第6話 坴真寮と管理人親子
「ちょっと、あまりに失礼すぎませんか?」
それが騎士の取る態度なのか、と言葉を続けるミサ。
クスクスと笑う声や、俺が合格したことを疑問に思う声に、彼女は耐えられなかったらしい。
ミサに言い返されると思っていなかったのか、先程まで俺のことを嘲笑ってた奴等も、ピタリと動きを止めて驚いている。
「まぁまぁ、ミサは落ち着けって。
実際俺はギリッギリ合格できた最下位くんな訳だし」
「アンタもアンタよハルマ。もっと言い返しなさいよ」
「えー、別に順位だけ見たら落ちこぼれな訳だし別に言い返す程の事でもないし」
「だから舐められるのよ」
コイツ、どこでも俺に説教しやがる。
お前は俺のお母さんじゃないっつーの。
…と忘れてた。
今俺達は、入所のための手続きをしている最中なのだ。
これ以上ミサの機嫌が悪くなってもいけないので、さっさと入所の手続きを終わらせる事にしよう。
「取り敢えず、入所の手続きを終わらせてくれませんか?」
「…落ちこぼれが、良い度胸ですね」
「落ちこぼれでもなんでも、合格したのは事実なんで。
それとも、合格者を決めたのは貴方なんですか?
そうじゃないなら、貴方の一存で合格者の入所手続きを行わないという判断を下せるんですか?」
少し捲し立て過ぎた気もするが、少なからずストレスが溜まっていた、ということで片付ける。
もう少し感情のコントロールをできるようにしておかないとな…反省だ。
手続きを担当してる奴も、渋々ではあったが手続きを終わらせてくれた。
意外とすんなり終わったので、少し拍子抜けした事は秘密だ。
「ほら、ミサもさっさと手続き終わらせたら?」
「言われなくても分かってるわよ」
ミサが手続きを終わらせるのを待ってる間、俺は物思いに
まだ善悪の判断もつかないようなガキの頃に抱いた夢を、今もこうやって追いかけ続けている。
そしてついには、その足掛かりとなる第一歩を踏み出せるところまで来たのだ。
なんだか感慨深い。
そんな歳でもないのに涙が出てきそうだ。
「お待たせ、無事私も終わったわ」
「んじゃ、行きますか」
手続きを終えた俺達は、また係の案内に従い寮へと向かうのであった。
✳︎
白く染まった立派な建物は、高級宿を彷彿とさせ、少しだけテンションが上がってきた。
ここが今日から俺達の家となる場所、養成所の寮“
「おや、新入りの子かい?もうそんな時期か」
「初めまして、ミサ・ナディーウと申します」
「初めまして、ハルマ・タチバナです」
中に入るとすぐにエントランスがあり、恰幅の良い女性がエントランスの掃除をしていた。
ミサに教えてもらった通りの挨拶をする。
「礼儀の良い子だ。アタシはこの寮の管理人をしているルミだよ。気軽にルミさんって呼んでちょうだい。
ほう…君達がミサとハルマかい。話には聞いているよ。史上最高の点数で合格した、稀代の天才ちゃんと、史上最低の点数でギリギリ合格した、落ちこぼれくんの仲良しコンビだね。
ハルマは落ちこぼれと言われても、何も気にすることはないからね。
アタシはここ30年近く、この寮で管理人をしているけどね、落ちこぼれって言われてた奴も立派に騎士をやってるからね。諦めるんじゃないよ。
ミサちゃんはこれから史上最高の騎士になるんだから、油断せずに頑張るんだよ。
アタシは2人のことも応援してるからね」
管理人のルミさんの自己紹介を聞き終わると、裏の方から誰かがやってきた。
「お母さーん、洗濯物終わったよ…あ、新しい騎士見習いさん達が来てたの?」
「リカじゃないか。ちょうど良いところに来たね。
この子は私の娘のリカって言うんだ」
「初めまして、リカです。この寮でお母さんの手伝いをしてます。17歳です」
奥から出てきたのは、スラリとした若い女の子だった。
リカさんは俺達より歳上で、12歳の頃からこの寮の手伝いをしていたらしい。
今では立派な看板娘的な存在になっているらしい。
何より、めちゃくちゃ可愛い。
俺は今まで、ミサよりも可愛い女の子を見たことが無かったのだが、ミサと同じぐらい可愛いのだ。
「…ハルマ、なんか変な目でリカさんのこと見てない?」
「失礼な、そんな事ねぇよ」
「ふふ、2人は仲良しなんですね」
いつも通りのミサとのやり取りを見て、笑みを溢すリカさん。
軽く雑談をした後、俺達は寮の案内をしてもらう事になった。
寮は三階建てで、一階にはこのエントランスの他に、食堂や大浴場、大広間がある。
そして、二階からは騎士見習い達が住まう部屋が並んでいる。
寮の部屋は男女別になっており、男子棟と女子棟が繋がっているのは一階だけである。
