第9話 公務員、町をみてまわる
「まずは、腹が減ったなぁ……」
奴隷商を出たら昼過ぎで、いつの間にか空腹が限界に達していた。
町中を歩きながら、目に留まった屋台に近づく。炭火で焼かれた香ばしい匂いが食欲を刺激する。
「それ、肉ぐしだよな?2本くれ」
「ほい、銭貨4枚だよ」
屋台の小さなおっちゃんが手際よく焼いてくれた串を渡してくれる。
銭貨がなかったので、銀貨を出すと困ったように眉を寄せられた。
ああ、そうか。日本で言うところの屋台で一万円札を出すようなものだな。すまん、おっちゃん。
おっちゃんは渋々お釣りを銭貨で用意してくれた。
なるほど、銭貨10枚で銅貨1枚になるのか、大量のお釣りに少し申し訳ない気持ちになった。
「悪いな、銭貨を余分に1枚払うよ」
すると、おっちゃんは急に笑顔になる。
「ありがとうよ、兄ちゃん!また、買いにおいで」
と礼を言われた。
近くの広場に移動し、石のベンチに腰を下ろす。
串をかじると、思った以上にうまい。香辛料が効いていて噛むたびにジューシーな肉汁が口に広がる。
異世界の食事は、思いのほかうまいものが多いな。
肉ぐしに満足しながら、頭の中で現在の状況を整理する。
「短期間で稼げる商売って、どんな条件になるんだろうか……」
金貨15枚を今日を含めて4日間で稼ぐ必要がある。
さらにあくまで目につかない方法で稼ぐこと。
極力目立ちたくはない。今使えるスキルは《鑑定》のみ。
「正直、普通に働いて稼げる額じゃないな」
俺は自分にツッコミを入れつつ、現実的な方法を模索する。
たとえば、飲食系の仕事。さっきの肉ぐし屋を例に考えると、1本銭貨2枚で売られていた。
もし俺が日本でやっていたクレープのような軽食を売ると仮定し、銭貨3枚で売れたとしても、原価を引くと儲けは1食あたり銭貨2枚。5,000食を売らなければ金貨10枚にも届かない。
「この町の規模を考えると、人口は2,000人いればいい方だろう。無理ゲーすぎるな」
短期間で安価なB to C(消費者向け商売)で利益を出すのは、現実的ではない。
そうなると、B to B(店向けの取引)を考えるべきだろう。
「この町にある店を一件ずつ店を回って、どんなニーズがあるのかを調べるしかないな」
俺は町中を歩き回り、目についた店や露店を一軒一軒観察して回った。
武具店では剣や防具が所狭しと並び、露天では果物や布地、よくわからないガラクタなど様々な品物が売られていた。武器屋や防具屋の店先では、職人が金属を打ち付ける音が響いていた。
宿屋や飲食店もいくつか目に留まったが、安価のサービスでは短期間で稼げない。
夕暮れ時、ようやく町を一通り見て回ることができた。
宿に帰り夕ご飯を食べ、部屋でじっくり考える。
スーツに入っていたメモ帳とボールペンがめっちゃ役に立つ。回収しといてよかった。
今日見てきた店について、ざっとまとめよう。
【武器屋】
主な商品と価格帯
・鉄製の剣、槍、斧:金貨1~3枚
・短剣や小型武器:銀貨8~15枚
・能力が付与された武器:金貨5~10枚
サービス
・簡易的な修理(銀貨3~8枚)
・武器のカスタマイズ(要相談、金貨1~2枚追加)
特徴
武器専用の鍛冶屋が一緒になっている店の形態。高級品は少なく、冒険者向けの実用的な品が中心。
【防具屋】
主な商品と価格帯
・革製の軽装備:金貨1~3枚
・鎖帷子や金属プレートの装備:金貨3~8枚
・マントやケープ(布製):銀貨5~10枚
サービス
・サイズ調整(銀貨5~15枚)
・修理(銀貨3~10枚)
特徴
防具専門店だが、基本的な素材や耐久度が求められる装備が中心。武器屋と同様に防具専門の鍛冶屋が一緒になっている。
【薬屋(錬金術店含む)】
主な商品と価格帯
・初級の回復薬(HP回復用):銀貨1~5枚
・解毒薬やステータス異常回復薬:金貨1~2枚
・材料(薬草や魔石など):銅貨5~15枚
特徴
回復薬などは冒険者に需要が高い。値段も高価。貴族や商人もポーションを買いに来ることがある。
【露天商】
主な商品と価格帯
・手作りの装飾品や雑貨:銀貨1~5枚
・中古の武具や道具:銀貨5~15枚
・一点ものの武具や道具:金貨1~10枚
特徴
地元民が多く利用する。価格交渉も可能。よく用途がわからないガラクタも売りに出されている。
【服飾店】
主な商品と価格帯
・普通の服:銀貨5~15枚
・織物や特注の衣装:金貨2~5枚
・靴や帽子:銀貨8~20枚
特徴
地元の布地や革製品を使用。貴族向けの豪華な衣装も扱うが数は少ない。
【奴隷商】
主な商品(奴隷の価格帯)
・働き手の人間や獣人:金貨5~30枚
・戦闘向けの人間や獣人:金貨30~100枚以上
・エルフや魔族(希少種):金貨100枚以上
特徴
法律で人道的な取引が義務付けられており、奴隷の質や能力に応じた価格設定。
その他の施設
【教会】
・治癒や祈祷サービス(銀貨10~金貨1枚)
・寄付も一般的(自由額)。
【職人ギルド】
・地元の職人たちが所属し、技術を提供。
【冒険者ギルド】
・クエストの受付、情報提供、資材やアイテム売買など。
・手数料2割でアイテムの売却も可能
*飲食店や宿屋など安価なB to C(消費者向け商売)は除外
あとは、ギルドの依頼での報酬も念の為見てみたが、最低ランクのGランクでは一攫千金で稼げるものは当然なかった。
地道に報酬を得るには向いてそうだが、今ではないな。
ただ、資材やアイテム売買に関しては使えそうだ。
仕組みとして普通の店で売るよりも2割ほど手数料で取られるが、アイテム鑑定師によるお墨付きでギルド品として各地に売られるようだ。
つまり、ギルドは鑑定料を手数料にしてお金を得ている仕組みだ。
「少し情報を絞ると、高額なものはこの5つくらいか」
1,特殊な武器や防具
2,特殊な回復薬
3,貴族向けの衣装(可能性薄い)
4,露天での何か一点もの
5,奴隷(可能性薄い)
安易ではあるが、明日は露天に焦点を当てて、良さそうなものを片っ端から鑑定し、ギルドに売ることをしてみるか。
例えば、金貨1枚で入手したものが、金貨2枚になったとしたら手数料を引いて銀貨6枚の儲けになるのか。これを基準に考えてみよう。
もう一つ、あまりにバクチなので可能性から除外しているものは、ガチャだ。
引きたい気持ちはめっちゃあるが、この考察は最終手段にしよう。
平凡公務員の異世界転移~ガチャにすべてをかける運頼みライフ~ 炭酸水 @piko4989
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