#2 ラズリス
「お腹すいたなぁ…もう1年かぁ…」
兄、リエル・スフェンは今、自分が世界地図のどこにいるのか分からなかった。ただ1つ、分かっていることといえば、世界の命運が、自分にかかっていることだけであった。
ぐ〜
自分のお腹の音で、はっと我に返る。
弟、ライム・スフェンもまた、今、自分がキラハ地図のどこにいるのか分からなかった。ただ1つ、分かっていることといえば、銀貨がもう1枚もないのに、お腹がすいてしまったことだけであった。
まずい…まだ中央図書館にも行けてないのに…。しかもお腹は空いたわ、実は道に迷っているわ、散々である。てかなんで母さんは俺にお昼代も目的も持たせず追い出したんだ!?
あ!そういえば!俺はようやく母さんがカバンに入れてくれた地図のことを思い出し、取り出してみる。が、適当に歩き回ったせいで現在地が全く分からない。これじゃあ地図は意味が無い…えぇい!こうなりゃやけだ!俺は直感に任せることにした。
「…っ!」
まだ魔力が回復しきっていないのか、1歩踏み出した途端視界が歪んだ。魔力枯渇というのは重度の貧血みたいなものだ。空腹も助けて結構辛いが行くしかない。なんたってお金が無いんじゃしょうがない。
さっさと行って帰らないと、野宿することになってしまう。
右、左、左、左…あ、やっぱ右…ってもう着いた?!いつもならこうゆうとき、大体町外れに行ったりするのに、今日は感が冴えてる!
それにしても大きな建物だ。俺は全体重をかけて中央図書館の大きくて重い扉を押した。
わぁ〜!
そこには端が見えないほどの広い空間に大量の本が並んでいた。うちの町の図書館や学校の図書室とは比べ物にならない蔵書量。それに、やけに落ち着くような…。とりあえず、やることもないし黒い魔導書について調べてみようかな…
「こんにちは。何かお探しかな?」
俺が奥へ行こうとするとカウンターにいた司書のお姉さんが話しかけてきた。やけに優しい声だ。まるで小さい子に話しかけているようである。
「こんにちは。魔導書に関する本ってありますか?」
「…!!(この年で魔導書?まだ低学年じゃ…というかやけに大人っぽい喋り方してる?)」
なんかびっくりしてる?それに小さい声で何か言っているようだ。
「ちょっとごめんね…?」
お姉さんはそう言うと、左手で本を浮かせ、右手で俺の肩に触れた。次の瞬間、俺はクラっと…
しなかった。
「どーしたんだい、ぼく。こーんなとこ来ちゃって、小さいのに勤勉だねぇ。」
背後から聞きなれた声がして振り向くと、そこにはいかにも魔法使いといった黒い三角の帽子をかぶった女性が立っていた。
「ラズリス姉さん!?」
「ラズリス魔導士!?」
声を揃えた俺たちに、姉さんは口元に人差し指を立てて続ける。
「シー!…ったく、ここ図書館だから。ハモっちゃって仲良しさんだねぇ。あ、司書さん、この子、私の連れってことで、中に入れてもいいかな」
司書さんは目を丸くしたまんま、首を縦に振っている。そして急にしゃがむと俺の耳元で、
「君、なんであの方と知り合いなの?ってか男の子!?」
知り合いだったことよりも男だったことに驚いているようだが、俺はニコッとしながら
「ただ、ご近所さんだっただけです。」
と、答えておいた。嘘は吐いていない。ラズリス姉さんは俺の兄ちゃん、リエルの2つ上の先輩だ。兄ちゃんからよく話を聞いていたし、家が隣なのもあって、まるで実の姉のように小さい頃はよく遊んでもらっていた。姉さんは水魔法の使い手で、学校の初実技授業で中庭を水で満たしたらしい。俺が5歳の頃自慢げに話していた。怖すぎる…。そんな姉さんは学校からの推薦で兄ちゃんと同じく中央に国内留学していた。1年前からぱったりこなくなったが、たまたま会えるなんて運がいい。久しぶりに会えて何気に嬉しかったりする。
姉さんと一緒に図書館を見て回ることになった。歩きながら近況報告をしていると、
「それにしても、1年会ってないだけで大きくなったなぁ!」
そう言うと姉さんは俺の頭に手を置いた。
「バカにしてますよねぇ?」
「あっはは、してないって。ってか、なんであんたがここにいるのさ。」
あ、そうだった
「母さんに中央図書館に行ってこいって言われたんです。」
姉さんの足が止まった。俺は魔導書を取りだして続ける。
「昨日、魔導書を授かったんです。それで…」
1ページ目を開いて見せる。
「かきかえって、これしか書いてなくて…」
姉さんは目を丸くしている。俺が思ってるよりずっと珍しいことなのか?姉さんの口から出たのは俺の予想と正反対の言葉だった。
「あんた、すごいの貰ったね」
顔をひきつらせながらそういった姉さんはパッと俺の手を取ると奥へと早足に歩き出した。
まあまあ歩いてやっとついた壁際の棚から黒くて分厚い本を一冊取り出した。
「ここ、見てごらん。この本は最古の魔導書って言われてるんだけどね…」
姉さんの指差した先は1ページ目の1行目。そこには…
「かきかえ?」
「そう。この本によれば、全ての魔法はかきかえによって発現しているらしいの。」
かきかえと書かれたページには他に記述はない。俺の魔導書と同じような感じだ。こちらも"魔法言語"ではなく普通の言葉で書かれていた。
「たとえばこんなふうに…」
姉さんの手元に何かが集まるのを感じた。そして、
「あれ…?」
ほぼ同時に何かがぽっと消えた。
「あれ…?じゃないですよ、あれ?じゃ!」
後ろを見るとさっきの司書さんが左手に本を浮かべて立っていた。
「さっきの言葉をそっくりそのままお返しします!ここは図書館です!しかも国で1番大きな!重要な書物もたっくさんあります!魔法、ましてや火属性魔法なんて燃やし尽くす気ですか!?大体…」
「あー、ごめんってイオラ。」
「ご自身で魔力制御結界張ってらっしゃいますよね!?なんで内部の人間がっ…」
「ちょ、悪かったから!」
軽い騒ぎになっていて何人か人が集まっていた。ちょ、俺この2人に挟まれて、気まずいんですが…!そんなことを考えていると体が宙に浮いた。いつの間にか姉さんにおんぶされたのだ。
「イオラ!これ持ってくからね!」
あ、逃げた。何やら後ろから、それは貸し出し禁止ですーなんて聞こえたが、よかったのだろうか。
気付くとすでに出入り口の前まで戻ってきていた。姉さんは俺を降ろすと軽々と扉を開けた。
ふらっ。外に出た途端またクラっときた。よろけた俺を見て姉さんはフッと笑うと
「本当に魔力がないね…」
と興味深そうに言った。魔力がないとふらっとするもんなのか?
「それじゃ、実験と…」
ぐ〜
あ、お腹空いてるの忘れてた。
「…とりあえず、なんか食べよっか。」
俺は顔を赤くしながら頷いた。
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