第3話 デッキ選択

 半数の男達の興奮が冷めやらぬ中、金髪天使はこの世界についての説明を続けた。この世界で取り扱う貨幣はゴールドと言い、カードバトルに勝利する、労働に勤しむ事で入手できるんだそうだ。このゴールドは飯を食う時、生活用品を買う時はもちろんの事、新たなカードを買う時にも必要になるんだとか。まあ、そのまんま金って認識でオーケーだろう。ああ、ちなみにゲームのプレイヤーとなる俺達は、カードマスターと呼ばれるんだそうだ。これについてもそのまんまだな。


「己の武器となるカードを購入し、デッキを強化する。Gを使う際に最優先すべき行動は、基本的にはこれになると思います。となれば食費を最低限に抑え、カードの購入に心血を注ぎたいと考える方もいらっしゃるでしょう。で、そんな方々にここで朗報! 徹底的に死の危険を排除し安心安全となったこの世界では、暴力の危険性がなくなった他に、病死や餓死といった要素も消失しているんです。つまりつまり、食事をどれだけ抜こうと死ぬ事はありません!」

「「「「「おおーッ!」」」」」


 盛り上がってんな。俺は普通に飯を食いてぇんだが。


「ただ、ここで一点注意して頂きたいのですが……餓死する事がなくとも、お腹は減るんです。そう、お腹自体は鳴ってしまうのです! 死ななくとも辛いものは辛い! もちろん肉体的な問題にはなり得ませんが、メンタル面に響く事は請け合い! 極度の空腹感に耐えてGを貯めるか、それとも人間的な生活を保つかは貴方次第! ご利用は計画的に!」

「「「「「……」」」」」


 一気に胡散臭くなったな。ちなみに手っ取り早くGを稼ぎたいのであれば、剣闘士もどきらしく野良バトルや大会に参加し、そこで勝利、優勝するのが一番なんだそうだ。


「皆様には階級が設定されています。この階級を駆け上がって行く為には、それ専用の実績が必要となります。バトルに勝利すればするほど上昇していくので、言ってしまえば経験値みたいなものですね」

「おお、なるほどな! それでレベルが上げていくのだな!」

「ふむ、それならば理解できる」


 これに関してはファンタジー組も直ぐに理解できたようだ。ファンタジーらしく、レベルの概念が存在していたんだろうか。


「この階級は皆様の権力そのものを表しているとお考えください。階級が高くなれば移動を許可されるエリア、利用できる店舗、購入可能なカードパックの種類、参加できる大会の範囲などが広がっていきます。カードマスターとして、これを上げない手はないでしょう」

「あ、あのッ! そ、その手の店とかも、そうなのか……!?」

「当然、その手の店とかもそうです! また、最低ランクである今は異性のカードマスターとの接点が皆無ですが、階級が上がればそういった出会いも当然あります! ますますこれを上げない手はないでしょう!」

「「「「「おおーッ!」」」」」


 むさ苦しいまでに巻き起こる、熱狂の嵐。


「なるほどな。この場に男しか集まっていないのは、そういったモチベーションのアップ効果も狙っていたのか」

「シチサン、んな事を冷静に分析すんなよ」


 だが、俺達みてぇな集まりが他にも居るってのは確かだろうな。一体どんだけの人間(一部例外)が集められたんだか。


「但し、ここで一点注意して頂きたい事があります。この階級における経験値、バトルに負けると減少します」

「え、減少? それ、勝ち続けないと次の階級に行けないって事か?」

「有り体に言えばそうなりますね。勝った負けたの割合が半々であれば、ずっとそこで足踏みする事になるでしょう。まあバトル中の勝ち方や負け方の内容次第でも、増減の幅が変わるので一様には言えませんが。例えば、バトルスタートからの即降伏サレンダー、これは見世物として最悪の部類ですので、減少値が半端ないです。無気力試合のようなものですからね、当然と言えば当然でしょう。逆に言えば、圧倒して勝利すれば一気に経験値を稼ぐ事も可能です! 皆様、完勝を目指して頑張ってくださいね♪」

「「「「「おおーッ!」」」」」


 再び巻き起こる熱狂の嵐、どいつもこいつもすっかりやる気だ。だが、これだけじゃあ説明が足りねぇんだよなぁ。って事で、ここでシチサンの出番である。


「失礼、また質問があります。このシステム、負け続けた場合にはどういったデメリットがあるのでしょうか?」

「……」


 天使の表情が笑顔のまま固まった。こいつ、わざと説明しなかったな?


