第4話 ラッキー

 性質によって変化、要は性格診断みてぇなもんか? にしたって、穿った見方をし過ぎだろ。そう言葉に出そうとするも、例の如く喋る事はできなかった。しかし、このどれかが俺のデッキになるのか。選択肢の最後に括弧で色を表記しているが、これは属性のようなものだろうな。よくあるパターンで言えば、赤がダメージを与えるのに特化したタイプ、白が回復に富みバランスが良いなどがある。が、そもそもゲーム内容も知らない現段階じゃ、予想の範疇でしかない。シチサンと相談するにしても今は会話ができねぇし、何よりも――


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制限時間を過ぎると、デッキはランダムで決定されます。

選択残り時間:17秒

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 ――こんな制限時間が表示されている。これじゃろくに考える暇もありはしねぇ。今後を左右する選択になりそうだが、まあ俺は考えるよりも、てめぇの勘を信じた方が上手くいく事が多いからな。どんな結果になるにしても、せめて道は自分で選ぶとしますかね。


「……はい、時間です! 皆様、デッキ選択を無事に終える事はできましたでしょうか? できなくても強制的に次に移行しますね。時間になっても選べなかった貴方が悪い、という事で!」


 こちらが喋れなくなったからなのか、金髪天使の態度は少しばかり挑発的だ。つかカードゲームに馴染みのないファンタジー組は、デッキと言われてもさっぱりだったろうに。まずはゲームの内容を説明するのが先だったんじゃねぇか?


「それでは、この世界の核となるエヴァーローズのゲーム説明を――するのは面倒なので、ちょっと頭を拝借。えいっ♪」


 デッキ選ばせた後ですんのかよ。と思った直後、後頭部に何かが当たる。スパコンと結構な音がしたが、痛みは全くない。その代わり脳内に何かを叩きつけられたかのような、気色の悪い感覚があった。他の奴らも後頭部に手を当てて、心底不思議そうにしている。


「はい、ゲームルールのインプット、完了です。これで皆様も立派なカードマスターですね、パチパチ☆」


 金髪天使の手には、あのハリセンが握られていた。なるほど、どういう原理なのかは分からねぇが、アレで俺らの頭を同時に叩いたのか。で、こっからが更なる不思議現象なんだが……エヴァーローズなるカードゲームの知識が、頭ん中にしっかりと入っていやがる。どうやら、今の一撃で衝撃と共に叩き込まれた? らしい。もう何度も言っているが、どこまで無茶苦茶な連中なんだ。


「あと、この世界における一般常識も一緒に入れておきました。本当は口頭で説明したいところだったのですが、どうもそんな雰囲気ではないようでしたので、やむなしの処置という形ですね。いやあ、残念です☆」


 ……マジだ。カード以外にも、何か知らねぇ知識を知っている状態になってる。


「さて、これにてオリエンテーションは終わりですかね。あとは夢と希望がいっぱい詰まったこの世界に、皆様を送り出すだけ――なのですが、流石にこれだけだと味気ないですよね? という事でデッキの試運転がてら、この場で一戦やっときますか」


 金髪天使が勝手に話を進め始め、皆が身振り手振りの抗議をする。が、当然の如くそれらは無視され、オリエンテーションであったらしいこの説明の場は、最後のイベントへと突き進んでしまうのであった。さっきまで天使の不備を突きまくっていたシチサンも、声を出せない今はどうしようもないといった様子だ。


「この場にはきっかり100人のカードマスターが居る事ですし、その中からランダムで相手を抽選して、お試しバトルで洒落込みましょう! ガチの初心者同士の戦いですし、今回は特別に負けても経験値の減少はなしにしておいてあげます。それとスタートデッキ同士の低レベルな戦い――もとい、将来有望な戦いになりそうなので、初期ライフポイントも半分にしておきましょう。あ、勝った際に入手できるGも、1パック程度は購入できる金額にしてあげますね。ああ、私は何て慈悲深いのでしょうか……では、バトルフィールドへご案内!」


