第十三話 ギガマンティス撃退作戦
どれくらいの時間が経っただろうか。
合成の検証を終え、俺は満足げに頷いた。
「……よし、これならいける! だろ、たぶん!!」
最初の合成品サンプルである『炎の魔法石』を手に、成果を確認する。
先ほどまで繰り返してきた検証はこうだ。
今まで貯めたアイテムを全部売って、円に(ぼったくり手数料付きで)両替。
その金で地球のアイテムをいくつか購入し、そして【合成】を異世界アイテムと試してみる。
合成したサンプルはメモを取って一覧表をつくる。
このサイクルを何度も繰り返して、どんなアイテムが生み出されるか、もっとも効率の良さそうな合成ルートを見極める。
ギガマンティス打破に有効そうなアイテムを、これで生み出していった。
「いけね、夢中になりすぎてすげー時間経っちまった」
俺は急いでDIY工房から出ると、ウルフが駆け寄ってきた。
「クゥーン」
「よしよし。ごめんな、ほったらかしにして」
「クゥーン」
「すまないけど、お前にもこれからやろうとしてる作戦、少し手伝ってもらうからな」
「わんわん!」
ウルフは嬉しそうに尻尾を振る。
「成功したら、褒美に大量の焼き魚をプレゼントするぞ!」
「わおーーん!」
ウルフの喜びの声に、俺も自然と笑顔になる。
※ ※ ※
「ソータ様、ようやく見つけました。どこに行かれてたんですか」
ウルフのふわふわな毛皮をもふもふいじっていると、遠くの方からリリアーナがやってきた。
「ちょっとな。それで……教えて欲しいことがあるんだが」
「はい、どういったことですの?」
「ギガマンティスについて、できるだけ詳しく、情報を教えてくれ」
「!! いよいよ、やっていただけるのですね!!」
「ああ、おおかたこっちの武器は準備できた」
「さすが、異世界からの旅人様です!」
「ああ、まあな」
胸を張る俺。
「くうんくん」
ウルフも真似をして偉そうにしている。
「だって敵の情報を詳しく聞く前に、武器の準備ができているなんて。一流の軍師様にも無理ですの」
……おう。
それ、遠回しで馬鹿にしてない?
一流の軍師にも無理って……。
だって仕方ないじゃん。
エルフの子供達を守りたいとか、DIY工房で合成検証して作戦練るとか、全部リリアーナと別れた後に考えたことなんだもん。
人間って結構、行き当たりばったりの思いつきで行動しちゃうぜ?
エルフ様にはわかんないだろーけどな。
「? 何かご不満なことでも?」
「いや、まったく。それより情報はよ」
エルフの姫は、風に吹かれる銀髪を抑えながら、話し始める。
「ギガマンティスは、過去の襲撃から逆算しますと……乾いた風がよく吹く日の次の日に現れることが多いですの」
「乾いた風か……それがヒントってわけだな」
「クゥーン」
「! そして、今日がつまり……」
「ええ。その乾いた風が吹いている日……。つまり、来襲は明日の可能性が高いですの」
リリアーナは頷く。
「そうか……。あ、ちなみに、そのギガマンティスが襲ってきたのって、村のどのあたりだったんだ?」
「そう、ですね……、ちょうどよろしいでしょう。その爪痕を案内してあげますの」
エルフの姫が連れて行ってくれたのは、襲撃跡地。
目の前に広がるのは、ボロボロになった家屋、破壊された畑、そして壊れた水車。
「ひどいな……」
「少数いたこの村の衛兵たちも、いまはもう……」
リリアーナが目を伏せ、悲しげな表情を浮かべる。
「そうだったのか……」
俺は胸の奥が締め付けられる思いだった。
そうして、エルフの姫は、スッと羊皮紙を手渡してくる。
「ギガマンティスについて今まで調べてきたことをまとめたものです」
おお、そんなものが……先ほどの衛兵たちの弔い合戦のためにもこれは読み込む必要があるな。
「お力をぜひともお貸しください」
リリアーナの言葉を聞き、俺は静かに頷いた。
※ ※ ※
その日の夜。
エルフ村の来客用の小屋で、リリアーナから夕食をご馳走になる。
「どうぞ、異世界の旅人様。村で取れたものばかりですが……」
テーブルの上には、彩り豊かな野菜や果物、香ばしい香りを放つ焼きパン、そしてスープが並べられていた。
「すげえ……これ、まさかエルフ料理かよ!?」
口に運ぶと、素材の味がそのまま生きている。質素だけど優しい味が体に染み渡る。
「うまい……めちゃくちゃうまい!!」
「お口に合ったようでよかったですわ」
きっと、この料理も片っ端からショップ登録できて、売却可能なアイテム化されるんだろうが、今はそんなこと関係ない。
目の前の美味しい食事に舌鼓を打つのに夢中だった。
リリアーナが微笑む。
「こんなに美味しいそうに食べていただけるなら、作った甲斐がありましたの」
「えっ! まさか、姫様お手製っすか!?」
「はい、もちろん」
うおおおおおおおおお!! と、俺はパンをかじりながら、心の中でエルフ村に感謝を捧げた。
「エルフ村、最高だな……」
そうして満腹になった俺は、小屋に用意されたベッドに潜り込む。
「うわぁ……快適すぎる……」
ふかふかのベッドに包まれる感覚が心地よく、数日ぶりの安眠に体が喜んでいるのを感じた。
「ギガマンティス倒さずに、このままずっとここで暮らしたいな……」
って、そんなこと言ってる場合じゃない。
俺はベッドの中で、昼にリリアーナから託された『ギガマンティス情報』の書かれた羊皮紙を読み込んでいく。
「ふむふむ、なるほど……ふわぁ……」
そんなことを思っているうちに、意識が遠のいていった。
※ ※ ※
翌朝。
俺はベッドから勢いよく飛び起きる。
「さあ、カマキリ退治といきますか!」
異世界どうぶつのもり ~魔物とショップ機能とDIYでゆるく過ごす楽園スローライフ。転移直後に背負わされた借金三十億円を返すのなんか楽勝です~ @sunao_eiji
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