かきかえ平和譚
真奏田みあ
#1 魔導書
俺は目を閉じる
(俺には才能がない…)
本を抱える両手にグッと力がこもる
(どうせ何も書いてないんだ。)
呪文を唱える声が震える
(もういいや、白紙で返ってきてしまえ…!)
俺を、その小さな体に抱えられた黒い本を、淡い光が包むー
「…ム、ライム!」
聞き慣れた声で俺は目を覚ます。あれ、さっきまで教会にいたはずじゃ…
「お、よかった。起きたのね。早く支度しないと、学校遅れるよー。」
…!やっば、俺の無遅刻無欠席が…!
さっきまでの疑問とブランケットを放り出してベットから飛び起きる。
「今何時!」
慌てたようすの俺に母さんは爆笑している。
「冗談だよ、冗談!ほんっとに混乱してるんだね、今日は日曜だよ」
「へ?」
視界がぐらっとして、一気に足の力が抜ける。俺はその場に座り込んでしまった。
「まだ酔いが抜けてないんだね、大丈夫?」
母さんは水を差し出すとこう続けた。
「覚えてる?あんた、11歳になったのよ」
その一言で、ふっと歪んでいた景色が元に戻った。なってしまったのだ、11歳に。
「本は!魔道書!」
「部屋に置いてあるわよ」
水をこぼす勢いでコップをテーブルに置くと部屋に走って戻った。
「…まぁ読んじゃうよなぁ」
部屋に入ると、確かに、机の上に一冊、小説くらいのサイズの、黒い表紙に白い魔法陣のような模様のある本があった。なんか小さくなってるな…まぁいいか。俺はごくんと唾をのんだ。ゆっくりと本を開くと、こう書いてあった。
「かきかえ」
え?えぇぇぇぇぇぇぇ?
たったの一言?説明もなし?白紙よりずっと意味わかんないんですけど?いや待て、まだ1ページしか見てないじゃんか。俺はパラパラとページをめくっていく。ついに最後のページ。そこにはまっさらなページがあった。
…何も書いてなかった。
やっぱりだ。
俺らは11歳の誕生日を迎えると、必ず女神様から魔導書を与えられる。魔法科の筆記で0点のあいつだってちゃーんともらってたんだ。まぁあいつ、実技は得意だけど。っと、魔導書の1ページ目には、はじめに1つだけ与えられる特殊魔法について書いてある。これは個性魔法と呼ばれ、一般魔法の上位互換だったり、今まで観測されたことの無い魔法だったりする。
このページ、魔法の呪文の他には発動条件やイメージが事細かに書いてある…はずなのだが、俺のはたったの一言。しかもこれは呪文では無い。呪文は"魔法言語"と呼ばれる特殊な言語で構成される。例えば
でも俺の魔導書に書いてあるのは「かきかえ」。呪文でもないようだ。こんなケースがあるなんて、先生からでさえ聞いたことがない。俺は魔法科の実技授業で小石くらいの火の玉を出して倒れたことがある。俗に言う魔力枯渇というやつだったらしい。魔力量は年齢とともに増える。また修行でも増やせるのだが…
担任の先生がいろいろ試させてくれたがどれもハズレ。俺の魔力が増えることは1度たりともなかった。産まれたての赤子よりも魔力が少ないらしい。
そんな俺が魔法を使うことは出来ない。女神様も困っただろうな…
俺が悲しくも納得していると母さんが部屋に入ってきた。
「あんた、黒い表紙だったよね?」
「そうだけど…」
「ちゃんと、調べてみたほうがいいかもね」
やっぱり黒い表紙って特別なのか…
「兄ちゃんも黒い表紙だったよね?」
「…そうだね。」
いつも明るい母さんらしくないトーンで返事が返ってきた。
少しの沈黙の後、
「中央図書館に行ってきな」
「え?」
「きっと、いいことあるよ。」
中央図書館?まあそこまでいうなら、行ってみようかな。
「わかった。」
母さんは、俺がいつも使っている肩掛けバックに中央の地図と俺の魔導書、中央まで行けるくらいの銀貨を入れて俺に差し出した。
「頑張ってきてね」
何を頑張るんだ…?しかもやっぱり様子が変だ。
そんな母さんに気を取られていると家から追い出されてしまった。
さぁてどうしたものか。とりあえず駅に向かって…って、今、俺、寝巻きだぁ?!
流石に寝巻きで中央まで行くわけにはいかない。雰囲気ぶち壊しで悪いが、俺は家に戻ることにした。玄関に入ると誰もいなかった。さっきまで母さんいたのにな。まぁここで会う方が気まずいだろうしいいや。
サクッと着替えて、あと、一応魔力石を持って、再度家を出た。
何人か、友達とすれ違って誕生日を祝われたが、みんな優しいから、魔導書のことは聞いてこなかった。
そんなこんなで駅まで着いた。まぁ列車に揺られながら、状況整理しようかな。まず、俺は昨日11歳になって、教会で魔導書をもらう儀式をした。その時に魔力を使うため、魔力が全くない俺は魔力がなくなって倒れた。目を覚ましてみたら手元には黒い表紙の魔導書があり、中には「かきかえ」とだけ書いてあった。ちなみに俺には3つ上の兄ちゃんがいる。兄ちゃんは魔導書をもらってすぐに中央に留学した。2年間は毎月一度は欠かさずに帰ってきて、俺と遊んだり、勉強を教えてくれたりした。でも去年からぱったり帰ってこなくなった。手紙すらない。母さんたちは忙しいからと言っていたが、本当か怪しい。だって兄ちゃんの話を振ると悲しそうな顔をするから。一体どうしちゃったんだろうか。黒い魔導書が関係していたりして…
というかちゃんと中央図書館に着くだろうか。そういえば「行け」と言われただけで目的がない。どうしよう…
そんなことを考えているといつの間にか眠っていた。ふと目を覚ました時には中央都市キラハについていた。ここは俺たちの住む国、ブライヤの首都だ。眠い目を擦りながら駅から一歩出ると、さっきまでの眠気と不安は吹っ飛んでいった。街に溢れる活気、みたことのない店の看板や食べ物。すでに楽しい…!もう来てよかった!俺は母さんがバックに入れてくれた地図のことはすっかり忘れて好奇心に任せて歩き出した。
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