「……フフッ、またまた良い質問です。申し訳ありません、その部分についての説明を忘れておりました。カードバトルで負け続けた場合、先の説明の通り経験値が下がり続けます。それがある段階にまで達すると、今よりもワンランク下の階級に落ちる他、財産なども階級にそぐわないものを所持されていた場合、一時没収となります。一定期間のうちに再び元の階級にまで戻る事ができれば、全て返却致しますのでご安心を」

「重ねて失礼、今の我々は最低ランクの階級に所属しているんですよね? この状態で負け続けた場合の扱いはどうなるのでしょうか? ひょっとして、それよりも下の階級があるので?」

「ん、んんっ……まあまあ、そんなに下に拘る必要はないでしょう。この世界で成り上がりを目指すのなら、上を見ましょう、上を! 下なんて気にしても、ほら、キリがありませんし!」

「最低限の事実確認をしているまで、ですよ。是非とも教えて頂きたい」

「うーんと、それはですねー……」


 両隣の他の天使に助けを求めるような、そんな視線を送る金髪天使。だが、両隣の天使達は彼女から顔を背け、絶対に視線を合わせないようにしていた。


「クッ……!」

「答え辛い事柄なので?」

「い、いえいえ、そんな事は決して。えっと、その場合はカードマスターとしての不適格だったという事で、他の新たなカードマスターに枠を譲る、そんな感じで、ね?」

「具体的にはどうなるのです?」

「……この世界から追放されるかな? なんて~」

「つまり?」

「……死にますね」

「「「「「し、死ぬぅ~~~!?」」」」」


 そこから始まる罵詈雑言の嵐。先ほどまでこの世界に希望を見出していた連中が、ガラリと手のひらを返し始めたのだ。どこが安全な世界なんだ、カード如きの勝負で生死をかけるのは狂っている、などの文句が盛り沢山だ。


「皆様、どうか落ち着いてくださ~い! 死ぬと言っても、そんなのレアケースですから! 狙って負け続けるとか、センスが最悪レベルでもない限り、そこに至る事はありません! さ、もっと楽しいお話をしましょう! デッキ、そう、最初のデッキ選択をしましょう! 天使二十五位、消音処理をお願い……!」

「仕方ありませんね」


 天使達が何かを相談している間も、男達による叫びは続いていた。が、次の瞬間に静寂が唐突にやって来る。何事かと思ったが、どうやら声が出せなくなったようだ。シチサン含め、他の奴らも同じ状況であるらしい。


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新人カードマスターさん、こんにちは!

早速ですが初回特典を配布致します。


◆『スタートデッキ選択権』を手に入れた!

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 で、静かになったかと思えば、目の前に何やらメッセージのようなものが。見れば、この場に拉致された全員の前に、同じようなメッセージが表示されているようだった。ただ、自分以外のメッセージは何も表示されていないように見える。いや、他人のメッセージは見えない仕様になっているのか。


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スタートデッキの選択肢は新人カードマスターさんの性質によって変化します。

どれも貴方と相性バッチリのカード達なので、どうか安心してください。

さあ、下の選択肢から選びましょう!(返品対応はしておりません)


①攻撃的なスタイルで敵を蹂躙! 愚連隊のドラゴンデッキ(赤)

②盃を交わした証、ここに証明! 用心棒のゴーレムデッキ(緑)

③闇夜からの襲来、殴り込みじゃ! 鉄砲玉の夜盗デッキ(黒)

④お帰りなさいませ、ご主人様ぁッ! 辺境屋敷のメイドデッキ(白)

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 次いで、デッキの選択肢らしきもんが表示された。……なんつうか、悪意のある偏りがないか?

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