超絶美形の桃太郎による鬼退治。
これだけでもう充分読み手の興味をそそる題材、設定となるわけですが、読み始めてすぐにわかるのは、その筆力の高さ。
見事な描写、表現力で読者を物語の世界へといざない、そこに描かれる鮮やかな古の時代、生き生きとした登場人物たちに瞬く間に魅了されていく。
桃太郎といえば、犬、雉、猿をお供に正義の名のもとに悪行のかぎりを尽くす鬼を退治する勧善懲悪の物語。
だが、今作に登場する鬼の頭、剛伽夜叉は、清廉にして豪放磊落。つらい過去を抱えてなお、争いを好まず、他者を思いやり、弱きを護ろうとする優しさを備えている。
それまで人を脅かし、苦しめる存在でしかなかった鬼たちは、剛伽夜叉の登場により退けられ、一転、人々との共存を可能にして精度の高い技術をもたらし、豊かな生活へと導いていく。
大王より鬼退治を命ぜられ、鬼火の里へやってきた五十芹彦命は、その様子を目の当たりにし、剛伽の人となりに触れて心動かされていくが、富や権力に眩んだ者たちの欲心や欺瞞、使命という名の大義名分によって、鬼の一族、怨羅の討伐を余儀なくされる。
ほんのわずかなきっかけによって崩壊する信頼。恐怖と恐慌に支配された人々が見せる残虐性。深い悲しみと絶望の中にあってなお、己の義を貫く清冽な輝き。
人は弱く、愚かで儚い。だがそれゆえ強かで、懸命に足掻く姿が愛おしい。
正義とはなにか。真に忌むべきもの、正すべきものとはなにか。
雄々しく、ときに泥臭く、それゆえ見事な輝きを放つ彼らの生きざまは圧巻である。
その漲る生の奔流に、ぜひ呑まれていただきたい。