 金髪天使が腕を振り上げたかと思えば、突如として視界が暗転。ああ、クソみてぇに展開が唐突過ぎる……


 と、心の中で愚痴を吐いたのも束の間、目に映る景色がガラリと変わり、俺は無人のコロシアム、そのど真ん中に立っていた。コロシアムっつっても、さっきまでの鉄板部屋と比べりゃあマシだが、こっちはこっちで殺風景だ。下位戦士用のバトルフィールドってところだろうか。観客なんて1人も居ねぇし、俺の他にここへ飛ばされた奴と言えば……今目の前に居る、赤いバンダナをした若ぇ男くらいなもんか。


「ああ、クソッ! あの天使、無茶苦茶しやがって……! 可愛いにしても限度が、ん? ――うわああああっ!?」


 俺を見るなり、男は大声を上げ始めた。何だ、そんなに驚きやがって。叫びたくなるほどの美男子に見えるって事かね? ……言ってて悲しくなるな。で、こいつは――見覚えがある。天使が話をしていた時、最前列で文句を言っていた男達の一人だ。


「おいおい、まずは落ち着けよ。これから戦うったって、別に殺し合う訳じゃねぇんだ」

「ハァ、ハァ……わ、悪い。ちょっと取り乱した。そ、そうだよな。さっきあのクソ天使、バトルがどうとか言っていたもんな……」

「おう、どうも俺の対戦相手はお前さんになるみてぇだな。まっ、お手柔らかに頼むわ」

「あ、ああ……」


 微妙に視線を逸らしながらも、何とか会話は成立している。これなら問題はなさそうか。あの小さなガキが相手じゃなくて良かったよ。まあ、あのガキは歳の割に胆力がありそうではあったが。


「じゃ、早速始めるか? さっきの謎の力で、お前さんもゲーム知識が頭に入ったんだろ?」

「それは問題ないけどよ……アンタ、カードゲームなんてした事あるのか? 悪いけど、初心者が相手だろうと手加減はできないぜ? これからの事を考えると、少しでもGを稼いでおきたいからな」

「あ? ……あー、まあ、俺も人並みに経験はあるからよ、その辺の遠慮は無用だ。つうか、お互いこのゲーム――エヴァーローズだったか? こいつは初めてのプレイになるんだから、そもそも遠慮する必要なんてねぇだろうが」

「そ、それもそうだな。おっ、あそこに立つのか? 俺、あっち側使わせてもらうよ」

「ああ」


 そう言って、男は向こう側の台座へと向かって行った。さっき植え付けられた知識によれば、カードマスターはあの台座の前に立ってバトルを行うんだったか。ま、専用のデスクってところかね。俺も逆側の台座へと移動しよう。


「ボソボソ(へ、へへっ、少しビビっちまったが、これってある意味ラッキーじゃね? マジの戦いならヤバかったけど、カードなら別だ。あいつ、ぜってぇカードゲームなんてした事ないだろ。無駄に強がりやがってよ……!)」


 思いっきり呟き声が聞こえているんだよなぁ。耳が良いのも考えものだ。けど、あいつの居た世界では、俺みたいな見た目の奴はカードが弱かったのか? ううむ、ジェネレーションギャップならぬ、ワールドギャップとはこの事か。


「そういや、自己紹介がまだだったな。俺はグラサン、見たまんまの名前だから憶えやすいだろ? そっちは?」

「……アカバン」

「そ、そうか、お前さんの名前も憶えやすいな……」


 あいつも赤いバンダナの見た目から取った名前だが、何かアカウント凍結みたいで少し――いや、何も言うまい。


「準備は良いか?」

「もち、いつでもオーケーだ」


 台座への移動が済んだところで、俺達は対峙し、視線をぶつけ合――あ、また逸らされた。おいおい、締まらねぇな。まあ、良いけどよ。


「「――バトル!」」

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