キャロット・コンプレックス

@maguro1079

第1話『アマテラスの誘い』

 其れは、遠い遠い─────私達「人間」が誕生する前の、哀しい伝説



 「どうか……我の代わりに、”太陽”を照らしておくれ……」


 月の神・ツクヨミによって洞窟に閉じ込められた、太陽の神・アマテラスオオミカミは、永遠の闇に封印されました。


 アマテラスは洞窟の中で日に日に弱っていきました。


 このままではいけないと────

 アマテラスは自身の御神体ごしんたいを五つに散りばめました。


「我の”加護”を持つ者達よ………、どうか……”依代”と共に…、再び世界に”太陽”を照らしておくれ─────」


 いつか────その御神体ごしんたいが五つに合わさった時


「再び世界は”光”に包まれるであろう……」


 アマテラスは美しい笑みを浮かべ、その生命を自ら断ちました──────





 。



 。



 時は現代───────




「二礼二拍手一礼……と───」



 (アマテラスさん……今日もどうか、お父さんとお母さんの機嫌が悪くありませんように。)




「……それでは、行ってきます!」


 今日はなんだか、いい事がありそう───


 私の家の近くにある、東京太神宮とうきょうたいしんぐうは、あの最強の神・天照大御神アマテラスオオミカミが祀られている。どんなお願い事も叶えてくれると噂される、東京で一番の最強の神社としては有名な話。



「あら、いとちゃんおはよう」



「あ、おはようございます」



 丁度鳥居を潜って来たのは、毎朝御参りすると必ず会う、参拝仲間のトメ子さん。

 御年80歳との事。物凄いパワースポットマニアで、国内の神社は全て制覇してるとか……


いとちゃん偉いねぇ、若いのに……」


「毎日御参りしないと落ち着かなくって……。それに──私、この神社が……アマテラスオオミカミが好きだから。」


「アマテラス様も嘸かしさぞ御喜びになっているだろうよ…。」


「そうだと良いなぁ……」


いとちゃんは、天照大御神の伝説は知っているかい?」


「弟のスサノオが原因で、洞窟に引き篭った話ですか?」


「それは、”この世界”での伝説───……」


「”この世界”?」


「もし、スサノオが原因じゃなくて、月の神・ツクヨミが、アマテラスを闇の洞窟に閉じ込めたって伝説が本当だったら……、いとちゃんはどうする?」


「え、えぇ~~~!!そんなまさかあ!!。トメ子さん、またまた御冗談をっ」


「……そうね……、オホホホ御冗談よ~。ほら、いとちゃん、学校遅れちゃうわよ」


「あ、ほんとだ!……じゃ、トメ子さん、また明日ー!!行ってきます!」


「行ってらっしゃい~~」




 。


 。


 私、朝日 愛あさひ いとの趣味は神社巡りと参拝です。

毎朝学校に行く前に、御参りをするのはルーティンとなっている。



「朝日さんって、なぁーんか古臭いってゆーの?」


「毎朝、神社に参拝に行ってるんだってぇ?」


「今どきの女子高生じゃ有り得ないってぇ~!あははは!ちょーウケる!」



「なんか、人生損してそう」


「分かる」


「あ、今日って2時限目数学?」


「うわー、だるっ」


「今日の帰りどこ行くー?」



学校なんて、楽しくない。私の居場所は此処にはない。

 下品に笑って、コソコソと人を貶す事しかできないクラスメート。全然楽しくない勉強。



「……神社の良さも知らない癖に」



 お父さんとお母さんは離婚寸前の状態。物心ついた時から何となく感じていたけど、お互い憎み合っている。なんで離婚しないのか聞いた時、”私が居るから仕方なく”と言われた。



 だからなのか、苦しい時の神頼みじゃないけど、毎朝欠かさず参拝するようになった。



 嗚呼……神社の透き通った...空気……空間

 私だけの特別な時間は、本当にあの朝の一瞬だけ



 キーンコーンカーンコーン……─────



 (あ、今日も終わっちゃった……、帰ろっと……)



 家には何となく帰りたくなかった。

 今日は…………今日は大丈夫かな?

