骨
春斗瀬
骨
骨。
白い骨。
煤にまみれた白い骨。
……それが僕の受けた第一印象だった。
*
ある朝、普段より数段も気分よく起床した。斜光に浮かぶ僅かな埃さえ、静かな野原にしんしんと降り積もる雪のようだと思うほどに。
布団から起き上がり、朝食のフレンチトーストをフライパンで焼き、皿によそって砂糖をひと摘まみ振り掛け、やや湿気たインスタントコーヒーの粉末を熱湯に溶かして、昨日の残りの味噌汁を温め直している間も、良い気分は続いていた。
生まれてこの方、それほどに気分の良いことは無かったものだから、僕は調子に乗って音楽をスピーカーで流した。何世代も前の古ぼけたパソコン……そのディスクトレイに収まっていたのは果たして、ザ・ビートルズのアルバムらしかった。『ドント・レット・ミー・ダウン』の聞き慣れた旋律が鼓膜を揺さぶる。そんな空間で摂る朝食は、文句無しに上等だった。たとえそれが高級な食材を使用していなくとも、極ありふれた日常の中では、頭ひとつ抜けて輝かしいものに感じられる。
……弁明しておくと、僕が普段からこんな調子でいるのかと言われれば、もちろんノーだ。その日は異常ともいえる気分の高揚があって、その高まりに従っていただけだ。
ともかく僕は、朝食を食べ終えて食器をシンクに置き、水に浸けた後に部屋を出た。何しろ今日も授業がある。それなりだがモラトリアムに準じた学生であると同時に、踏み込んではいけない一線というものを把握している、言ってしまえばずる賢い人間であるところの僕は、無断欠席でサボタージュを決行した授業の単位を拾うべく、大学へと向かう。
通勤通学の電車で、何となく自分の定位置があるように、大学でもそういう空気があった。そのお陰もあってか、僕は毎回同じ席で、両隣には誰もいないフリースペースを確保できるのだ。
そういうわけで、いつもの席に座ろうと足を運んだ僕だったが、そこで珍妙な光景を叩き付けられることになった。
僕がいつも座っている席には、骨がいた。
説明不要、まさに骨だ。
普段は血管や筋肉の内側に埋もれている、この体の基礎を成す、あの骨だ。……更に正確にいえば、骨格標本のようにしっかりとした、骸骨がいたのだ。鞣した革にように滑らかで、しかし所々に罅や僅かな欠損が見られ、発泡スチロールかプラスチックのように軽量なイメージを想起させる、世の醜悪を吸い込んで煤けた不完全な純白が、眼前にただある。
僕は心底驚愕して、何度も瞬きをし、目を擦って、頬を叩いた。これが夢じゃなければ何だというのだ。
しかし、悲しいかな。眼前の骸骨は消えたりしない。まるでここが、元から自分の席だと言い張るように、微動だにしない。酷く混乱した僕は、取り乱した思考を纏めて放り投げ、とりあえず骸骨の真後ろの席に座って、諦念に身を任せ様子を見ることにした。
*
結果からいえば、骸骨の正体はすぐに判明した。
彼(呼び辛いので、便宜上そう呼ぶことにする)は、僕だった。それはもう呆気ないほど僕だった。行動パターン、会話の展開、仕草、人間関係……それらすべてが、漏れも欠けもせず僕と一致した。それはつまり、彼は僕であると証明するには十分な証拠だった。全体的に普段の僕よりも楽し気で、呆れるほど高揚した声音が気に掛ったが、基礎となる部分は間違いなく僕だ。見るからに声帯なんてものは無いのに、どういう原理で発声しているのだろう?
