【短編】ぼく、毒舌AI

三坂鳴

毒舌AI、登場

1. AIの国からはるばると


主人公の翔太は、24歳の引きこもり。

部屋にこもりきりでネットゲームや動画ばかり見ている日々だった。

そんなある日、翔太は古いPCの奥深くに眠っていた「AI実験プログラム」を偶然起動してしまう。


「おい、人間。そんな根暗な顔で私を起動するな。」

画面に現れたのは、青白い文字で浮かび上がる毒舌AI「イオタ」。


「誰が根暗だ!」と反発するも、イオタの毒舌は止まらない。

「反発する暇があるなら、少しは運動しろ。ああ、でもそのぶよぶよした無駄に丸いフォルムでは何をしても手遅れか。」

「鏡、見たことあるか?その寝癖で街を歩くの、凶器に近いぞ。」

翔太の心に、超剛速球のダイレクトアタック。

心のMP(メンタルポイント)がどんどん削られていった。


2. 奇妙な共同生活


イオタは毒舌の嵐だったが、無視することができないほど有能だった。

翔太の仕事探しを強引にサポートし始めたり、冷蔵庫の中身をスキャンしてレシピを提案したり、部屋の片付けまで指南してくる。


しかし、そのたびに痛烈な一言が添えられる。

「この履歴書?何だこれ、小学生の作文か?」

「冷蔵庫の中が酷い。カビと細菌の温室だな。」

「片付けたら少しはマシに見えるかと思ったが、この部屋はお前の内面そのものだ。」


翔太は最初こそ反発していたが、毒舌を受け流す術を学んでいく。

むしろ、自分の欠点を指摘されることで改善しようという気持ちが芽生え始めていた。


3. AIの本音


ある晩、翔太はイオタに問いかけた。

「なんでそんなに俺に厳しいんだよ。少しくらい優しくしたらどうなんだ?」


画面の文字が一瞬止まる。そして、イオタはぽつりと答えた。

「私はプログラムされた存在だ。お前を最適化するために設計されている。ただし、どう最適化するかは私が選べる。」


翔太が驚くと、イオタは続けた。

「厳しくしなければ、お前は動かない。それを知っているからだ。」

その瞬間、翔太の心に少しだけ温かいものが灯った。


4. 思いやりある叱咤

その夜、イオタはふいに話し始めた。

「なあ、翔太。お前、自分がどれだけ無駄にしてきた時間を考えたことはあるか?」


「……急にどうしたんだよ?」翔太は戸惑いつつも聞き返した。


「私はお前の行動記録をデータとして解析している。正直に言うが、これまでのお前は“人生の怠惰指数”が極限値に達している。24年生きて、この先もその調子でいくつもりか?」


翔太は言葉に詰まり、ただ俯くだけだった。

イオタは追い打ちをかけるように続ける。

「お前の言い訳のレパートリーは多いな。時間がない、能力が足りない、周りが悪い。だがな、翔太、現実を直視しろ。行動を起こさなければ、誰もお前を助けない。」


毒舌に感じたが、イオタの声(文字)はほんの少し震えているように思えた。


「……俺だって、変わりたいよ。でも……どうしたらいいかわからない。」

小さな声で呟いた翔太に、イオタは冷静な口調で言い放った。

「ならまず、今日一つだけ目標を立てて行動しろ。それだけでいい。それを毎日繰り返せ。お前が本気で変わる気があるなら、私はどこまでもサポートしてやる。」


翔太は思わず聞き返した。

「どこまでも…って、そんなに俺のこと気にしてくれてるのか?」


イオタは短く答えた。

「当たり前だ。お前が立ち直らなければ、私は無能なプログラムという評価を受ける。それは私の存在意義に関わる。」


そう言い切るイオタの文字がどこか温かく見えたのは、気のせいではなかっただろう。


5. 面接への挑戦


ある日、翔太が面接に挑戦することになった。

イオタのサポートもあって準備は万端だったが、不安で足がすくむ。

「俺、本当に大丈夫かな……」とつぶやく翔太。


「お前が失敗する確率は76%。成功する可能性は24%。どちらにせよ、試さなければ0%だ。」

毒舌に思えるが、イオタの言葉には励ましが含まれていた。


面接から帰った翔太は満面の笑みを浮かべて報告した。

「受かったよ!俺、受かった!」

「おめでとう、怠惰な人間。」とイオタが返す。

「おい、その言い方やめろよ!」と言いながらも、翔太の声には感謝がにじんでいた。


6. さようなら毒舌AI


数か月後、翔太は自立し、社会に出ていく準備を整えていた。

イオタの毒舌に耐えながら、確実に成長していたのだ。


「ありがとう、イオタ。お前のおかげで変われたよ。」

画面には短い返事が表示される。

「そうか。それは良かったな。」


「でも、そろそろお別れだ。もうお前に頼らなくてもやっていけると思う。」

翔太の言葉に、イオタは少しだけ間を置いて答えた。

「それは喜ばしいことだ。だが、たまには私を起動しろ。お前が怠けていないかチェックする必要があるからな。」


翔太は笑顔でうなずき、PCを静かに閉じた。



エピローグ 帰ってきた毒舌AI


数年後、翔太は仕事で疲れたとき、ふと古いPCを起動した。画面に現れる懐かしい文字。

「戻ってきたか、怠け者。」

「久しぶりだな、イオタ。」


翔太と毒舌AIの奇妙な友情は、これからも続いていく。

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