帰リ道
ケーエス
帰る
電車が揺れ動く音を私はただ聞いていた。何をする気にもなれない。周りを見渡すと、みんなスマホを見ている。目の前にいる女子高生はスマホを横にしている。動画でも見ているのだろうか、少し微笑んでいる。隣の臭いおじさんはというと、文字ばかりが並んでいる画面である。ビジネス系の電子書籍だろうか。難しい表情をしている。
みんなスマホを見ている。外はまだ17時だというのにもう真っ暗で、自分の醜い顔だけがこちらを見ていた。
「次は~○○、○○です。出口は左側です」
どこにでもあるニュータウンの最寄り駅。ここでほとんどの人が降りていく。この駅には商業施設が隣接していて、広場では時々名の無いミュージシャンが歌を歌っている。自分の降りる駅はというとこの2つ先で、そこは何もない田舎だ。自分は農家の生まれで家の周りには田んぼか池しかない。コンビニさえない。買い物して帰ることができるのが羨ましい限りだ。
さて、電車が止まった。さっきの女子高生もおじさんも立ち上がり、みんないなくなっていく。立っている人もいるほどの車内の景色は一変し、残るは数人程度、もう誰も乗ってこないはず……。
そう高を括っていた私は目を疑った。全身緑の2足歩行の集団がぞろぞろと中に入ってきたからだ。彼らはあっという間に席を埋め尽くしてしまった。
「あーいっぱい買っちゃったネ」
「アハハ! たまには人間のお店もいいもんだネ」
私は彼らを凝視してしまった。どう考えてもそれぞれの顔がカエルそっくりだったからだ。いやカエルそのものだ。その間に挟まっている人間たちはスマホを見ていて全くその異変に気づいていない様子だった。
「ん? なんだ?」
一匹と目が合って私は慌ててうつむいた。スマホを触っているふりをする。それにしても臭い。全国の生乾き詰め合わせセットを贈られた気分である。
「まもなく~××、××」
カエルかなにか知らないけど早く降りてくれ~。その願いもむなしく、次の駅では一切誰も降りない。しかも誰もが誰かと喋っているのである。買い物の感想、テレビドラマの感想。新聞を広げて事件の感想。しまいには若いカエルたちが辺りをウロチョロしているのであった。悪夢でも見ているんだろうか。自分は今どこにいるのか。頭の中がぐちゃぐちゃになっていたところ、アナウンスが流れた。
「まもなく~、△△、△△」
間違いなく自宅の最寄り駅だ。足が震えた。もうわけわからないけどとっとと降りよう。私は立ち上がった。さてカエルたちはというと、なんとカエルたちもぞろぞろと立ち上がってくるのだった。私はますます恐ろしくなってドアに貼り付くようにして近づいた。早く開いてくれ。早く開いてくれ。
「あなたはどこに帰るんですか?」
「え?」
振り返ると同時にドアが開いた。目の前にはたくさんのカエルたちがこっちを見ていた。
「さっきからあなた我々のこと見てたでしょう?」
さっき自分と目があったカエルが言った。
「ええ……」
「人間のみんなスマホを見ているのにあなただけ我々を見ていたから気になりましてネ。で、どこに帰るんです?」
「そこに……」
私は駅の向こうに見える一軒家を指さした。明かりがついている。母がすでに何かを作っているだろうか。そんなことを考えると急にお腹が鳴った。
「おお、我々もすぐ近くですよ。一緒に帰りましょう」
私はカエルたちに押され、ホームに降り立った。私はカエルたちに取り囲まれ観念した気分だったが、あまりに気さくに話しかけてくるので少し話してみたくなってきた。
話によるとカエルたちは家の庭の池に住んでいるらしい。なんと彼らは毎年夏の夜になるとゲコゲコ鳴いているあのカエルたちだったのだ。
「今度カエルになるオタマジャクシたちの成蛙パーティーを開くんです。特上のハエ刺身やダンゴムシステーキも用意するのでよかったら来てください」
「ああ……予定が空いてたらまあ」
カエルたちは手を振って池に飛び込んでいった。苦笑いで池を後にした私、多分パーティーには行かないが、ほんの少し楽しい帰り道だった。
帰リ道 ケーエス @ks_bazz
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