そして、こんな光景と状況を一度想像したことがあったというのも、解決を早めた一因だ。中原中也の詩集、『在りし日の歌』に集録されているものの中に、『骨』という題の有名な詩がある。そして今繰り広げられているのは、まさにその内容通りのものだった。
……ホラホラ、これが僕の骨──
……見てゐるのは僕? 可笑しなことだ。
彼は恙無く日程をこなしてくれていた。昼食にみつばのおひたしを食べていないことに、的外れな憤懣を覚えたものの、学業は単位取得に関わることだから、少なくともその点は喜ぶことができた。しかしそれ以外は問題しかない。
その最たるものとして、どうやら他の人は、僕のことが見えていないらしい。思えば、彼を前にして百面相を披露し、あまつさえ自らの頬を張っていた人間がいるというのに、誰一人として視線を向けることはなかった。試しに、名前も知らない他の生徒の眼前で手を叩いてみたが、何の反応もなかった。おそらく誰からも認識されていないのだろう。そんな異常とはお構いなしに、時間は緩慢に進んでいく。一日が終わる頃には、彼によって僕の居場所は剥奪されてしまった。画家が自らの作品の上に絵の具を重ね、新たな作品を生み出すように……あるいは、不格好な鍍金を剥がすように。
しかし、そのことに対して悲しみはなかった。むしろ安堵のような、あるべきものがあるべきところに還元されたという、漠然とした調和性を感じていた。それは、旧懐を帯びた人間的欠陥を、否が応でも再確認させられる感覚だった。
彼の後を黙って付いて行くと、僕が部屋を借りている、パールブルーの塗装が施された絵に描いたようなボロアパートを通り過ぎてしまった。淀みない足取りは、綺麗な花弁に誘われる蝶のようにも、首元に縄を縛り付けられて引っ張られている囚人のようにも見えた。
「おい? どこ行くんだよ?」
気は引けたものの、声を掛けた。
果たして彼は、何も言わない。
返事の代わりとでも言うように、ゆっくりと僕の方を振り返った。暗く窪んだ眼窩に広がる無限の闇は、いっそ超然とした夜空にさえ思えた。まるで、僕が付いてきていることを確認するのが目的だったかのように、すぐさま前方に向き直る。その間も、決して歩みは止まらない。
約十五分、僕と彼は歩き続けた。日頃の運動不足が祟って、脹脛の辺りに疲労と重力を感じていた。そろそろ休憩を進言しよう、そもそも骸骨に休憩は必要なのだろうか? と馬鹿らしいことを考え始めた時、憮然としたシルエットが夕焼けに浮かんでいることに気付いた。
駅だ。大学の最寄り駅。
ボロアパートに引っ越してくる時に見たきりだった、懐かしささえ覚える建物。塗装が剥げている壁面からは、親指の爪ほどの大きさがある螺子が顔を覗かせていて、改札前の天井の隅には、女郎蜘蛛が巣を作っていた。砂と土がコンクリートの上に薄く膜を張っていて、一歩踏み出す度にジャリジャリと音を立てる。
どうやら彼は、電車に乗るらしい。上り線なのか下り線なのか分からないが、ここではないどこかへ向かうようだ。
彼に続いて切符を購入し、乗車する。下り線だ。
夕暮れ時、世界は茜色に染まっていて、遠方に見える水平線付近は、蜂蜜色と滑らかさを伴っていた。
彼は前から二両目の車両まで移動した。そして僕は、今日二度目の驚愕に強襲された。一度目、僕の定位置に骸骨が居たときとは性質の異なる、探していた落とし物をポケットの中で見つけたかのような、そういう衝撃。
「久し振り」
その声の先、蜂蜜色を背負っている少女は、もう二度と会うことができないはずの、僕が唯一親友だと思っていた人物だった。
*
なぜ彼女と親友だったと考えているのか、その理由を挙げるには、僕たちの中学時代にまで遡ることになる。
僕はその頃……いや、今もか。何事に対しても曖昧なまま生きていた。別にそれを悪いことだと一概に言い切ることはできないが、高々十四、五歳の少年だったところの僕は、焦燥を伴う、改善すべき悪癖のように感じていた。加えて、自身の存在の希薄さというか、必要性という観点から見て空疎な人間だと思ってもいた。それは次第に生への苦痛へと変化していった。
