いらない婚約者と言われたので、そのまま家出してあげます
大舟
第1話
広い広い大広間の中に、多くの人が集められている。
そこには貴族の人々から騎士の人々まで、さらには王族の人から平民の代表の人まで、多種多様な立場の人たちがその顔をのぞかせている。
そんな空間の中心にいるのが、私と、私の事を婚約者として決定したノルド第一王子様。
ノルド様は冷たい表情で私の顔を見据えながら、こう言葉を発した。
「カレン、君は僕の婚約者という身でありながら、僕の事を裏切った。その責任は浮上に重い。ここに集まってくれている者たちも、その考えは同じであると思う」
ノルド様はそう言いながら、集められた人たちの顔を順に見て回る。
それを受けた人々は、まるで訓練された動物のような雰囲気を浮かべつつ、ノルド様に対して同意の意を示していく。
…ここでノルド様に反対するような表情を浮かべてしまったら、後からどうなるか。
みんなその事がよくわかっているのでしょうね。
「カレン、隣国の王子であるデスペラードの事が気になるのは分かる。だが、君は名実ともにこの僕の婚約者なのだ。ぬけぬけと簡単に向こうに対して笑顔など見せられては困る。僕とて君との関係をサービスで作り上げているわけではないのだよ」
「……」
それは、私の元をデスペラード様が訪れてくださったときの事。
その時ノルド様は前の仕事が長引いていて、到着が少し遅れていた。
だから私がその間を埋めるべく、デスペラード様の話し相手をしていた。
ただノルド様は、その時に私がデスペラード様に対してなにか色目を使ったものだと考えている様子で、あの日以降私はノルド様からあまり良い扱いを受けていなかった…。
「まさか君がそんな不埒な女だったとは…。どうだ?みんなもそう思うだろう?」
ノルド様は再び周囲を見回し、他の人のリアクションを伺っていく。
ここでノルド様に反論できるような人物がいるはずもなく、先ほどと同じ時間が過ぎていくだけだった。
「カレン、反論をしてこないという事は君もまた同じ思いを抱いているという事でいいんだな?まぁ自覚があるだけまだましだと思うべきか…」
そうじゃない。
私には反論が一切許されていないのだ。
今日ここに来るときに告げられたのは、最初から最後まで黙っていろという命令だった。
…私の事なんて何とも思っていないからこその言葉だという事が、それだけでよくわかった。
「デスペラードは君の事を気に入っているのだろう?だからあんなに親し気な様子で話していたものと見受けられる。だが、君は僕の婚約者という立場を持っているのだ。これ以上好き勝手なことをされては、この僕が憐みの目を向けられてしまう事となる。第一王子の座に座るものとして、それは受け入れるわけにはいかない」
そもそも、隣国の王子様がいらっしゃったから笑顔で出迎えるなんて、私は当然の事だと思うのですけれど…。
それが不埒な行動だと言われてしまったら、もう私にはどうするのが正解なのかさっぱり分からないのですけれど…。
ただ、ノルド様は私の気持ちなんて何も考えずに言葉を繰り替えされているのでしょうから、こんな事考えるだけ無駄なのかもしれませんが…。
「これから先も君との婚約関係を続けていくことが本当に正解であるのか、僕のは判断ができかねている。そこで、ここに集まってくれた者たちの総意をもってその決定としたい。これなら僕の独断で君の未来を決めたと批判をされることもないだろう。皆で決めることなのだからな」
みんなで決める、といえば聞こえはいいけれど、結局は結果の決まっている遊びだった。
ここでノルド様と反対の意見を持つことが出来る人なんているわけがないし、それを表にできるわけもない。
どうせ全員がノルド様に味方をして、私の未来は決められることになるのでしょうね。
それならそれで、別に心残りもないですけれど。
「では、みんなに聞こうか。デスペラードにうつつを抜かすこのカレンと、これから先も関係を続けるべきだと思うものは、手を上げてみるがいい」
「「……」」
…当然、とも言うべきでしょうか。
ここで手を上げる人は誰もいません。
それもそのはず、ここに私の味方なんて結局、誰もいないのだから。
私がノルド様に選ばれた妃候補だからみんな媚びを売って来ていただけで、ふたを開けてみればそこにある感情なんてこんなもの。
「では反対に、この僕の考えに従い、カレンの事を婚約者として失格とみなし、このまま婚約破棄を行う事が正しいと思うものは、手を上げてくれ」
結果は見えていた。
先ほどと正反対に、ここに集められている全員がその手を上げ、ノルド様に付き従った。
ノルド様の機嫌を損ねないために、嫌われないために、みんな必死なのでしょうね。
私はそれでも自分の思う方を貫いたけれど、みんなにはそれがない様子。
「ではカレン、このように皆で決めた結果、全会一致をもって君との婚約関係は破棄されることとなった。これは僕の独断ではない、皆の意思で決めた結果だ。文句を言うんじゃないぞ?」
「……」
私は何も言葉を返さず、ただただ黙ってノルド様の言葉を受け止めた。
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いらない婚約者と言われたので、そのまま家出してあげます 大舟 @Daisen0926
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