霜月さんのお弁当はケーキです

モンブラン博士

第1話

昼食時間に誰かと一緒に食べるのは好きじゃない。

食べながらしゃべると意識を話にもっていかれて食事を楽しむことができないし、味もわからなくなる。

何より時間が減る。

だから秋風(あきかぜ)はひとりで弁当を食べていた。

もともと友達が多いほうでもないし、孤独の時間は好きだから個食も苦にならない。ひとりで集中してご飯を食べる静かなひととき。

隣のクラスで食べる人も多いせいか、教室にはほとんど人が残っていない。

だし巻き卵にプチトマトにわかめご飯。

変哲もない手作り弁当を黙々と食べていると、彼女に声をかけてくる女生徒がいた。


「……一緒に食べていい?」


霜月(しもつき)だ。物静かで滅多に口を利かずクラスでも浮いた存在。

話かけられるだけでも珍しいのに一緒に食べようと誘ってくるとは。

一瞬反応が遅れるも断る理由もないので「う、うん」と言うと彼女は短く「ありがとう」とだけ告げて向かい合って椅子に座った。

真っすぐな背筋に大人びた綺麗な顔立ち。

美しいが冷たくて、どことなく近寄りがたい雰囲気がある。

彼女は細長い指で包みをほどいて弁当箱を出すとフタを開けた。

途端に秋風は目が点になる。あり得ないものを見てしまったのだ。

二段重ねの弁当には上の段にはモンブランが下の段には苺のショートケーキが入っていた。食事のデザートではない。弁当箱にみっちりと埋まっているのだ。主食だ。

絶句する秋風に霜月は「いただきます」と手を合わせてマイペースでフォークを使って食べていく。静かな時間は好きだが、この場合は気まずい沈黙ではないだろうか。

背中に冷たい汗が流れる感触を覚えながら、空気を払拭すべく秋風は口を開く。


「霜月さんはどうして私を誘ったの?」

「教室にいたから」

「ケーキ好きなの?」

「大好き」


即答してからフォークの手を止め、コトリと首を傾げて霜月が問うた。


「食べる?」


フォークに刺した一切れのケーキを突きつけてくる。

断れる雰囲気ではないしデザートだと思えば問題はない。

同じクラスとはいえ、特に交流がない秋風に弁当のおすそわけをすすめてくる。

どうやら印象と違って霜月は親切かもしれない。

先ほどから霜月は長い睫毛を瞬かせて硬直している。

彼女の感情を察して秋風はケーキを口に運ぶ。少し固めのスポンジとホイップクリームの柔らかさがアクセントになり、とても美味しい。秋風の反応を見て霜月が切れ長の目を細めてにっこりと笑った。

ふたりとも完食したタイミングで秋風が躊躇いがちに訊ねた。


「霜月さんと話せて楽しかったから、もし良かったらまた一緒に食べない?」

「私でよければいつでも声かけて」


ひとりの食事は楽しい。

けれど、物静かな者同士で食べる食事も違う楽しさがある。


おしまい。

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