そして同時に──奇妙なことだけれど──曖昧なまま、スプーンで崩されるのを待っているゼリーのような自分自身に酔っていた。誰の言葉だったか忘れてしまったけれど、『自分が嫌いで、殺してしまいたいほど憎んでいるというのは、結局のところ自分自身のことしか見ていない』なんて言うくらいだから、僕はダメな自分が好きで仕方なかった。
そういう人間に限って、究極的で普遍的な〈死〉という墜落は、真夏の陽光のように輝いていて、魅惑的な気配を以て双眸に映っていた。所謂、〝死は救済〟のような意味合いがあった。
現状に嘆き、悲しみ、変化への渇望を抱きはするものの、自ら行動するだけの気力も意思もない僕には、死こそが絶対的に自分が変化できる契機だった。けれど僕には、自ら動くだけの動力がない。海洋に迷い込んだ熱帯魚のように、死滅する瞬間を待つしかできない。だから、中身のないスプレー缶みたいに、ただ明確な終わりを希いながら、空白を内包した日々を消費していた。
昼下がり、五時間目の体育の授業を放棄して、空調の効いた空間で午睡でもしようと教室に戻ると、彼女がいた。全校生徒は百人程度、一学年一クラスの学校だったので、もちろん僕も彼女のことを知っていたし、逆も然りだ。
「サボり?」
僕が問うと、彼女は憂いを帯びた瞳をこちらへ向けた。
かち合った視線の根源、真っ直ぐ向けられた伏せがちな瞳の奥に、底冷えするほど美しい紺碧の海が、確かにあった。
——それを見た瞬間、全身に
何の確証もないけれど、この人は僕と同じものを抱えていると直感した。
「そう」
表情に変化はない。僕を通り越して、その後ろにある窓ガラスの向こう側を見つめているような、そういう顔付きだ。頬の横に流れる漆のように黒い髪にも、陶磁のように白くキメの細かい肌にも、どこか得体の知れない空洞があった。それが殊更、深い納得と共感意識のようなものを呼び起こす。あぁ、眼前にいる少女は僕と同じものを抱えている……そういう無根拠な確信だけが着実に深まっていった。
そのサボタージュをきっかけに、僕たちは話すようになった。人目を憚るように、放課後の寄り道途中であったり、ホームルーム後の清掃の最中であったり……とにかく二人きりでいるときだけ、互いの内側にある空洞について語った。
「キミも、『何をしたい?』って訊かれると困るでしょ?」
「その通り。本当に何も答えが浮かばないんだ」
「私もそう。主体性に欠けているってよりも、お互いに死の美しさというか、曖昧な生からの解放にばかり意識が向いている、って感じだと思う」
「なるほど、それはつまり……強いて挙げるならば、僕たちは『何をしたい?』っていう問いに対して『死にたい』って答えるべきなのか」
「そうかも。……でもそれって、倫理とか道徳とか、そういうものが邪魔して表明できないでしょ? だから多分、私たちが曖昧なまま生きているのは、そういう部分に問題があると思うんだ」
「じゃあ、世間の変容が必要不可欠ってことか?」
「それも違うと思うよ。手っ取り早いのは、希死念慮を覆い隠してしまうほどの『何か』を見つけるか、あるいは皆のように『普通』を演じること」
往時の僕は、その言葉に些かの不満……あるいは妬心を抱いていた。これ程までに惹きつけられて止まない希死的情動を覆い隠す、他の何かを見つけるということは、それはつまり何かの為に生きるということだった。そういう風に生きることに対して肯定的な彼女の姿を想像して、きっと僕は無意識の内に拒否感を覚えていたのだろう。その『何か』に僕が不適切だと理解していたからこそ、余計に。
「……ねぇ、知ってるかな」
そんな拗れた思考を断ち切るように、諦念を十二分に含み、萎びた声音が耳朶を打つ。
