第2話

「あんた本当に忘れたの?」

「うん…記憶ないです…」

「おいおい」


 頭を抱えるふみ


「酔っ払ってたから仕方がないとして」

「うん」

「だよね」


 ごもっともだ。

 だが、忘れたから。

 文が経緯を説明してくれた。



 打ち上げで盛り上がっている中、1人の男子学生が私の隣に座った。


「はじめまして」

「は、はじめまして」


 誰だ?

 ぽかんとしていると「関わりなかったからね」と笑う男子学生。


「俺は相田あいだ義武よしたけ、裏方の方で音響担当」

「へぇー」


 私は表の司会だったから音響担当とは話す機会はなく、同じ司会をやっていた伏見ふしみ君に任せていた。

 人見知りで慣れない人と上手く話せないから、音響担当と話すことはなかった。


「私は椙原すぎはら静羽しずは、よろしくです」


 ぺこっと頭を下げた。


「よろしく、椙原さん」



「ここまで聞いて思い出した?」

「ぼんやりと」

「じゃあ続きいくね」



 楽しく会話をしながらどんどんお酒を飲むスピードが上がっていった。


「ところで椙原さんって彼氏は?」

「んー?そうだねー」


 酔っていて楽しいがあるから浮き足立つ感覚に。

 ふわふわもしていた。


「いないよー」


 にやにや笑いながら答えた。

 すると相田君は「本当に?」と確認で質問した。


「いないいない、ほんとほんとー」


 ぐびっとビールを飲み切る。


「すみませーん!芋お願いしまーす!」


 調子こいた。



「なんか…うん…そうだった…」

「分かった。んでその後に相田君は静羽に付き合ってって言って、あんたはOKを出したわけ」


 OKを出した…


「記憶にない」

「うわー…最悪…」


 そんなこと言わないで文ちゃん。


「飲み過ぎた私が馬鹿なのは分かったけど、本当にヤバい」

「ヤバいね、どうするの?」

「うーん…」


 正直に言うのが良いのか。

 それとも黙って流れに身を任せるのが良いのか。

 懸命に考えて考えて考えて…。


「とりあえず話す」

「おお」

「流れに任せる」

「どっちなんだよ」

「話さないと分かんないし、第一、顔もうろ覚えだし」

「あちゃー」


 そうこうしていると「あっいたいた!」と声が聞こえた。

 声が聞こえた方向を見ると、男子学生だった。


「おはよう静羽に文ちゃん」

「おはよう相田君」

「…」


 さ…さ…ささ…


 爽やかイケメンやーん!!!


「お、おおはよう…ございます」

「キョドってるけど何で?」


 彼は、相田君は私の隣に座った。

 にこにこしている。

 こんな人に告られてOKしたのか昨日の自分。

 ブサメンだと思っていた…ごめんなさい。


「相田君、あのね、静羽が実は」

「文、大丈夫」

「静羽?」


 親友の気遣いに感謝して、私は深呼吸を1つした。

 落ち着いてきたところでこう言った。


「確認なんだけど、私達恋人なんだよね?」

「えっ」


 世界が止まった気がした。

 私と彼しかいないんじゃないかと思った。

 しばらくして相田君は吹き出して笑った。


「そうだよ、俺と静羽は恋人」


 目を丸くなったのが分かった。

 顔が熱くなったのも分かった。


「もしかして覚えてない感じ?ならもう1度言うよ」


 彼はくすくす笑いつつも優しい眼差しに切り替わり、優しい声でこう言った。


「俺と付き合って下さい」


 ストレート過ぎた。

 ズキューンと撃ち抜かれた。

 頭がくらくらする前に、私は返した。


「よろしくお願いします」


 文はぱちぱち拍手していると、こっそり聞いていた周りの学生たちも拍手し、あたたかい空気になった。

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次の日、恋人が出来ていました 奏流こころ @anmitu725

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