#3 かきかえ


「それにしてもあんた、ほんとに魔力少ないね。街であんたのこと見かけたんだけど、身長も髪も伸びてたし、気付かないとこだったよ。まぁ逆に少なすぎてあんただって確信したんだけど。」

サンドイッチを食べながら、ラズリス姉さんが言う。真剣な顔でひどいこと言うなぁ。

「それって不名誉ですね。一応少しは気にしてるんですよ?」

俺はおどけて返す。確かに小石サイズの魔法で倒れたけど、改めて言われると悲しい。そういえば髪も身長も伸びたのか。確かに栗色のくせっ毛は肩につきそうだ。身長は長いこと会わないと伸びたように見えるんだなぁ。伸びたと言われてもクラスで1番小さい。あ、だから女の子と勘違いしたのか。チビだし髪は長いしで。


「私が"道案内"ブロートであんたのこと図書館まで案内したんだけど…」

あんなにすぐ図書館ついたの、勘がさえてたからじゃなかったんだ。"道案内"はその名の通り、かけた相手に目的地までの道のりを認識させることができる魔法だ。授業で習ったけど、姉さんがやったのはほぼ思考誘導とかそっちだろ…。というか、俺が道に迷ったことに気付いたのか、気遣いが鼻につくな…

「何でそんな睨んでるのさ。まぁいいけど。…ほぼ最小の魔力でよたよたしてたからびっくりだよ。あんたすぐ魔力に酔うみたいだね。」

「酔う?」

「知らないか!えっと、自分が持ってる魔力の3倍以上の魔力を浴びると魔力に酔っちゃうんだよ。魔導書もらった時にも同じようなことにならなかった?」

「なりました!てっきり魔力がなくなったからかと…」

姉さんはあははと笑って続ける。

「あれはお祈りみたいなものだから、自分の魔力はちっとも使わないよ。」

へぇー、そうだったんだ。

それじゃあ…俺は食べていたパンをちぎって見せながら言った。

「初めての実技授業で、このくらいの火の玉を出して倒れたんですけど、これは魔力枯渇ですよね?」

すると姉さんは目を見開いて言った。

「初授業で成功させたのか。あんた才能はあるんだね。もったいないなぁ。」

あ、俺才能がないんじゃなくて、魔力なさすぎるだけだったんだ。まぁどっちにしろ魔法が使えないことに変わりはない。俺が最後のパンのかけらを口に入れると姉さんは立ち上がった。


「さぁて、帰ろうか、あんたん家に」

え?今から?もう日が暮れそうだけど…

「歩いて、ね!」

えぇぇぇ?!しかも歩いて??

「とりあえず試したいことがあるし、向かいながらやろうか。まぁ夕飯時にはつくよ。」

いやどういうスピードで歩こうとしてんだ。列車でも2時間はかかる距離だぞ?

「はやくしないと、夕飯無くなっちゃうよ?」

「あーもうわかりましたっ!」


キラハの市境を超えて、何分歩いたろうか。小さな森を抜けて少し広いところに出た頃、

「この辺でいいか、よしっ、実験するよ!」

やっぱり試したいことって…

「魔法、撃ってもらうよ」

「いやー、無理ですって。姉さんもわかるんでしょ?全く魔力がないこと。」

「あ、知らないのか。じゃあ座学からだね。」

姉さんの言っていたことを要約すると、こんな感じだ。


魔法の発現方法。

全ての魔法はかきかえによって発現する。と言うより、かきかえによって起こった事象を魔法と呼ぶ。かきかえる方法の一つとして術式がある。この世界の事物はすべて、術式に置き換えられると言われ、魔法で実用的な物質は術式化がされている。物体や法則の術式を書き換えることで発現するのだ。また、術式は"魔法言語"で構成されている。


例えば水の玉を木にぶつけるとしたら、

「手元の空気を水に置き換える」という物理的な書き換えと同時に

「思いのままに操れる」というルールを追加する。

こんな感じに術式は組まれている。

これらの術式によって発現した魔法が俗に言う"水を操る魔法"ネミロ。ちなみに様々な魔法をうまく組み合わせれば術式を作ることもできるらしい。兄ちゃんは中央に言った後、魔法研究の課題でオムライスを5秒で作る魔法を作っていた。俺が作ったオムライスの方が「時間はかかるけど美味しい」と兄ちゃんが半泣きで言ってたっけなぁ。


「そして…」

姉さんは大きく息を吸ってからいった。


「1番大事なこと!」

ごくり…

「魔導書の1ページ目の魔法、個性魔法は魔力消費なしで撃てる!」

つまり…俺の1ページ目の魔法はかきかえで、すべての魔法はかきかえによって発現するわけだから…

「魔力がいらないってことですか!?」

姉さんは悪い顔をしながら親指を立てた。

「かきかえがあの魔法のことなら話は別なんだけど…」

そう言って姉さんは手のひらサイズのミニ結界を作り出した。

「触れてみて」

そう言われ、指先で触れてみる。

「じゃあ、"クラッフ"って言って?」

「"クラッフ"?」

俺がそういうと結界がパリンと音を立てて割れてしまった。

びっくりしていると姉さんはやるじゃん!と言ってこう続ける。

「今のは"術式を書き換える魔法"クラッフ。別名「書き換え」!結界はどれも微妙なバランスで成り立っているから少しでも術式をいじると壊れるんだ。あ、何気にあんた今、人生二度目の魔法を撃ったね。」

「…あ!ほんとだ。…というか確かにあの時みたいに何かがなくなる感覚がないです。」

あの時は貧血に似た感覚だった。視界が暗くなって、足の力が抜けていった。

「そうでしょ?ということはやっぱりあんたの魔法は「かきかえ」だ!さぁて、最終確認だ!"炎を操る魔法"フォーガを撃ってみよ!」


…ゴクリ。右手を前に出して手のひらを上に向けた。そして覚悟を決めた俺は呪文を唱えた。


「フォーガ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2025年1月10日 19:00
2025年1月10日 19:00
2025年1月10日 19:00

かきかえ平和譚 真奏田みあ @Meer_Makada

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画