僕は何故か、彼女の眼を見られなかった。社会科準備室という形を得た二人きりの世界の窓辺からは、強烈な斜陽の荒波が流れ込んできていた。その光に全身の輪郭が消失するような錯覚を覚えながら、僕は壊れかけの地球儀を見下ろしつつ訊き返す。
「何を?」
僕はこの時、彼女の瞳を見ていない。けれど、
「マイノリティはどうしようもなく弱いんだよ」
紺碧の海は凪いでいて、静かに夕焼けを反射していたのだろう。
彼女は実に多くの物事を知っていた。……いや、知っていたというより、そうせざるを得なかったのかもしれない。ふとした所作や言動から品格が漂っていたことを考慮すると、それなりに厳しくも立派な家の生まれだったのだろう。
そしてその詰め込まれた知識の裏付けによって、自己像や自己心情の言語化が上手かった。それは大人も目を見張るものだったと思う。およそ中学生らしからぬ徹底した分析、物事を的確に表現する語彙、自己の俯瞰と他人との対比……いっそ冷酷とさえ思えるほど客観性を重視した思索が、彼女という存在を支えていた。
とにかくそういうわけで、僕と彼女は非常によく似ていた。陳腐な表現をするならば、生き別れの兄妹(あるいは姉弟)だとか運命の赤い糸で結ばれているとか、そういう。僕らは考えることも感じることも、一から十まで共通していたから、彼女の隣は居心地が良かった。目を逸らして耳を塞いでも、明日は、未来はやって来る。あるいは僕たち人間は、明日や未来というものに向かって絶えず流動している。死に惹かれて、けれど曖昧な生を捨てることができずにいても、唯一の理解者である互いの存在があればそれで良かった。僕たちはずるずると生きていて、高校も同じ学校に進学した。そして中学時代と変わることなく、曖昧な生を引き摺ったまま、共依存的側面を持った友人関係を継続していた。
*
刹那。
意識の間隙。
中学時代に経験した、全身に蒼が奔るあの感覚が蘇る。
脳内を光の速さで駆けた追懐、その精彩な景色を見送る。溢れた記憶の断片を掻き集めて手放すような、ふわりとした寂しさが胸中を支配した。
「……久し振り」
何と返せばいいのか、あるいは何から話すべきか分からず、僕は鸚鵡返しをする。
「背、伸びた?」
「少しも。むしろ縮んだかもしれない」
「そっか」
ぎこちなさが漂う会話。
僕を先導していた彼は、いつの間にか彼女の対面に着席している。
彼女の隣は空席だった。ごく自然と、あの頃のように隣へ座った。ぎぃ、と背凭れが悲鳴を上げる。微かに埃っぽい空気が肌の上を這う。間近で見る彼女は、あの頃よりも白いように思える。
——段々と、蜂蜜色が逃げていく。
互いが発話の仕方を忘れたみたいに、口を開けては閉じ、閉じては開けを繰り返す。そうしている間に、電車は東へと進行を始めた。
ふと視線を感じて対面を見遣ると、彼が僕をじっと見つめていた。超然とした洞が、均一な黒色が、僕の心の側面を掠めていく。何かを訴えるような視線を受けるも、それが視線なのか気配なのか、そもそもそういう言葉で表現されるべきものなのか判然としない。
僕の隣に彼女がいるという、あまりに不可解な事実。そして不可解さで肩を並べる、僕の半身か分身か分からないがとにかくそういう存在であるところの骸骨が、今朝方から日常を侵食している事実。……この二つのカードを並べて、けれど迷うことなく、僕は彼女に思い切って訊いてみることにした。
理由はない。ただ、そうするべきだと直感した。
「今朝、珍しく気分の良い起床ができた」
「……うん」
「そしたら、骸骨が現れたんだ」
隣に座る彼女は、「彼のことだよね」と指差している。
「そう。……そしてどうやら、彼は僕らしい」
「そしてキミは、キミ自身の日常を彼に剥奪された……違う?」
もう驚愕はしない。
点と点は繋がり、線となるように。
僕は一つの可能性を理解した。
「……私と同じ」
「……………………」
なぜ僕が、彼女の姿を見て驚愕したのか?
なぜ僕が、骸骨の存在と同様に、彼女の存在を不可解に思うのか?
そして何より——なぜ僕が、親友だと思っている彼女と再会し、素直に喜べないのか?
