夢中な剥製、仕立てます!

湯ノ元らか

第1話 序章

 

現在、廃墟は屋上! 高さおよそ40メートル!

風が吹く。強風だ。でも生暖かい。

夏が終わったようで夏なようで。

秋にしてはまだ寂しくなりきれないこの季節の思い出を掘り返す。

…片手ではためくスカートを抑えながら。



「そっか、文化祭だ。たしか来週くらいだったかなあ」


 思い出されたのは去年の文化祭。


陽菜ひな~!はやくはやく~!」


沙良さらが私を呼んでいる。

亜美あみは相変わらずニコニコしている。

莉緒りおは早く先に行きたそうだ。


 そんないつも一緒にいるグループの子たちとおしゃべりして写真撮って食べ物買って…わざわざ思い返す必要もないほどの普通の楽しみ方。別にやってること自体はいつもとほとんど一緒なのに。だけどふと思い返してしまうのは、そこでなにか…言葉では言い表せないけど「本質」のようなものに出会った気がするから。


「文化祭の職員室、ねぇ…。」


 そうだ、ふと視界に入ったあの日の職員室だ。思考より先に思わず口からこぼれた事実に驚きつつ、なんでも口に出してみるもんだなぁとどこか感心したような不思議な感覚。


「「本質」だとかずいぶん仰々しく銘打ってたわりにはずいぶん冴えない記憶じゃない?」


ため息交じり。

ちょっと自虐的に言ってみる。


「まぁ今夜くらい、ちょっとポエミーになってみったっていいかもね。」


誰が聞いてるわけでもないけど言い訳してみる。



ひとり思考がぐーるぐる。



でもね、


騒がしさの中にあまりにも日常があふれる空間。どれほど学校中が浮かれていても、職員室はいつも通りに粛々とその業務を全うしていた。その光景に一瞬であったとしても目を奪われたのはやはり事実なのだ。

 

たぶん、私はそうやっていつも物事の外にいることに安心感を求めていたように思う。

でも、今夜は。そう、今夜は私が熱狂の渦となる。私は今夜、熱狂に飛び込み、自らがその中心となる。熱を帯びることを忘れてしまったこの人生に終止符を打つ。


どう?なかなかポエミーにキマってるでしょ?

それとも、ちょっと拗らせが過ぎてたかな?


沙良、亜美、莉緒の顔を思い浮かべてみる。

私の死体を見たらなんていうかな。

ま、見られることなんてないんだけどね。


だって三人とも私がし。


じゃあね~ ばいばい。


風がとんでもないスピードで下から上に駆け上がっていく。

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