれも仲直りの印というか…… だからその──」
旦那の言葉が終わりきる前に気付いたら私は彼を強く抱きしめていた!
突然の出来事で驚きを隠せず、薔薇を落とす私の最愛の人──
「! ちょっと!? どうしたの!? 急に!?」
「ううん…… ねえ──」
「うん?」
「大好き!」
「! 僕もだよ!」
ああ…… やっぱり好きだなあ……
いつもありがとね。 私の旦那様!
薔薇とお酒と素敵な夫婦の物語…… アニマル @animalu
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