 お父さんとお母さん……機嫌悪くないかな


 ガチャ…


「ただいま───」


いとが居なかったら、アンタとなんかとっくに別れてるわよッ!!」


「なんだよその口の利き方はッ!!!」


(うぅ……早速喧嘩してるよ)


「ただいま……」


いとが駄目なのはアンタのせいよ」


「俺のせいにするなよ!!子育てはお前の仕事だろうが!!」


 やめて


「お父さん!お母さん!やめて!!」


いと…」


 やめてよお願い


いとが居なかったら………、こんな思いせずに済んだのよね。中絶する罪悪感に押し潰されるくらいなら……って、思ってたけど───……いとを物凄く傷付けてる………」


「お前…何言ってるんだ?」


いと……お母さんね、駄目なのよ……──…この世に生んで…ごめんね。」


虚ろな目をした母は、泣きながら私を一瞥した。


「そんな事言ったらいとが可哀想だろう!!」



「─────やめてよッ!!!!!」


初めて、2人に向かって怒鳴った気がする


「…それ……本心なの……?」


「………」


「っ……だったら生まなきゃ良かったじゃない!!好きでこんな所に生まれたんじゃないんだから!!」



 伸びてきたお母さんの手を叩いて、私は家を飛び出した。


 初めてだった────────


 お父さんとお母さんのあんな悲しそうな顔を見たの。



「っ……」



 溢れる涙は止まらなくて、このまま消えてしまいたかった。

 私は生まれない方が良かったんだ。だって、お父さんとお母さん、いつも仲悪いし、私が居るから仕方なく一緒に居るって……言ってたもんな……。


 2人の幸せを……私が奪ってたって事?……



「っ……あれ………」


 いつの間にか、東京太神宮とうきょうたいしんぐうに来ていた。

 辺りはもう暗くて、なんだか少し不気味だった。

 それでも、私の足は鳥居を潜ろうと進んでいた。


 (もう……私には居場所がない。私は……誰からも必要とされない────)



 ピチョン……────────



 水滴が落ちる音が響いた。

 いとは驚いた────鳥居を潜った瞬間、洞窟のような場所に、立ち尽くしていたのだから。

 それでもいとは、吸い込まれるように洞窟の奥へと進んでいく。



 すると──────



「何コレ…?」





 剣……にしてはとても細い。


「えーと、確か……なんか漫画とかで見た事あるかも……」


 スマホを取り出して調べてみると


「”レイピア”……」


 16-17世紀頃のヨーロッパで使われていた、護身用や決闘などで使う武器────


「なんでこんな所に……こんな物が」


 いとは無意識に錆びたレイピアに触れた。



 《 神國地神球しんこくちじんきゅうを御救い下さい─────》


「え……!?」


 カランッ!!───────


咄嗟に愛はレイピアを投げ捨てる。

錆びたレイピアから低い老婆の声が響いた。


 《我の問にお応え下さい……汝の名は───》



「朝日…いと─────」



 《天照大御神の依代よ……神國地神球しんこくちじんきゅうに光りを──────》



 カァァァッ!─────────


レイピアは朝日色あさひいろの光を放ち、五つの名前がいとの脳内に浮かんだ



天道てんどう


落暉らっき


火輪かりん


輝日てるひ


あきら



「なに……コレ!?────」



《天照大御神の御神体ごしんたいを持つ者達───人神にんじんと共に、地神球ちじんきゅうに陽の灯る宴会を………》


にん……じん……」


独りでに浮かび上がるレイピアは、いとの周りをグルグルと回転する。回転するのと同時に洞窟がぐにゃりと歪み始めた。


すると───────



「お待ちしておりました……いと殿」



神社から洞窟から、次は”儀式の間”のような場所に景色が変わっていた。


「あ……え……此処は────どこ?」



神国地神球しんこくちじんきゅうじゃよ」


目の前に佇む老婆は微笑み、いとは完全に思考が停止した。




其れは、哀しくも愛しく

孤独な心を抱えた少女が、ひとかみに太陽の光を照らす物語──────

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