第2話 苦情とかどうでもいいから俺は帰りたい

 嫌々でも、そこは辺境伯家の当主。


「ふむ、聖女には学園に行ってもらおうと思って思い出したのじゃが……ルーカス辺境伯は、ほとんど学園に通ってないようだな? 随分と多忙な様子だ。ここ数ヶ月で武器の購入量も増えているようだが……もう少し王都で休んだらどうか?

 臣下相手に、要らぬ心配はしたくないものだからな」


(訳:全然王都にいないしすごくバタバタしてるみたいだけど、まさか辺境で反乱とか企ててないよね? 俺の部下ってことを忘れんなよ?)


「ご心配おかけしまして申し訳ありません。若輩の身で王国貴族の一員となった為、御身に万一のことがないよう当主として、日々国防の前線で奮闘しておりまして。

 陛下のような尊き方にご心配していただくようなことはありませんとも」


(訳:んな訳ないだろ。こちとら若いのに、危険な場所でお前ら守る為に頑張ってんだよ。文句言うなやコラ)


 と言った具合に、俺は貴族特有の言葉の裏の読み合いをサラッとこなした。

 幸い、シュークリームを食べていたおかげで頭に回す糖分は有り余ってたし。

 名前を強調して話すことでお前名前間違ってたぞ? と伝えながら、穏便に帰ることには成功したのだ。

 俺、頑張った。


 ……さて。

 今日は聖女召喚から十二日後、そして聖女が王立学園に来始めてから五日。


 聖女召喚の日にあんなに頑張った俺は、今どこにいるでしょーか!?


『礼儀作法の授業のお茶会で聖女様の無作法を咎めると、何故か「イジメられた」と言って泣き叫ばれ、こちらが王太子殿下に叱責を受けました』


 ––––サラサラッ、ペラッ。


『聖女様に「歴史の勉強を見て欲しい」と言われましたのでお教えしていると、王太子殿下が近づいた途端「この方、私がこの国の歴史を知らないことを責め立てるんですっ(ウルウル目)」とされ、こちらが王太子殿下に叱責を(以下省略)』


 ––––サラサラサラッ、ペラッ。


『魔術の授業でペアを組んでくれと言われましたので(渋々)組んだところ、お互いに攻撃して防御魔術を学ぶ授業にも関わらず、私が攻撃魔術を放つと「きゃっ、私のことが嫌いだからって、攻撃魔術を使わなくても……(ウルウル)」と……(省略)』


 ––––……コトッ。


「あんの害悪聖女とアホ王子がぁぁあああああ!!」


 せーかいは、俺は学園の生徒会室でした!!

 今は、そこで連日……そして数多く寄せられる聖女に関する苦情と格闘した末に、頭を抱えて叫んでしまったところだよ!! マジ聖女お亡くなりになってしまえ!!


 ……帰りたい、なぁ。

 天使たちの笑みが恋しい。


「ご相談なのですが、誇り高きリューカス辺境伯家の部下の一人として、国内に潜む害悪な令嬢を排除してもよろしいでしょうか?」


 頭を抱える俺とは違って背をピシッと伸ばしているカミナではあるが、聖女への苦情が山のように生徒会に寄せられていて……俺の当主としての仕事が全くと言って良いほどに進まない今の状況には、随分と参っているらしい。


「よろしくないに良くないに決まってるだろう……?」


 俺が内心叫んでいたことと同じようなことを聞かれたが、実行に移すと普通に死刑になるような内容なので止めておく。


「ほらクラウス〜、手ぇ止まってるよ? リアちゃんに告げ口するよ?」


 目の前で別の書類をものすごい速度で処理しながら僕に軽口を叩くのは、ここジェイヘン王国の隣国にして俺の逃亡先候補、メイラン帝国の第一皇子ライヘ・メイラン皇太子だ。

 正直、俺とライへとセシリア・ドゥークが幼馴染で仲がいいとは言っても、王子の婚約者になったセシリアを愛称呼びはどうかと思う。


「うっせぇ黙れ。お前が急に『結婚したい人がいるからちょっと国帰って口説いてくる』って言って出て行った時に誰が穴埋めしたと思ってんだ。黙って働け」


 こちとら辺境の領地どころか王都にある家にすら帰れなくて……弟妹と会えてないっていうのに、ライへはつい最近まで愛しい婚約者と一緒にいたと思うとムカついてそう返した。


「君がこの国から逃げる時に、高待遇で受け入れてあげることでチャラにしてよ〜」


「……仕方ない。別の国に逃げるか」


「まってごめん僕が悪かった!!」


 まぁ……ライへは一国のトップになるだろうに、俺みたいな一介の他国貴族相手にこんなポンポンと軽口を叩くことを許してくれている時点で既に感謝はしているが。

 それと仕事とは別だ。


 そもそも、俺は一応辺境伯家の人間ということで生徒会の副会長だが……当主としての仕事が優先される為、普段は学園には試験を受ける時と提出物を出しに来る時くらいしか来ないのだ。

 ライへも帝国の時期トップなので、俺と同じような感じである。


 それなのに、俺とライへががこうやってわざわざ五日間も毎日学校に来ているのは……。


「まぁ……それは置いておいて、クラウス、どう思う? そろそろ動くだろうか?」


「ん……どうだろう? 俺らってさ、アホの考えを読むの苦手だし……近くにも得意な奴いないんだよな。……でも、この苦情を読んでいる感じ近いとは思う」


「りょーかい。リアに付けてる影に注意するよう言っとく」


 セシリアを守る為だった。

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聖女とかどうでもいいから俺は帰りたい ❄️風宮 翠霞❄️ @7320

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