第2話

健太は、昔から変わらない。いつも少しだけ俯いて、周りの空気を読むように生きている。私とは、まるで違う世界を生きているみたい。幼馴染という言葉だけが、私たちを繋ぎ止めている、細い糸のようだった。


夏祭りの準備が始まった。私は、忙しさに紛れて、健太との距離を誤魔化そうとしていたのかもしれない。祭りの喧騒、人々の熱気。それらは、私にとって、健太との間に横たわる静かな溝を覆い隠すための、格好の隠れ蓑だった。


優斗は、誰に対しても分け隔てなく、明るく接する。それは、私に対しても同じだった。ただ、健太は、その光景を、いつもどこか遠くから見ている。まるで、自分だけが蚊帳の外にいると言わんばかりに。


私は、何度か、健太に話しかけようとした。最近、彼は、私を避けているように感じる。目を合わせようとしないし、話しかけても、そっけない返事しか返ってこない。一体、何があったのだろう。


ある日の夕暮れ時、私は、優斗に、友達への手紙を託された。特に深い意味はなかった。ただ、タイミングが良かっただけ。薄暗い路地裏で、私たちは短い言葉を交わし、別れた。その光景を、健太が見ていたとは、夢にも思わなかった。


数日後、健太は、以前にも増して、私を避けるようになった。私は、不安を感じていた。一体、何が彼をそうさせているのだろう。私は、彼に何か悪いことをしたのだろうか。


夏祭りの当日。私は、祭りの喧騒の中に身を置いていた。しかし、心はどこか落ち着かなかった。健太の姿を探していた。しかし、彼は、どこにもいなかった。


祭りの後、私は、健太に声をかけた。「健太、あのね…」


私は、優斗とのことを話した。全ては、彼の勘違いだった。ただ、その事実は、私にとって、何の慰めにもならなかった。


健太は、曖昧に微笑んだ。「別に…」


その言葉を聞いた瞬間、私は、全てが終わった、と感じた。私たちの間には、言葉では言い表せない、深い溝ができてしまった。それは、私がどんな言葉を尽くしても、埋めることのできない、決定的な何かだった。


季節は変わり、日常が戻ってきた。私たちは、以前と変わらず、隣同士の家に住んでいる。しかし、私たちの関係は、以前とは全く違うものになってしまった。それは、目に見える変化ではない。ただ、空気の密度が変わったように、何かが失われたように、感じるだけ。


私は、時々、あの夕暮れの路地裏を思い出す。健太が見ていたかもしれない、あの光景。それは、私にとって、一つの後悔の象徴なのかもしれない。しかし、過去を振り返っても、何も変わらない。ただ、時間が過ぎていくだけ。


私は、窓から外を見る。隣の家の窓が見える。健太の部屋の窓は、カーテンが閉められている。私は、ため息をつく。私たちは、もう、以前には戻れない。それは、確かなことだった。

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勘違いの夏 @flameflame

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