次の日、恋人が出来ていました

奏流こころ

第1話

「「「かんぱーい!!!」」」


 学祭の打ち上げで飲んでいた私・椙原すぎはら静羽しずは

 大学3年の秋のこと。

 お酒は美味い、最高。

 お酒に合う料理も美味しかった。

 最高の仲間たちとの打ち上げ、幸福を感じていた。


「飲み過ぎたかも…気持ち悪ッ…」

「大丈夫?しず」


 肩を貸してくれているのは親友の三隅みすみふみ


「ビールからの芋だ日本酒だなんだとね」

「ごめんなさい…」

「送るから、頑張って歩くよ」


 文に感謝して頑張って歩く。

 だが、気持ち悪さが勝ってきていた。

 吐きそうだ。


「吐きそうの時に言ってよ?もう吐くだと対処出来ないから」

「じゃあ今です」

「マジかよ!?」


 文はシャッターが閉まっていた建物の前に私を座らせた。

 袋を取り出し私の口元に。


「持てる?」

「はぁ…はぁ…無理…」


 文、ありがとう。ごめんなさい。

 胃液とともに這い上がってきたものを袋に吐いたのだった。

 そして文は私を快方しながらタクシーをつかまえて、それに乗って帰ることにした。



「ほら着いたよー」

「ういー…」


 オンボロアパートに着いた。

 やっと帰って来た。

 吐いて気持ち悪さは解消されたものの、今度は頭痛がしていた。


「タクシー代は後で返す」

「了解、んじゃ自分で歩ける?」

「うん、ありがとう」


 文はそのままタクシーで帰って行った。

 ゆっくり歩いた。

 1階に住んでいて本当に良かった。

 2階だったら何十分、いや何時間かかるのやら。

 部屋の前に着き、鞄から鍵を出して開けた。

 中に入り、倒れ込んでそのまま寝た。

 頭がすうーっとしてきて、まるで飲んでいた記憶を消し去るかのような感覚になっていたが、気にせず眠気に身を任せたのだった。


 これが後の祭り。

 次の日のこと。

 ピンポーン、とメッセージアプリの音が聞こえて目が覚めた。


「えっ…えっ…!?」


 玄関で寝たなんて初めてだ。

 衝撃を受けつつ、酔っ払ったか。

 誰が送ってくれたのか分からない。

 予想は文辺り。今日会ったらお金のやり取りしていたら即返そう。

 ドアの鍵を閉めてから、鞄の中を確認すると物は取られていなかったし、部屋の中も荒らされていなかった。

 良かった、不法侵入なし、無用心なことをしたなと思い反省する。

 それからやっとスマホを確認。

 メッセージは1件。開くと…。


「は?」


 『おはよう静羽』


 …誰だ。


『昨日は文ちゃんが送って行ったけど無事に着いたかな?』


 …マジで誰。


『2限終わったら食堂に来てね、待ってる』


 …だ、か、ら…


「誰なんだ貴様ー!!!」


 叫んでしまった。

 直ぐに大家さんや隣の人に謝った。

 本当に本当にごめんなさい。

 

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