第2話

 高校二年生になった。一つまた大人に近付いた。でもそれだけだった。いわば時間が進んだだけ。それだけで幸せになることもなければ、人生が彩られることもない。もちろん生きる悦びを見つけることもない。常になんか面白いことないかなぁというぼんやりとした夢を抱く。二年生になればなにか面白いこと起こるかも、と思っていたけれど、人生はそう甘くなく、ただ二年生になっただけだった。


 「……」


 私の名前は茂木もぎ凪沙。出席番号的には前でもなければ、後ろでもない。年度始めの席順は出席番号順になるわけだが、廊下側や窓側、教室の前後というような特徴的な座席でもなくて、なんというか面白くない人生を歩んでいる私を表しているなぁと笑ってしまう。仮に相川や渡辺といった出席番号の最初や最後を確約されたような名前であったとして、なにか面白いことが起こるとは毛頭思っていないが。ありうべからず未来を描くのは詮無きことだと思う。と、夢見がちな思考を正当化してみる。


 「おらおらおら。お前ら座れ〜。このクラスの担任になった松井まついだ。去年度はこの学年の日本史だったが、今年度は世界史の担当になったからな。よろしく頼む」


 クラス担任がずかずかと教室に入ってきた。教卓にクラス名簿を置いて簡単な自己紹介を行う。と言っても、去年も関わってきた教師なわけで皆知っている。故に誰も話をまともに聞いていない。右耳から声を入れて、左耳へと受け流す。


 「で、だ。私の自己紹介なんかどうでも良くてだな」


 と、皆薄ら思っていたであろうことを担任が触れる。


 「今年度よりウチの高校に編入することになったヤツを紹介する。じゃあ早速入ってきてくれ」


 担任はそう声をかけると、さっき閉めたはずの扉はがらっと開かれる。入ってきたのはウチの制服を着た見知らぬ女の子であった。まず最初に気になるのは髪型である。地毛しか許されない校則があるはずなのに髪色は茶色くて、ウェーブなんかもかけている。金髪みたいな明らかな反抗心が見えないからこそより一層不良じゃんって思う。あと身長は高め。多分一六五センチくらいはある。一七〇センチまではないと思うけれど。でもクラスの男子の半分くらいは彼女に身長で負けてるんじゃなかろうか。そう思うくらいには「背高いなぁ」という印象を抱く。これは偏見マシマシなのだが、背の高い女の人ってふくよかな体型の人が多い。けれど彼女は違った。ふくよかとは程遠く、むしろ細すぎて逆に心配になっちゃうレベル。大丈夫? ご飯ちゃんと食べてる? と、庇護欲が擽られる。そしてなによりもこれがもっとも特筆すべき点だと思うのだが、とてつもなく美人であった。周囲の空気が一変するくらいの美貌を持っている。こういう人が芸能人として活躍するんだろうな、と思うほどに美しい。芸術品として飾りたくなる。


 「初めまして。今年度より編入することになりました藤田薫と申します」


 口を開く。

 声はまるで聞き覚えがあるかのような安心感があった。


 「私はただ一つの目的を達成するためにこの学校にやってきました。正直勉強とか部活とか興味ありません。人付き合いも興味ありません。どうぞ、よろしくお願いします」


 彼女はそう言って頭を下げる。

 はっきり言おう。めちゃくちゃ痛々しいなと思った。きっとあれだ。厨二病を拗らせているタイプだ。

 せっかく人生イージーモード確定の顔面を持っているのに、それを無駄にする精神。天は二物を与えずとはよく言ったものだ。実際問題今の一言でクラスの空気はガラッと変化した。具体的にはあれ? コイツ関わらない方が良いやつじゃねという空気にである。


 彼女は担任と会話をし、指定された席へと向かう。まぁ指定された席って私の真ん前なのだが。深澤ふかざわが居て、その次は茂木。藤田は名前順的に深澤と茂木の真ん中になるわけで、定められた運命であった。


 あんまり関わりたくないなぁと思った矢先にこれだ。一応話しかけてくんなよというオーラを醸し出す。面白いこと起こらないかなとか思っていたけれど、こんなことは一切望んでいない。

 目を逸らす。つかつかと足音が響く。近寄る。


 「会いたかったよ。凪沙」


 私の机に手を置いた彼女は、心の底から喜ぶような声色でそう私に声をかける。

 なんだよなんだよなんなんだよ。なんでよりによって私に声をかけてくるんだよ。大体私の名前なんで知ってるんだよ。とめどなく溢れる疑問と文句。

 とりあえず私は無視を決め込むことにした。こんなのと知り合いだと思われた暁には私の高校生活も終わるから。

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n回目の転生でも貴方の恋人になってみせます こーぼーさつき @SirokawaYasen

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