住吉台
けえにい
イノシシ
私たち夫婦は神戸市東灘区の住吉台というところに建つ高層マンションに住む。
港を見下ろす眺めは本当に素晴らしいのだが、問題がひとつあった。
住吉台では頻繁にイノシシが出没するのだ。
しかも年を追うごとに行動が大胆になって、
今ではほとんど人を恐れない。
その日も、家内とふたりで買い物を終えてマンションに戻り、
1階のエレベーターにふたりで乗ったところへ、
ドカドカと親子連れのイノシシがエレベーターに入り込んできた。
ところが小さなエレベーターにイノシシの親子が乗ってきたため、
無情にも「ビーーーッ」と体重オーバーを知らせるブザーが鳴り響いた。
人間社会ではこんな時、エレベーターに最後に乗った人が降りるのがマナーである。
私はイノシシに向かって、
「体重オーバーですよ。エレベーターから降りてください。」
と注意してみたのだが、
イノシシはただの一頭も降りようとしない。
「やれやれ、しょうがないわ!」
私は、自分が譲るしかないなと観念してエレベーターを降りた。
すると、ブザーが鳴りやみ扉が閉まり、妻とイノシシ親子を乗せたエレベーターは7階までノンストップで上がっていった。
私は階段をえんやこらどっこいさとフーフー言いながら7階まで歩いて上がった。
すると扉の開いたエレベーターの中には、まだ家内とイノシシ親子がいた。家内は青ざめた顔を引きつらせている。
「あんた〜、なんで私を見捨てて、あんただけで逃げたのよ〜?」
家内はか細い声で私を問い詰めた。私は反論した。
「逃げた?はあ〜?冗談じゃないよ。エレベーターのブザーが鳴ったのに、このイノシシ達が降りないから、俺が代わって降りてやっただけじゃないか。おかげで、階段を上がらされて、こっちは足がつりそうに痛い。そんなことよりもおまえ、なんでもいいから、早くエレベーターから降りた方がいいぞ。降りないとだな・・・。」
私が言い終わらないうちに、
1階で誰かがエレベーターのボタンを押したのだろう、
家内とイノシシ親子を乗せたエレベーターは、
もう一度とびらを閉め、1階へ向かって降りていった。
住吉台 けえにい @shikomo
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