ボス猫のおかえり。
天西 照実
ボス猫のおかえり。
実家では5匹の猫を飼っています。
数年前、就職と同時に家を出てから独り暮らしを始めたので、少し寂しいのですけれど。
まあ、実家まで電車で1時間もかからない場所なので。
休みの日には、ちょくちょく帰っているんです。
冬にもなれば、
狭いアパートには置けませんから、休みの度に実家の大きな炬燵へくつろぎに帰っています。
猫も人間の習慣を覚えるものです。
節電のために冷えてしまった炬燵も、私が帰ると温かくなるのを覚えていて集まって来るんです。
昼間は日当たりのいい場所で日向ぼっこをしていますが、わざわざ玄関へ続く廊下まで出迎えてくれます。
一緒に炬燵のある居間へ入り、台所にいる母へ声を掛けるという順序です。
最後に唯一、出迎えてくれない我が家のボス猫に声を掛けます。
大きな茶トラのボス猫は、台所に向けて置かれた小ぶりのストーブの前に陣取っておすわりをしています。
ストーブと向き合って目を閉じたまま、こちらに顔も向けてくれません。
そこへ背後から近付いて、私はボス猫の頭頂部にチョンッと触るんです。
驚く様子もなく私を見上げて、のんびりと大あくび。
『はいはい。おかえり、おかえり』
なんて、素っ気なく言われている気がします。
でも、ある冬の日。
実家に帰る途中で、思い切り転んだ事がありました。
雪国育ちで慣れていても、転ぶ時は転ぶんです。
凍った雪で滑って、足は捻るし尻餅もつくし。
真っすぐ歩くのも苦労しながら、なんとか実家まで帰り着きました。
普段との違いを感じ取ったのか、真っ先に玄関へ顔を出したのはボス猫でした。
いつもストーブの前でお地蔵さんのように動かないボスが突然走り出したので、母が何事かと廊下に出てみれば、べしょべしょの私が荷物も下ろし損ねて蹲っていた訳です。
湿布を貼って包帯で固定して、とりあえず様子を見る事に。大事には至らなかったので良かったですけど。
バタバタしていたので、他の猫たちも何事かと遠巻きに私を眺めていました。
その頃にはもう、ボス猫はストーブの前でいつも通り。
あらためて頭頂部をチョンと触って、
「ただいま。真っ先に出て来てくれたね」
と、声を掛けました。
ボスは私を見上げ、ゆっくりと瞬きすると、目を細めたままストーブに向き直りました。
いつもの大あくびもなく、
『よし、大丈夫だな』
と、言ってくれた気がしました。
窓の外を近所の野良猫が通れば、屋内から目を光らせています。
他の猫たちが喧嘩を始めそうな様子にも、いち早く気付いて眼光を向けます。
取っ組み合いが始まれば突撃して、年上の方の猫へ的確に一撃ねこパンチするのです。
若い猫を優先する年齢序列に気付いた時は、ボス猫すごい! と、思ったものです。
猫たちの平穏を守ってくれる、頼りになるボス猫。
人間の私までファミリーとして見てくれているようで嬉しかったです。
まだまだ老猫ではありませんが、これからも元気に長生きしてほしいです。
了
ボス猫のおかえり。 天西 照実 @amanishi
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