基本的には異性の棟には立ち入り禁止だが、別に男女が完全に隔てられているわけではないので、このエントランスや食堂といった、共用部分で異性と交流する事は問題ないらしい。
そして、寮のすぐ横には大きな運動場があり、運動場の横に建てられた棟には、屋内プールやトレーニング施設が備えられている。
「それじゃあ、リカはミサちゃんの案内を頼んだよ。
ハルマは私が案内するからね」
「はーい」
共用部分の案内が終わると、それぞれの部屋へ案内してもらう事になった。
俺はルミさんに、ミサはリカさんに案内してもらう事になった。
「じゃ、また後でな」
「粗相のないようにね、ハルマ」
全く、ミサは俺のお母さんか何かなのだろうか。
立ち回りが同い歳とは全く思えない。
「ほんと、あんたら2人は仲がいいねぇ…付き合ってるのかい?」
ルミさんに茶化されたので、そこはスルーする事にした。
「この寮の部屋は、部屋番号が若くなればなるほど豪華な部屋になるんだ。それぞれの階にも共用スペース広間はあるから、自由時間は好きに使ってくれていいからね。
ただし、二階の広間は今は使わないようにね。
成績順にそれぞれ若い番号の部屋が割り当てられるんだよ。つまり、最下位の落ちこぼれくんの部屋は…」
二階を通過し三階まで上がると、一階や二階とは比べ物にならない質素な空間が広がっていた。
勿論それでも、昨日泊まった宿よりは豪華だし、俺が暮らした孤児院と比べれば雲泥の差である。
そして、そんな質素な空間を更に進んだ先、端っこの部屋が俺に割り当てられた部屋らしい。
「この53号室が、ハルマに割り当てられた部屋だよ。汚くて狭い部屋だろうが…寮に通っている間は好きに使ってくれていいからね」
扉の先に広がっていたのは、薄暗い空間だった。
窓はあるものの、そこから差し込んでくる光はさほど多くはない。
照明や机、ベッドといった家具は一通り揃っているのだが…
「こんな立派な部屋を俺なんかにいいんですか?」
先程ルミさんは『汚くて狭い部屋』と言っていた。
確かに世間一般ではそうかもしれないが、孤児院出身の俺からしたら、まず1人部屋というだけでも天国なのだ。
そして、汚くて狭いというからどんな部屋があるのかと思えば、掃除もちゃんとされているのか、虫がいる気配も無い。
狭いと言われていた部屋の面積も、決して余裕が有り余ってるわけでは無いものの、家具を置いてもスペースはしっかりある。
照明も別に切れかかっている電球というわけでも無いので、生活するには充分な部屋だった。
「あんた、この部屋でそんな反応なら1号室に移ったらどんな反応をするのかね。
とにかく、成績によっては部屋の移動もあるからね。
良い成績を残せば更に広くて綺麗な部屋に移動できるからね。ちゃんと靴を脱いで部屋にあがるんだよ。
それじゃ、お昼ご飯までは自由時間だからね。
お昼は12時からね」
「はい。ありがとうございます、ルミさん」
色々と説明してくれたルミさんにお礼を言って部屋へと上がる。
ここが今日から俺が暮らす部屋かぁ…早くも愛着が湧いてきたぞ。
そして、騎士になる夢の第一歩は踏み出せたんだ。
何がなんでも絶対に騎士になってやる!
✳︎
「…ねぇリカさん。本当にこの部屋を私1人に?」
「うん。この1号室は騎士見習いで1番成績がいい人に割り当てられる部屋だから。
史上最高の成績で試験を合格したミサちゃん以外に、この部屋の主に相応しい人はいないって」
ここに来るまでの間にさらに打ち解けた私達。
2階の共用部分のすぐ近くにあった、1号室の扉が開かれた。
そして、扉の先に広がっている部屋は、部屋というよりも一つの家と言った方が正しいかもしれない。
私に割り当てられた1号室は、他の部屋とは一線を画すとても豪華な部屋だそうだ。
部屋の中にお風呂もあるし、専用のトレーニング器具も置いてある。
照明はシャンデリアだし、ベッドもキングサイズ。
仮にこの部屋が一つの家だとしても、1人で使うには広すぎるし豪華すぎる気がするんだけど…
「順位によって割り当てられる部屋が変わると言ってたけど…つまりハルマは…」
「実は私、男子棟に入ったことが無くて…でも、多分相当質素な部屋が割り当てられてると思うよ。
でも、お母さんがしっかり掃除とかはしてくれてる筈だから、多分人が住める環境には整えられてると思うよ」
ハルマの部屋がどんな部屋かは分からない。
相当酷い部屋だったとしても、これも試練だと思って頑張ってもらうしかない。
落ちこぼれの俺が最後の希望と呼ばれるワケ〜史上最高の幼馴染と騎士になったら、俺が切り札になりました〜 御影 @ougasun
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