第3話 冒険者登録と癖が強い人々
「ミスルお姉ちゃん、そろそろギルドに向かおうと思うんだけど」
「そ、そうね! それがいいと思うわ」
うむ。我の完璧な擬態に対してミスルにもある程度の耐性ができたようだ。これなら大丈夫だろうと冒険者ギルドへと向かう。
迷宮都市と呼ばれるだけあって、この街には冒険者が多い。そのためギルドの建物もなかなかの規模だ。
「おい、坊主。冒険者ギルドに何の用だ?」
入るなり、強面の男が声をかけてきた。先輩冒険者であろう。
「冒険者として登録しようと思って」
「坊主が冒険者だぁ? やめとけやめとけ。なまっちょろいガキには務まらない仕事だ」
「プフッ」
肩に乗せたミスルが小さく噴き出す。我が“なまっちょろい”と言われたことが面白かったらしい。
釣られるように男の視線が我からミスルに向く。その途端、目元がハッキリとわかるくらい緩んだ。
「それで、その……なんだその、ウサちゃん……兎は!」
ウサちゃん?
今、ウサちゃんと言ったか?
いや、気のせいであろう。この強面でそれはない。
兎を連れていれば
「ミスルは僕の家族です!」
言い返すが、男はミスルに向いたまま。その顔はニヤニヤと緩みきって、しまりがない。
「家族か、家族は大切だな……いや、しかし、これから手続きをするのにペット同伴というのは、な。俺がしばらく預かってやろうか……?」
こう言っている間にも男の視線がミスルから外れることはない。我の冒険者登録を咎めるという口実で話しかけてきたはずが、それを手助けするような言葉が飛び出す始末。
我の明晰な頭脳が、一つの結論を導き出す。コイツ、ただミスルを愛でたいだけだな。
「それなら、お願いします」
「お、おう! 任せておけ!」
「っ!?」
願い出ると、男の顔がぱっと明るくなった。対するミスルはブンブンと頭を振り、もがく。
「家族と離されて不安か。少しの間だから心配するな」
男にあやされながら、ミスルが助けを求めるように我を見る。
しかし、耐えるのだ、ミスルよ。
我の見たところ、この男はかなりの実力者。ギルドでも一目置かれる存在に間違いない。
そんな男に認められれば、ミスルを連れ歩くことに難癖をつけるヤツはいなくなるはず。これは必要なことなのだ。
「おお、おお。可愛い、ウサちゃんでちゅね〜」
背後から猫撫で声。流石の我もこれには噴き出しそうになる。ミスルに耐えられるはずもない。
「ブッッフォ!?」
やはり盛大に噴き出したようだ。耐えよ、耐えるのだ、ミスルよ!
さて、そんなミスルを置いて、我は受付へと向かう。数人の受付嬢が対応しており、ちょうどその一つが空いたので、そちらに向かう。
「こんにちは。はじめまして、ですよね? 私は受付を担当するカテナです。ご要件は?」
「こんにちは、リビカです。冒険者登録に来ました」
「かしこまりました。それでは手続きに入りますね」
ニコリと笑顔を浮かべながらも淡々と仕事を進めるカテナ嬢。なかなか優秀な職員のようだ。
まずは簡単な注意事項。喧嘩はするな、街中で武器は抜くな。当たり前のことを説明されたので、ひたすら頷いていたら話は終わった。
「次に冒険者ランクについて説明しますが……ハッキリ言いますと、迷宮都市ではあまり意味がありません」
「そうなんですか?」
「ええ。もちろん、よそで活動するなら重要ですよ」
冒険者は実力や功績を評価されるとランクが上がる。ランクが高ければ高難度の依頼が受けられるのだとか。
しかし、迷宮都市ダステンではあまりランクが重視されない。ほとんどの冒険者が迷宮探索を生業とするからだ。
代わりに評価されるのが踏破階層。どれほど深くまで潜ったかで実力が評価される。
「階層ごとに規定の採取物を納品していただくことで踏破認定をいたします。また、階層を飛び越えての認定はできませんのでご注意を」
「わかりました」
その他、細々とした話を聞いてようやく登録である。と言っても、やることは質問に答えるだけ。2つ、3つ答えるとそれも終わる。実に簡単だ。
「登録料の小銀貨1枚は今すぐ払えますか」
「大丈夫です」
「はい、たしかに。では、これが冒険者証です。迷宮に入るときやギルドの施設を利用するときに提示を求められることがあります。常に持ち歩いて、なくさないようにしてください」
手渡されたのは、ドッグタグのようなものだ。革紐で首から下げられるようになっている。
「ギルドの施設って、どんなものがあるんですか?」
「訓練所や資料室ですね。あと、重要なのが祭壇室です。ギルド員なら無料で利用できますので……あ、職業加護はご存知ですか?」
「すみません。知りません」
「いえ、大丈夫ですよ。お教えしますね」
職業加護とは、職業神の授ける加護のことらしい。冒険者としての活動が有利になるので、特にこだわりがなければ授かるようにと強く勧められた。
登録手続きも終わり、受付を離れようとしたところで、カテナ嬢が付け加えるように言う。
「危険は迷宮だけではありません。充分に御注意を。昨日も街外れで駆け出しの子が一人暴漢に襲われています」
その話は、思い当たる節があるな。昨日の赤髪の少女か。
「暴漢に、ですか? それはいったいどういう……」
「詳しくは覚えていないようです。何者かに刺され、死にかけたところを誰かに助けられたと」
ふむ。証言があるということは無事保護されたのだな。あのあと、ギルド近くの人目がつく位置に転がしておいたので、そうなるとは思っていたが。
一瞬とはいえ、我のことを見られたので少々気になっていた。だが、この様子なら特に問題はなさそうだ。
と思っていれば、突如、カテナ嬢から笑顔が消えた。そして、ポツリと呟く。
「王子様か。なんで私のところにはこないのかしら」
目から光が消えている。これは、いかん!
「手続きはこれで終わりですよね? それじゃ、僕はこれで」
「王子様……」
絡まれるとろくなことにならないと予見した我はそそくさと逃げ出すのであった。
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2025年1月11日 07:05 毎日 07:05
理外の復讐者、復讐があるけど冒険も楽しむ!~あ、それルール適用外です。戦闘システムが違いますので~ 小龍ろん @dolphin025025
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