第13話 咲楽子先輩と冷やし中華始めました(5)

「あっ……この冷やし中華美味し~い! ラーメンっぽい食感だけれど、その軽さがことしの暑さにうれしいっ!」

「お口に合ってよかったです……ほっ。乾麺の冷やし中華って珍しいなって思って買ったんですけど、言われてみれば生麺に比べてずっと軽いですよね」

「うんうん。おつゆも初めての甘じょっぱさで、これは数人前ペロリいっちゃいそうだな~♪」


 咲楽子さんは、いつだってなんだって数人前ペロリですけどね~。

 ところで、そのぉ……。

 錦糸卵のお味、いかがでしょ?

 具材、豪快に麺に絡めて食べてらっしゃいますけど……。


「ずずずずうーっ! くう~っ……美味しくって一気に一皿いっちゃった! ねえ、なっちゃん? あとの二皿も、食べていいんだよね?」

「そ、それはもちろんです……アハハ。つゆもすぐ追加しますから……」


 粉末のつゆをお椀に入れて、冷水で溶いて……。

 氷を二つ、カラン……っと。

 うーん、咲楽子さんが一皿目いってるときに、つゆ作っておけばよか────。


「……ふ~ん、おつゆは粉末なんだ。ますますラーメンみたい」

「そ、そうですよね……。なんか、変わってますよね……これ」

「その粉末をちょっぴり、卵に混ぜたんだ?」

「えっ……!?」


 咲楽子さんの視線の先が、お椀のつゆに映っているわたしの顔から、わたしのまなこへと移動。

 右手に箸を、左手に二皿目を持ちながら、悪戯っぽい笑みを浮かべて。

 そ、そう……実は……。


「……当たり、です。錦糸卵って味薄いですから、卵を溶くときにつゆの粉末を少し混ぜてみたんです。隠し味にいいかな……って」

「なるほどなるほど。なっちゃんのその判断、大正解だったよ~♪ んふふふふ~っ♪」


 ──キンキン♪


 まるでクイズ番組の正解のチャイムのように、箸で皿の端を叩いてくる咲楽子さん。

 だけれど、わたし的には……。

 大正解なのは、咲楽子さんのほう。

 だってあんな質より量に見えるドカ食いなのに、か細い錦糸卵の微妙な隠し味に気づいちゃうなんて……!

 この人は舌もちゃんとしてるって、わかってはいたけれど……想像以上!

 質実剛健、文武両道のドカ食いアスリート!


「なっちゃんが込めてくれてる愛情、いつもし~っかり味わってますって! 感謝感謝! エヘッ♪」

「あ、ありがとうございます……。あの、つゆ……どうぞ」

「サンキュッ! さあお次は、紅ショウガから入って味変するぞ~!」


 わたしの……愛情……。

 ああ、そんな肌いっぱい見せてる姿で、そんなこと言われたら……。

 ドカ食いでむっちむちに育った二の腕や太腿見せられたら……。

 あ、ああ……。

 わたし……やっぱりこの女子ひとが…………好き。

 この人にこれからも、しっかりどっかり食べさせてあげたいっ!

 けれど、けれど……たまには……。


「あ、あの……咲楽子さん?」

「……ずずるっ?」

「錦糸卵の微妙な味に、気づくってことは……。美味しいお店も……たくさんご存じじゃない……ですかっ?」

「ずっ……ごくんっ。うん、そこそこは……まあ。けれど美冬に見張られてるから、なかなかに行けないんだよね~。アハハ……」

「えっ? 外食見張られてるんですか?」

「うん。LINEグループに手配書出回ってる。飲食店でわたし見掛けたら、すぐに通報して……って。ずずるっ……」

「そ、それは大変ですね……ははっ……」


 手配書……。

 恐るべし、管理栄養士志望の美冬先輩っ!

 で、でも……わたしだって負けないっ!


「じゃっ……じゃあですよっ!? もし、その……監視をかいくぐれるチャンスがあったら、わたしにごちそうしてもらえませんかっ!? 咲楽子さんのおすすめの店、興味ありますっ!」


「ずずっ……ン……いいよ~。なっちゃんにはいつもお世話になってるから、それくらいはね……ずるずる~っ!」

「あっ……ありがとうございますっ!」


 やった!

 お外で食事……デートっ!

 これデートったらデート、わたしが決めたっ!

 うんっ!

 ……まあ、薄着のままうちのキッチンで立ち食いしてる人とデートっていうのは、いまさら感は拭えないけれど。

 でも外での一味違うわたしを……見せるチャンス!

 勝負服で……ただのお隣さんじゃないってとこ、見せつけるっ!


「……なっちゃん?」

「あっ……はいはい? つゆ追加ですか?」

「ううん。タナカのふりかけ……まだある?」

「えっ……? あ、はい……ありますけど……」

「磯海苔」

「あったと思います。ごはん……欲しくなりました?」

「ううん。三皿目の味変に、試してみようと思って。この冷やし中華についてるふりかけもノリとゴマだから、いけるんじゃないかな~って。にひ~っ♪」


 なっ……なんという味への貪欲さっ!

 そしてそして……たぶんうちにある食品、ほぼほぼ記憶されてるっ!

 ニカッとあどけないその笑顔の奥には……食欲の鬼がいるんだわっ!

 これからも……まだ買ったことがない食品どんどん仕入れて、アレンジも施していかなきゃわたし……飽きられちゃうかもっ!?

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