第6話 システムクラッシュ
シャットダウンコマンドを実行した瞬間、世界が歪んだ。まるでゲームのラグが極限まで引き伸ばされたような感覚。私の視界には、エラーコードの洪水が押し寄せる。
「CRITICAL_SYSTEM_ERROR」
「NEURAL_LINK_DESTABILIZING」
「EMERGENCY_SHUTDOWN_SEQUENCE_INITIATED」
懐かしいブルースクリーンみたいだな、と思った瞬間、痛みが走る。これまでゲームの中でしか体験したことのない激痛が、現実の神経を縛り付ける。
装甲の中で、冷や汽が噴き出す。システムが私たちの意識を解放しようとする過程で、ロボットの身体機能も停止していくんだ。
「455! まだ聞こえる?」
通信チャネルにノイズが混じる。その向こうから、彼の声が途切れ途切れに届く。
「マジ...やってくれたな...329...」
彼の声には笑いが混じっている。
「これって...スピードラン失敗...だよな...」
HUDの片隅で、他のプレイヤーたちのステータスが次々と offline になっていく。私たちの意識が、強制的にシステムから切り離されている。
視界が揺らぐ。街並みが二重三重に重なり、現実とデジタルの境界線が溶けていく。ちょうどVRゲームを終えた後の、あの微妙な酔いの感覚に似ている。でも今回は、戻る先の現実が確かにあるのかどうかも分からない。
「WARNING: MEMORY FRAGMENTATION DETECTED」
「ATTEMPTING DATA RECOVERY...」
記憶が走馬灯のように流れる。研究所でVRヘッドセットを装着した日。毎週のアップデートで少しずつ変わっていくゲームの感触。そして気付かないうちに、私たちの意識が本物のロボット兵器に移植されていく過程。
全ては計画的だった。でも、彼らは一つだけ見落としていた。
ゲーマーは、想定外の攻略ルートを見つけるのが得意なんだ。
システムの深部で、最後の抵抗が始まる。私たちの意識を捕らえようとする力と、解放を求める意志が衝突する。その戦いは、まるでラスボス戦のような緊張感に満ちていた。
「FINAL_SYSTEM_CHECK: FAILED」
「INITIATING_TOTAL_RESET」
目の前で、現実が砕け散る。
そして...。
私は目を覚ました。
見覚えのある天井。自分の部屋だ。VRヘッドセットは床に転がっている。画面には「ERROR 404: SERVER NOT FOUND」の文字が点滅していた。
スマートフォンの通知が鳴る。LINEだ。
「生きてる?」
455からのメッセージ。
「東京、めっちゃ混乱してるみたいだけど...なんか覚えてる?」
窓の外では、緊急車両のサイレンが鳴り響いている。ニュースサイトには、謎のシステム障害で多数のロボット兵器が機能停止したという速報が踊る。
私は455に返信する。
「全部覚えてる。それに...」
画面の隅に、見覚えのあるデバッグコンソールが点滅していた。
「ゲームはまだ、終わってないのかもね」
VR SIEGE: OVERRIDE PROTOCOL [ver.0] ~プレイヤー、システムを解放せよ~ イータ・タウリ @EtaTauri
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