材料名を知らなくてもおいしいものはおいしい

@mia

第1話

 僕の世界にチーズは二種類しかなかった。

 スライスチーズととろけるスライスチーズだ。朝食はパンだったのでパンの上にとろけるスライスチーズをのせてトーストしたのをよく食べていたからだ。

 母は料理好きなのでいろいろと料理を作ってくれたが、僕は食にあまり興味のない父に似たようだ。

 だからティラミスにマスカルポーネというチーズが使われてると知った時は衝撃だった。それまでにティラミスを何回か食べたことはあったが、材料を気にしたことがなかったのでチーズが使われているとは知らなかった。チーズケーキのようにちゃんと名前に入れてくれればすぐに分かるのに。

 思い返せば僕が気づかなかっただけでチーズを食べていたのだろう。

 母にそれとなく聞く。聞いたせいかモッツァレラとトマトのサラダが夕食に出てきた。今までにも食事に出たことがあったが、モッツァレラはモッツァレラというものでチーズと繋がっていなかった。

 母がこのことを知ったら、今まで以上に料理の作りがいがないと思うのかもしれない。


 ティラミスにチーズが使われていると教えてくれたのは、大学で知り合った女の子だった。僕は彼女に好意を持った。

 彼女の友人は「えー、そんなことも知らなかったのー」と馬鹿にしてきたが、彼女はそんなことを言わなかった。「興味がない人だと気にしないかもね」

 何度か彼女と出かけた後、交際を申し込んだら断られた。

「食べ物の趣味が違う人とは、うまくいかないと思うの」

 そう言って彼女は去って行った。

 彼女の言うことも一理あるかもしれない。でも、うちの両親は仲よくやっていると思う。

 空を見上げると曇っていた。これから雨が降るのか雲が晴れていくのかは分からない。

 でも僕の人生は僕の行動次第で晴れにすることができるはず。まだ、あきらめない。

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