第5話 バトル開始
グラサンとアカバン、2人の声に反応するように、双方にあった台座が起動する。台座の見た目は何の変哲もないものであったが、機械音を奏でた直後に変形し、あっという間にコックピットのような姿に。前後のあまりの違いように、その中心に居た2人は驚きを隠せない様子であった。
「かかか、かっけぇ~!? 何だこれ、新手のCG技術か何かか!?」
「へえ、もっと魔法的な演出になるかと思えば……正直、予想外だったな」
尤も、その驚き様にも落差は存在しているようではあったが。ともあれ、バトルが開始される。
コロシアムの中心にて、不自然なほどに大きなコインが出現。そのコインの片面にはグラサンのデフォルメ化された似顔絵が、もう片面にはアカバンの同じタイプの似顔絵が描かれていた。そして、トス。高らかに宙へ投じられたコインは、やがて地面へと落ち――グラサンの顔が表となる。
「俺が先攻のようだな」
「ああ、それくらいはくれてやるよ」
コイントスによる先攻・後攻の決定が終われば、その次にはゲーム開始時の手札の配布が行われる。それぞれの
「うおおおお……!」
但しそんな珍しくもない工程も、ホビーアニメの如き演出が加わると感動が増すようだ。あれだけ天使達に文句を言っていたアカバンも、今は少年のように目を輝かせている。
「あー……感動しているところ悪いけどよ、マリガンは必要か? 俺はこのままで問題ないぜ」
「え? っと、そうだった!」
そんなグラサンの言葉を受け、アカバンは大急ぎで手札を確認する。グラサンの言うマリガンとは、要は手札の引き直しの事だ。手札の内容が悪かったなどの際に、手札を全てデッキに戻して、新たな手札を引く事ができる。但し、最初に配布される手札が7枚なのに対し、マリガンの使用によって引ける手札は6枚となる。手札の数は戦法の数とイコールである為、その時点で不利になる事は飲み込まなくてはならない。また、新たに引いた手札の内容が再び悪かったとしても、これ以降は引き直す事ができない。その点も注意が必要だろう。
「……よし、俺も問題ない」
「なら1ターン目を始めるぜ?」
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1ターン目
グラサン ライフポイント10 手札7
アカバン ライフポイント10 手札7
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エヴァーローズとは多種多様な戦争を模したカードゲームであり、敵カードマスターのライフポイントを0にする事を勝利条件としている。カードの種類は大きく分けて【領主】カード、【領土】カード、【戦略】カード、【戦場】カードの4種が存在し、カードマスターはこれらを駆使してゲームをプレイする訳だ。
「本来はカードを1枚
「お、おう……?」
「そいじゃ、まずはこいつをプレイさせてもらおうか」
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『白の領土』
分類:領土 レア度:
レベル1 白1
レベル2 白2
レベル3 白3
効果:このカードにはデッキの枚数制限がない。
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グラサンが手札の1枚を選択すると、地響きと共にフィールドの一部に純白の大地が出現。そこにはポツリポツリと建造物が建てられており、ちょっとしたミニチュアのようでもあった。
「ドローを済ませた後にすべき行為、それは全ての礎となる【領土】を置く事だ。【領土】がなければカードをプレイするのに必要となる【税】が徴収できず、結果、そのターンに何も行動を起こせなくなる。まあ、【税】ってのはあくまでフレーバーで、ただ単にカードのコストとなるエネルギーみてぇなもんだが……とにかくよ、ターン始めのドロー、その次に【領土】のやり繰りってパターンは絶対。そう覚えておくと良いぜ」
「そ、そうだな……?」
微妙に説明口調のグラサンに対し、アカバンは何とも言えない表情を作っていた。
「設置したばかりの【領土】は、基本的にレベル1からスタートする。レベル1の『白の領土』は白の【税】を1つだけ生み出すから、今の俺は白1つがコストとなるカードを使えるようになる訳だ。って事で、俺は『白の領土』の上にこいつを召喚するぜ」
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『見習いメイド』
分類:領主 レア度:C コスト:白1 タイプ:人間、メイド
攻撃力1/防御力1
効果:【継承(メイド)】継承した【領主】を+1/+1
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純白の大地に小柄なメイドが舞い降りる――が、着地のタイミングでこてんと転んでしまい、若干涙目状態に。どうやら彼女は結構なドジっ子のようだ。どう見ても頼りない少女メイドだが、そんな彼女を目にして、アカバンは驚愕していた。
「なっ、メ、メイド、だとぉ……!?」
そんななりで相性の良かったカードがメイド? という事は女の子が中心になるデッキ!? んな選択肢、俺にはなかったうらやまけしからん――等々、彼の思考は今日一番の回転を発揮させているようだ。
「おう、正真正銘のメイドさんだ。メイドさんは良いよなぁ。見ているだけで心が洗われるっと、いかんいかん、今はバトル中だったな。『見習いメイド』って名前ではあるが、このメイドさんも立派な【領主】カードだ。【領主】は空いている【領土】がねぇと召喚できねぇから、お前さんも気を付けな――おい、大丈夫か?」
「……ハッ!?」
グラサンに声をかけられ、アカバンの高速回転していた思考がカムバック。何とか現実世界に戻って来られたようだ。
「だだだ、大丈夫だ! 別に羨ましいとか、そんな事は思ってねぇぞ!?」
「いや、別に誰もそんな事を言ってねぇんだが……まあ、いい。召喚したばかりの【領主】は召喚酔いで攻撃ができねぇし、これ以上カードをプレイする為の【税】もねぇ。ターンエンド、お前さんの番だぜ」
「よ、よし、俺のターンだな? さっきアンタが説明してくれた通り、後攻の俺は1枚引かせてもらうぜ。ドロー!」
引いたカードを見て、ニヤリと笑うアカバン。
「んでもって、俺は『赤の領土』をセットする! カードの名前からもう予想できてると思うけどよ、こいつはアンタの『白の領土』の効果をそのまま赤にしたやつだ」
「つまり、今のお前は赤1つ分の【税】を使えるって事か」
「その通り! こいつが生み出した赤を1つ消費して、更に【領主】を召喚!」
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『火遊び
分類:領主 レア度:C コスト:赤1 タイプ:ドラゴン
攻撃力1/防御力1
効果:召喚時、ランダムな【領主】1体に1のダメージを与える。
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アカバンが『赤の領土』に召喚したのは赤く小さな蜥蜴であった。僅かではあるが口から火の息が漏れ出している。
「そして、ここで効果発動! この『火遊び蜥蜴』には召喚した時、【領主】1体を対象にして1のダメージを与える効果がある! かわいこちゃんを出したところ悪いが、こいつで倒させてもらうぜ!」
効果が発動したのか、『火遊び蜥蜴』が真上に向かって炎の玉を吐き出した。炎の玉は直ぐに地上へと降り、目標となる【領主】へと迫る。
「ギャフン……!?」
しかし炎の玉が衝突したのは、効果を発動させた張本人である筈の『火遊び蜥蜴』であった。先の説明の通り1のダメージを与えられた『火遊び蜥蜴』は、防御力が0になって破壊されてしまう。
「……えっ、何で!?」
「何でって、その効果はランダム判定じゃねぇか。まあ、運が悪かったな」
「こ、これって相手の【領主】からランダムに判定するんじゃないのか!?」
「どこに“相手の【領主】から”って書いてんだよ……」
実際に動かしてみるまで挙動が分からない。トレーディングカードにおいて、それは特段珍しい事ではなかった。
黒眼のカードマスター ~無頼漢の成り上がり~ 迷井豆腐 @mayoidof05
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