11

 男はベッドの上でにじるようにして動き、背中をこちら側に向けた。

それから背筋を伸ばしてたくましい両腕を後ろに回すと腰のあたりで手首を交差させた。

 沢渡は今、美咲の深層の記憶を掘り起こしている。そして彼は美咲の目を通して見たものを追体験していた。今、沢渡と美咲は視覚を共有している状態にある。

 美咲は男に近寄ると持っていた鎖で男の両手首を束ねて無造作に括った。見たところ簡単にほどけそうだが、男と美咲との間では頑丈に括ってあるというになっているのだろう。

 いきなり美咲は男の背中を蹴った。美咲の足は黒いレザーブーツで覆われており、ヒールの部分は細くはないものの鋼鉄製の鋭いスパイクが数本植え込まれている。ときどき視界を過る美咲の手足や胴体の一部も黒いレザー地の布で覆われていた。典型的な女王様スタイルのコスチュームを身にまとっているのだろう。

 男は大げさな動きでベッドの上に寝転がるとわざとらしく足を伸ばした。

「なにしやがるんだ!」

 感情むき出しで吠える男に対して美咲は少しもひるまなかった。伸ばした男の両足をまた別の鎖で一括りにすると、うつ伏せになっている男の背中をスパイクの付いたブーツで思いっきり踏みつけた。男が「あっ!」と小さく悲鳴を上げる。

「こんなことをして俺が屈服すると思ったら大間違いだぞ!」

 男は美咲に踏みつけられたまま怒鳴ったが、相変わらず美咲は意に介さない。

「そんなことを言ってられるのも今のうちだよ。今日は半端なことじゃ済まないからね。おまえがたっぷりと血を流すところを思う存分楽しんでやる!」

 美咲は実年齢よりも二周りも年上の中年女が口にするようなセリフを吐いた。普段とはまったく異なる野太くて涸れた声だった。激しい興奮状態にあるからだろう。

 美咲は足で蹴るようにして男の体を転がした。美咲よりも身長や体重が明らかに大きいにもかかわらず男の体は簡単に裏返ったが、それは男が自分から体を動かしたせいだった。

 それから美咲は仰向けになった男の上半身にまたがり、容赦のない平手打ちを男の顔に食らわせた。さらに男の厚い胸板に描かれたドラゴンのタトゥーをスパイク付きのブーツで押さえつけてグリグリと踏みにじった。

「畜生! これしきのことで俺を言いなりにできると思うなよ!」

 男はセリフだけは威勢が良いが、美咲の暴虐に対して抗おうとも逃れようともしない。圧倒的に体格差や腕力差がある少女に一方的に嬲り物にされながらも絶対に弱音を吐かない自分という状況にたまらなく興奮しているらしい。屹立した男の一物は途中でいったん暴発したものの、美咲にいたぶられているうちに早くも硬度を取り戻した。一時間近いプレイを終えたとき男の全身は蚯蚓腫れになり、そのうちのいくつかから血が流れ出ていた。

 美咲は持っていた一本鞭をベッドの上に投げ出すと、腰を下ろした。オスガスムスを感じているようだった。激しく呼吸する音とともに視界が小刻みに揺れていた。

 その美咲の姿を見ながら男は自分を慰め、股間のものは二度目の暴発で弾けた。

 それっきり二人は黙ったままじっとしていた。やがて美咲は身につけていた黒いレザー地のコスチュームを脱ぎ捨て、翔矢が駅で見たときのレザー地の黒いジャケットとスカートに着替えた。男の方も持参していた救急セットで応急手当を済ませると黒いレザー地のジャケットとズボンに着替える。二人ともよほどレザーの服、それも黒がお気に入りのようだった。





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家族写真 木田里准斎 @sunset-amusement

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