1000文字以下の短編集

@non33

最適解

首筋からぽたぽたと液体が伝い流れる感覚がする。

手を添えれば鈍い痛みと共にぬるりと赤黒い血が纏わりついた。目の前では恋い慕う彼女が焦りつつも手馴れた様子でスマホから救急車を呼ぶ。力の抜けた自分はそれをぼんやりと見つめていた。


「もうすぐ救急車が来るから、安心して」

声掛けと共に恐怖と心配、そしてうまく隠しきれなかったうんざりとした嫌悪感が混じった瞳が向けられる。僕は頬を微かに染め微笑んだ。嬉しかった。今この瞬間彼女の関心は自分を生かす事だけに注がれている。向けられた負の感情に胸が痛むがそれらを歓喜という名の興奮が塗り潰すのだ。


ほら、この方法であってる。

彼女は僕だけを見てくれる!


彼女はとても素敵だが、普通で、利己的な女性だった。僕に一切の恋愛感情を持たない彼女は僕が告白しても断り、自傷行為で脅せばやっと頷いてくれた。それでも時間が経てば危機感が薄れ反抗心が目立ち、その度にこうやって僕は自傷行為を繰り返す。彼女に責任を自覚させる為に。

「〇〇さん、好きです。愛しています。僕はいつか貴方の為に死にます」

「ああ、そんな馬鹿な事を言わないでよ」

「これがもし、『貴方の為』じゃなくなれば?」

その瞬間彼女は酷く冷めた瞳を見せた。口の両端を吊り上げ今日一番綺麗に笑う。


「少しでも、1秒でも早く貴方の願いが叶う事を願うわ」

題:最適解

(彼女が僕を助けなくなった時、それはそれで彼女の自己保身を上回る感情が僕に向けられたという証明になるのだ)

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