#傷跡を残したプロフィール

透藍

第0話 #居場所

駅前の飲み屋街は、冬の冷たい空気にも負けず賑わっている。赤ちょうちんの灯りが並ぶ路地から漏れる笑い声や、軽いグラスのぶつかる音がこの田舎町の夜を彩っていた。


その一角に建つホテルは、駅前の喧騒に包まれながらもどこか静けさを保っている。その自動ドアの前で、私は一度立ち止まった。


「成人記念 同窓会」


張り紙の文字をじっと見つめる。こんな場所に自分がいるのは場違いだ――そんな感覚が頭をよぎるが、足を止めるつもりはなかった。


扉の向こうからは、懐かしい声が聞こえてくる。笑い声、昔のあだ名、近況報告。私にとって、それらは暖かさよりも、遠い記憶の中の冷たい空気を思い出させるものだった。


「あの日から5年。」


その言葉が心をよぎる。あの日をきっかけに、私は教室を去り、地元を離れた。周囲に何が起きたのか詳しく知る人はいない。語るつもりもない。ただ、都会で過ごした5年間の中で、同じように過去を抱えた仲間たちと出会い、自分を作り直してきた。


私はかつての自分とは違う。そう信じている。けれど、この場所に戻るたび、胸の奥で小さな何かが疼く。


深呼吸を一つして、意を決して扉を押し開けた。


宴会場には明るいシャンデリアが輝き、ドレスやスーツに身を包んだ元同級生たちがグラスを手に楽しそうに語り合っている。遠くには、懐かしい教師たちの姿も見えた。


誰かがこちらに気づき、一瞬の静けさが生まれる。その視線が自分に向けられているのを感じたが、気にしない振りをして会場の中央を歩く。


「…来たんだ。」



────────────────────――


「中学3年生の頃、私はクラスの中心にいた。運動も勉強も得意で、男勝りなところもあったけれど、それがクラスメートからは好かれていたと思う。」


「それでも、私はどこか満たされない感覚を抱えていた。自分が本当に周りからどう思われているのか、誰もが私をどう見ているのか、それを確かめたくてたまらなかった。」


「そして、その夏――私の世界が一瞬で崩れた。」

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2025年1月10日 21:00

#傷跡を残したプロフィール 透藍 @kurakurahirari

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