n回目の転生でも貴方の恋人になってみせます
こーぼーさつき
第1話
「かおりんはいつもそうだよね。私にわからないように動いて、自分で抱え込んで、一人で苦しんで。私にはなんにも教えてくれないし、頼ってもくれない」
「だってそれは……
「大切ならさ! もっと私を頼ってよ。もっと私を信じてよ」
お互いに仕事を終えて、帰宅し、リビングで机を囲みながら話し合う。と言っても、相手はわからずやな恋人……もうそろそろで同性婚が日本でも認められるようになって私の妻になる人……って、それはどうでも良くて。大事なのはわからずやの部分。わからずやの
さすがに堪忍袋の緒が切れた。それに自分で抱え込んで苦しむかおりんを見るのも苦しい。
「……」
私がそうやって訴えても。心の底から願って吐き出しても、かおりんは頷いてくれない。わかったという一言さえも言葉にしてくれない。
黙るだけ。
きっと時間が解決してくれることを望んでいる。なあなあにすれば私が諦めると思われている。私のことをチョロいと思っている。
「わかりました」
「……?」
「そっちがずっとそういう態度をとるならこっちはこっちでそれなりの考えがある」
私は立ち上がった。
「この家を出る」
「家を出るって……正気? どこに行くつもりなの?」
「今からなら終電あるし、実家に帰れるから」
無計画にやっているわけじゃない。むしろ緻密に計算している。もう既に実家には連絡済みだ。今日もしかしたらそっち帰るかもしれない、と。
「じゃあね、かおりん」
家を飛び出した。
小走りで駅に向かう。その最中、信号待ちをしていると後ろから追いかけてきたかおりんに捕まってしまう。彼女は息を切らしていた。足元を見るとスリッパのままである。
「話聞いてよ」
「聞いてるよ。聞いてる上で話にならないから出てきたんじゃん」
「……わかった。わかったよ。真面目な話があるから……あっち。あっち行こう。ここじゃあちょっと人の目が多すぎるから」
かおりんが指差す先にあるのはこじんまりとした公園であった。法律のせいで作らざるを得なかったというような公園で遊具さえまともにない。滑り台やぶらんこといった公園といえばというような遊具はなく、シーソーと砂場、それからやけに多いベンチ。街灯も多く、明るさだけは担保されている。バチバチと虫たちが群がり、少しだけ気持ち悪さを覚える。そんな下にあるベンチに私たちは腰掛けた。
こう提案されてなんだかんだで従ってしまう私はやはりチョロいのかもしれない。
「まず落ち着いて聞いて欲しい。多分物凄く驚くだろうし、正直信じられないと思う」
「それは聞いてから判断するよ」
「そうしてくれると助かる……」
ギュッと拳を作る。震えている。大きく息を吸う。緊張がこちらにまで伝わってくる。
「私はなんどもやり直してる」
「やり直してる……?」
私は首を傾げた。
「そのままの意味だよ。人生をなんどもやり直してる。凪沙が死ぬ度に赤子まで時間が遡るの」
「えーっと、私そんな記憶ないけど」
「知ってる。記憶残ってるのは私だけらしいから」
「かおりんだけが遡ってるってこと?」
「多分……そうかな?」
「え、なに、その曖昧な反応」
「詳しいことは私にもわからないから。でもはっきり言えることは……今の凪沙は何度も死ぬはずだった事実を改変しているってこと」
なにを馬鹿な話を……と本来なら一蹴されるべき話だと思う。
けれど私にはできなかった。かおりんのやけに秘匿して一人で抱え込もうとする癖も、まるで未来が見えていそうな行動も、すべてかおりんの今の説明で納得できてしまうからだ。
「そっか」
「信じてくれるの?」
「信じるって言ったの私だし」
「……凪沙、大好き」
思いっきり抱き着かれる。苦笑しながら抱擁する。背中を優しく撫でながら。
「もしまた時間を遡っちゃったとしても、私絶対凪沙を見つけるからね」
「はいはい、ありがとうね……って、今めっちゃ縁起でもないこと言わなかった? 私死ぬつもりないんだけど」
かおりんの体温を直接感じて、笑い合う。そんな何気ない時間がとてつもなく幸せだと思う。喧嘩して家を出たのに、数分で手を繋ぎながら帰宅することになる。チョロいと言われても構わない。そんなの気にしないくらい今の私は幸せだから。
数分後、私は信号無視の乗用車に轢かれるのだが、今の私はまだ知らない。
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