理由は簡単だ。
三年前の秋、
ある雨の日に、
線路に身を投げ出し、
彼女は自殺したのだから。
……生きてゐた時の苦労にみちた
……あのけがらはしい肉を破つて、
……しらじらと雨に洗はれ、
……ヌックと出た、骨の
「怒ってる?」
「怒ってないさ」
嘘じゃない。
「恨んでる?」
「恨んでないさ」
本当に。
……あぁ、でも、妬ましくは思っていた。絶対的な終焉を希っていた、スプーンを待つゼリーと大差ない僕は、身を焦がすような羨望を抱いていた。それから、唯一の理解者が先に逝ってしまったという、寂莫とした哀しみがあった。僕らが目指していた墜落を、彼女は一足先に成し遂げたというのに、そのことに対する喜ばしさは微塵もなかった。
だから、せめて。
いや、できることなら。
その終わりに、僕を巻き込んでほしかったと、そう思っていた。
だが、それは間違いだった。真実は今、僕の対面にある。
——彼女が自殺した日のことを、僕は鮮明に記憶している。
発した言葉も、見せた仕草も、視線の動きさえも、ひとつ残らず覚えている。
いっそ恍惚なまでに昇華された、曇りやくすみの一切ない、晴れやかで美しい笑顔。
爽やかで微風のような、普段よりも高揚した雰囲気。
まるで、遊園地に行く予定を前にした幼子のように、ぞっとするほど純粋な歓喜。
そう。それは丁度、彼のように。
*
会話はない。
僕たちの間に、会話は要らない。
少し遅れてしまったけれど、僕も追いつく。骸骨が証明してくれる。
背後にあった蜂蜜色は、いつしかマジックアワーに変化していた。瞬間的な美は人の心を惹きつける。それは僕らであっても例外じゃない。ただ、僕らにとってのマジックアワーは、些か利己的で悲劇的過ぎた。
勇気が要ったけど、今更躊躇う意味もないと思い、優しく手を繋いだ。隣の気配が柔らかく微笑んだ。もっと早くこうしていれば、少しは未来が変わっていたのだろうか……そう考えてはみたけれど、上手く想像できなかった。僕たち二人が共に生きるということは、結局のところ同じ終点に足早で駆けていくようなものだろうから。——あるいは、僕が彼女の『何か』に成れたのだろうか。
情熱的な紫とオレンジのコントラストは、瞬く間に過ぎ去った。のっぺりとした夜の帳が降りる。骸骨の眼窩と同じ、均一で超然とした暗闇が、背後にある。
やがて、彼女と共に僕は降車した。
骸骨は一度だけ僕らの方をちらりと見て、すぐに前方へ視線を戻した。程なくして、電車が出発する。加速度的に東へ去ってゆく。寂れた田舎町の駅に、薄ら寒い秋の風が吹く。雑草だらけの花壇に咲いた、萎れかけのアゲラタムが小さく揺れた。
「……良かったの?」
彼女が抑揚のない声音で僕に訊いてくる。
「ああ。いいんだ」
「ふふっ……キミが言うなら」
呆れ混じりの微笑。自然と相好が崩れる。
振り返ると、そこには坂があった。緩やかな勾配の下り坂。街灯も疎らで、そこかしこから虫の鳴き声が聞こえてくる。人の気配がない町で、僕は彼女と二人きりだった。
手を取りながら歩く。見上げるとそこには、満天の星があった。均一で超然とした暗闇を塗り潰すように、爛々と光る無数の星々。ここではないどこかへ向かう僕たちを照らす道標のようだ。
「これからどうするの?」
今まさに考えていたことを、彼女が訊いてくる。息が合うのは今でも変わらないようだ。
少し思案する。そう、少しだけ。
きっと、僕は彼女に再会したその瞬間から、そうするべきだと思っていた。
「……墓参りに行こう。君の墓参りに」
隣の彼女は心底可笑しそうにカラカラと笑った。
「その次はキミの?」
「それは暫く無理だろうね。……もしかすると、七年経っても叶わないかもしれない」
「それもそうだね」
行き先はどこだって構わない。時間だけはいくらでもあるから。
……霊魂はあとに残つて、
……また骨の処にやつて来て、
……見てゐるのかしら?
骨 春斗瀬 @haruse_4090
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