ライフオブメタル

YOUTHCAKE

第1話 豹変

『サッちゃん、学校お疲れ様。』と声をかけたのは、平日の真昼間にも関わらず、近所の小学校の近くにある通学路を散歩している、肥満体形で頭の禿げた歪な歯並びをした鼻毛ボーボーの汗だくの初老男性である。グンゼと書いてある下着のシャツ一枚に、膝上のダメージジーンズの短パンを履いているが、おそらく彼のファッションセンスでは長年の使用によってひどく傷んだだけで、ギターで言うレリック加工のように素敵なものではないだろう。彼は、ほくそ笑んでいた。


『あたし、知らない人と喋っちゃいけないことになってるの。話しかけないで。』とハッキリした言葉で自分を表現する性格の田中幸(たなかさち)8歳は答える。


『あら?僕のこと知らないかい?僕はね、君のお父さんの、遠い親戚で、今日はお母さんが仕事で帰りが遅くなるから、迎えに来るように言われたんだよ?』と言って不審な彼は彼女の警戒を解こうと、使い慣れた嘘を吐きだす。


『そんなこと、聞いてないから知らないわよ。でもなんで私の名前を知ってんの?』と幸は気持ち悪さを露わに撥ねつけるが、思わず興味を持ってしまった。


『それはね、君のことはずっと校庭の金網の外で眺めていたからだよ。特活の遠きはずっと、友達と遊ぶことはせずに、いつも校庭に埋まっている少し大きな石を掘りだしているだろう?それに、一人でいる君を心配した友達に声を掛けられても、「あたしはいいの。一人が好きだから。」って言うじゃないか。勿体ないな。』と男は言う。そんな彼こそ、親から見放され、社会からも見放され、無職を謳歌してつまらなくはないのか…。


さて、幸はなんて言うのか。


『で、どうするつもり?あたしを、連れ去ろうってわけ?』と幸は腕組みをして彼に問いかける。『犯罪者になりたいわけよね?あたしはどうなっても知らないわよ。』と、幸は続ける。


『いひひひひひひぃ!威勢がいいなあ!オジサンはそう言うの好きだぜえ!』と涎を口角から吹き飛ばしながら男は言った。もうすでに、眉唾物というにはほど遠いバレバレの薄っぺらい嘘の虚勢男から、恥を捨てたペドフィリア(小児性愛)の悪魔のような姿に変わった。


悪魔のようなその男は、諸手を広げて幸に追突していく。そのまま、彼女をキッドナップして家に持ち帰り、お楽しみと行こうとしている様子だ。周りには人気がなく、帰路に就く少年少女もいなければ、それを見守る大人もいない。


突如、『辞世の句は必要ないか?』と幸は極端に低い声で言う。おや、それまで小さく華奢な少女だったはずの幸の面影はなく、そこには身体の中から何かが出てくる異形の怪物がいた。身体の中心には幸の余韻が少し残る小さな肢体があり、そこからは長い手足と長い首がビロリと伸びていた。


『なんじゃああ?!』と叫んだ変態男の、小児という弱い人間相手でこれまで一向に鍛えられていない反射神経は、自身が怪物に突っ込んでいくことを止められはしなかった。


『討伐。』と幸だった何者かは低い声で言い、手先、足先、顔に腹から伸びた無数の触手によって、変態男をからめとり、そしてその触手から出た溶解液によってどろっどろに溶かしていった。


『これが、お前の罪だ。』と幸だった怪物は言い、みるみる内に生きていた男だったはずのものを溶かしていく。


乙田美真彦45歳は、東京都文京区のとある小学校区において、幼女を複数名凌辱し、死体を遺棄した罪で極秘に指名手配されていたが、その事実は、乙田の父親が警視庁長官であるためにもみ消しにされていた。


そんな折、彼の罪を異世界から聞きつけた処刑人の一人、通称『メルトダウン』が現世に降り立ち、彼女が被害に遭いそうな女性徒に扮し、犯人をおびき寄せ、無事に仕事を全うした。ということだ。


異世界処刑人集団、『ディザスター7』は、他にも、地獄の業火で標的を炭まで塵になるまで燃やし尽くす通称『ドラゴンヴォルケーノ』や、異次元に対象を抹消できる能力を持つ、通称『ヴァニッシュ』などがいる。


(シリーズ化はしない)

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