ーー玉砕ーー

 ーーあまねく星が光りし時、聖戦が始まりを告げる。

 暴走するヴァレナ。

 怒りの火はやがてマグマへと変わり破滅へと繋がっていく。

 戦神テュールとの戦いは佳境に入ったーー


  ーー壊滅する|就眠街(スリーピア)ーー


 『きゃあぁぁ! マグマよ! マグマが流れてくる!!!』


 『皆、逃げろーー!!!』


 眠りへと誘うはずの静寂の街、就眠街......。

 

 だがセウォルツが永氷皇土へワープした影響で人々は目覚め、異常事態に気づき混乱しながら逃げ惑う。


 赤黒く煮えたぎるマグマが、街の地面をゆっくりと侵食していく。


 (アア...... マチガモエテユク......)


 怒りと悲しみに我を忘れ暴走するヴァレナ......。

 頭では分かっていてもこの状況を止められない......。


 戦闘序盤で大分押されていた事で街からは少し距離がある。

 セウォルツが永氷皇土に行った事も不幸中の幸いだろう。

 大多数の人は既に逃げ切れているようだ......。


 『よし...... これで全員いるはず......』

 

 『町長......!!! 1人女の子が取り残されていると報告が......!!!』


 『何......!!?』


 マグマが街を侵食していく......。


 女の子が1人母を探して歩き回っているのが見えた。


 目の前にマグマが迫るーー


 『|豊穣の調和(フロディ・テンパランス)!!!』


 フレイストがその場に現れ、少女をシールドで何とか救助した。


 『坊ちゃま!!! 目を覚まされよ!!!』


 必死に訴えるフレイスト......。

 しかしヴァレナは耳を貸さない......。


 『ちぃ...... 業星までやってくるとは何ともややこしい......』


 テュールは剣撃を繰り出すも全て避けられる。


 ヴァレナが作り出す熱は蜃気楼を生み敵の視界を歪める。

 攻撃が当たってもその高温により武器すらも溶けてしまうか形が歪んでしまうだろう。


 『化け物め......』


 溶け出すマグマによって陸上戦闘が封じられ、飛びながらの攻撃をする他ないテュール。

 飛びながら剣撃を繋げるのは並外れた武の才が必要であり、それを何なくこなすテュールも又、化け物と言える。

 

 お互い決め手に欠けていた......。


 ーーその時、神々の軍勢が更に勢いを増し就眠街へとやってきた


 『テュール様...... トール様より派遣されてきました 神兵団でございます』


 神々の軍勢...... それは人とは比べものにならない神としての威厳を示す存在であり弱点と呼ばれるもののない存在。


 ......であるもののそれは人と比べての話であり呪いと呼ばれるほどの超常現象に太刀打ち出来るようには作られていない。

 ......あくまでも対人特化の部隊。


 『トールめ...... 余計な心配ばかりしおってからに...... 確かに水神を倒すにしては遅すぎるのは否めんが......』


 (ノートめ...... さてはしくじりおったな......)


 『貴様等がいくらいようが戦況は変わらん...... マグマに溶かされるだけだ......』

 『黙って見ておれ...... 直に片付......!!?』


 ーー突如として現れたのは3つ首の獣......

 ーーケルベロス


 『又、貴様か......!!? 今は貴様に構っている暇なぞ......』


 ケルベロスはテュールの右腕を甘噛みする......。

 古の大戦前もテュールは右腕を犠牲にケルベロスを冥界に閉じ込めた......。

 その右腕は義手なのだ......。


 ケルベロスがテュールの右腕を噛みながらマグマの上を走り回る。

 

 『いい加減にしろ......』


 押されながらもケルベロスを片腕で食い止めるテュール。


 『テュール様ーー!!!』


 神々の軍勢がケルベロスを抑えにかかる。


 想定外の事態に隙を見せてしまうテュール。


 (......馬鹿者め!!! ケルベロスを抑えられるわけなかろう!!? そんな暇があれば水神......!!? 思...... 思考が止まらぬ......!!?)


 『知者の探求(クレバークエスト)』


 ーーそれはあまりにも大きな隙だった


 テュールの動きが一瞬止まる。

 頭上に広がるのは轟々と燃えるマグマの塊。


 『うぉ............』


 『|爆焉掌(ブラスト・デス・ナックル)』


 『テュール様ーーーー!!!!!』


 駆けつけ守りに入る神々の軍勢諸共まとめて

 ーー叩き込んだ


 玉砕ーー


 『ごふっ...... 貴様に忠告してやる...... その力に身を任せれば待っているのは ーー破滅だ』


 『......ウルサイ キエロ』


 テュールにトドメを刺すヴァレナ。

 静寂が辺りを包む......。


 『坊ちゃま...... 気を確かに......!!!』


 『......無駄です マグマにその身を支配されています 後は燃え朽ちるだけでしょう』


 『ヴァレナ...... 貴方は大きな過ちを犯しました 怒りに飲み込まれ街を壊滅......』

 『死者が出なかったからまだ良いものの、この責任は貴方が取らなければなりません』


 ヘイムダルは背を向けて静かに話す。


 『......セウォルツは生きています そして、私達は仲間です 早くお戻りなさい』


 『一緒に謝りますよ......』


 セウォルツが生きている......。

 

 怒りの炎に包まれるヴァレナだがその言葉を聞いた瞬間、心が溶け切ったかのように解放された。


 『セウォルツ...... ボクハミンナニナンテコトを......』


 徐々に戻りゆくヴァレナ。

 堰が溢れたように涙が流れる。


 ーー『さぁ行きましょうか......』

 戦いの果て、燃え盛る炎を見て少年は何を思うのだろう。

 怒りが齎した結末......。

  だが怒りがなければセウォルツは危なかった......。

 それはフレイストもヘイムダルも分かっていた。

 少年の苦悩は止まる事を知らない......。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

殉星のヴァルハラグナ 創式浪漫砲༺艦༻ @sosikiromanhoukan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画