走り出すこころ
@qingcailongben63
第1話
桒野広奈は、目を覚ますと朝日が差し込む窓辺に目を向けた。毎日のように走り続け、疲れが取れぬまま、また新しい一日が始まる。高校二年生になった今でも、彼女は中学時代のトラウマを背負っていた。リレーメンバーに選ばれなかったあの日の悔しさ。それを引きずりながらも、走ることだけが自分を救ってくれると信じていた。
「今日も一日頑張ろう。」広奈はそう呟くと、制服に着替え、さっさと支度を整えた。時間に余裕があったので、少しだけ早めに出発することにした。どこかで自分を振り返る時間が欲しかった。
高校までは2時間かかる。頑張って勉強して入った名門私立大学附属の高校とはいえども遠すぎてしんどい時もある。駅に向かう途中、ふと立ち止まった。通学路の途中に、かつて一緒にソフトボールをしていた幼馴染の名前が浮かんだ。その名は、皆川薫(みながわ かおる)。小学校時代、広奈と薫はバッテリーを組んでいた。だが、薫は中学時代にソフトテニス部に転向し、今では関東大会常連の実力者となっている。その時は簡単な挨拶をしてそれで終わった。
いつも通り淡々と授業をうけるといつのまにか陸上部の練習が始まる時間になっていた。広奈は、仲間たちに挨拶をしてから、コースに向かう。ここでは、全国大会を目指す競技者としての自分がいる。その一方で、心の中では過去の出来事を引きずっていた。
「広奈、今日はいい感じだよ!」部の仲間が声をかけてくれるが、広奈はその言葉に気を使いながらも笑顔を返す。心の中では、どこか疎外感を感じていた。
練習後、休憩中に誰かが声をかけてきた。振り返ると、そこには薫が立っていた。
「よー」
彼の顔には、少し驚いたような、懐かしいような表情が浮かんでいた。
広奈は一瞬固まったが、すぐに笑顔を作って言った。「元気?」
「元気だよ、ソフトテニスの方も順調だし。」薫は少し照れくさそうに言う。
広奈は薫が今も変わらずにいることに安心感を覚えると同時に、胸の奥が少しだけ温かくなるのを感じた。
そう思っていたら薫が少し考えてから
「練習の後、少し話したい。昔みたいに。」彼の声には、どこか真剣な響きがあった。
広奈は一瞬、何か違和感を感じたが、すぐにそれを払拭した。彼と話すことは、昔の自分を取り戻すような気がして、少し嬉しくなった。
「もちろん。久しぶりだし、少しだけ話そうか。」
走り出すこころ @qingcailongben63
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。走り出すこころの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます