第4話 学校裏サイトの噂
部屋に戻った遥は、自分の汗の匂いが耐えられなくなり、シャワーを浴びることにした。遥の返事に満足して気分が良くなった理人は、机の前に座って、無造作にスマホをいじっていた。
口元が緩んでながら、軽くいくつかのサイトをチェックしては、気が向くままにスクロールを繰り返している。けれど、何か物足りなさを感じたのか、ふと手を止め、学校裏サイトにアクセスした。
普段、学校裏サイトをあまり見ない理人だったけど、サイトに入ると、その人気さに驚いた。サイトのトップページには、つい先ほど投稿されたばかりのポストが並んでおり、その中でも最も注目を集めていたのは、次の三つのポストだった――
『お似合いすぎ!僕はノンケ、僕の恋人もノンケでなきゃダメ~(*ˊ艸ˋ)』
『浅見遥推し専!』
『死ぬ気で撮った八神さんの写真、今すぐチェック!』
理人は眉間にしわを寄せ、直感的に一番目の投稿をタップした。ページが開くと、最初に目に飛び込んできたのは、加工された写真だった。
写真は、今日の午後に行われた試合で撮られたもので、ぼやけた仲間たちを挟んで、彼と遥が互いを見つめ合っている瞬間を捉えていた。投稿者はその二人の上にピンク色のハートを加え、赤い線で二人を繋いでいた。
投稿者:【キャー!見てよこの目、友達だなんて信じられない、絶対何かあるから!!!】
その写真はあまりにもピンクすぎて、遥の冷たい顔と相まって、理人は思わず笑い出してしまった。彼はその写真を保存し、気分良さそうに他のコメントを見ていった。そこには、さらに多くの二人の写真が投稿され、皆が彼と遥の関係についてあれこれ憶測を並べていた。
例えば、彼が遥に自分が飲んだ水を渡す写真だと、「大勢の前で間接キスし、所有権をアピールしたいんだろう」といったコメントが並んでいた。
また、彼が遥の肩を抱えて一緒に退場する写真に対しては、「あれは他のライバルや自分に片思いをしている者たちに、『こいつは俺のだ、余計なことはするな!』って宣言しているに間違いなし」というコメントもあった。
理人は無意識に口角を上げた。確かに、こうした行動には特別な意味があったわけではない。だが、冗談の範囲であれば、何も不快に感じることはなかった。むしろ、こうして遥との間で冗談を言い合うのは日常茶飯事だ。そんなに大げさに騒ぐようなことでもないだろう。それに、写真自体もなかなかよく撮れている。
理人はコメントで見たすべての写真を一気に保存して、ニヤニヤしながら前のページに戻った。
その後、理人は二番目の『浅見遥推し専!』の投稿を開いた。二人のやり取りよりも、この投稿は遥の容姿を最大限に美しく捉えた写真に盛り上がっている。
遥はいつも理人のことを「学校一のイケメン」と呼んでいるけど、実際のところ、遥自身もまったく見劣りしない。理人のシャープなフェイスラインの美しさとは違い、遥の顔立ちはさらにに繊細で美しいと言われるほどだった。もし長髪で女装したら、間違いなく「美人」と呼ばれるだろう。
彼は、性別に関係なく美しいというタイプで、どこか儚さと力強さが同居している。そのため、当然のように写真を撮りたくなる人が大勢いた。そして、コメントには、「部屋に飾りたい!」というような言葉も数多く書き込まれていた。理人はゆっくりと見ながら、遥の写真を一枚も漏らさず保存していった。同時に、他の人のコメントも読み進めた。
匿名だからこそ、皆は本音を隠すことなく好き勝手に意見を述べているようだ。
【尊いすぎ!!!見てよこの柔らかい肌、この頬の赤み、運動したせいで顔が熱くなったんじゃなくて、私のこと見て恥ずかしがってるんだよ!】
【いや、私を見たからこうなったの!】
【想像してみてよ~毎晩自分のことを抱きしめて寝るところ!遥の肌はほんとに柔らかいから、その時、軽く喉のとこをかんであげると、じわじわと顔がピンク色になって……フフフフ~♪】
理人は最後のコメントを見て、その動きを一瞬止めた。コメントの左上隅に表示された「報告」ボタンをクリックし、不適切な内容をサイトに報告した。
ふざけんな、毎晩遥を抱いて寝ているのは彼だろう。それに、遥が少し舐められただけで顔がピンクになるとか、そんなこと彼が知らないわけないだろう……理人は心でそう呟き、再びコメントを見た。いくつかのコメントに目を止めた瞬間、理人の顔色が曇った。
前の冗談をしているコメントとは打って変わり、下の方にあったコメントには、明らかな悪意が込められていた。
【女々しい奴が何がいい、気持ち悪る。どうせこいつの事が好きなのはセンスのない女しかいないんだろう。】
【こんなに綺麗だから、殴ったら泣き叫びそうだ。ちゃんと自分の身を守った方がいいぞ。じゃないと、何が起こるか分からないって。】
理人はそのコメントを目にした瞬間、体中に冷たいものが走るのを感じた。普段なら無視できるような言葉でも、遥に関わるものとなると、理人の心は静まらなかった。顔色がすぐに曇り、息を呑んでそれらのコメントを見つめた。
「くそ、またかよ。お前ら、遥の指一本にも及ばないくせに、虫けらみたいに騒ぎやがって!」
それを言ったのは洋介だった。顔を真っ赤にし、恐ろしいスピードで文字を打ちながら、まるで誰かと口論しているかのように、その手は止まらなかった。理人はその異様な動きに気づき、視線を向けた瞬間、洋介がすぐに目を合わせ、慌ててスマホを後ろに隠すのが見えた。
「理、理人!お、お前もここにいたんだ。声かけろよ、ビックリしたわ」
洋介はぎこちない笑みを浮かべた。
「それ、見ただろう?どういうことだ?」
「……理人も見てたんだ。」
洋介は頭をかきながら、深いため息をついた。そして、しばらく沈黙の後、重い口を開いた。
「あのゴミども、しょっちゅう学校の裏サイトで遥の悪口を言っている。前はそれほどではなかったけど、遥が女子の間に人気出てから、どんどんひどくなってしまった。このこと、遥には絶対言わないほうがいい。あいつらはどうせSNSでしか騒げないからな。」
その時、遥は中から出てきた。
大きな白いTシャツを着た遥は、片手で髪の水滴を拭きながら、もう一つの手で、バルコニーにかけてある服を持ち上げていた。水気が残った髪をさっと手で払う仕草がどこか無造作で、それがまた魅力的に映った。自分の服を片付け終わると、遥は振り返り、部屋の方に声をかけた。
「要らないなら、ついでに服も片付けるけど?」
「お願いします!遥様!」
洋介はすぐに気分を切り替え、遥に向かって手でハートのポーズを作った。
「お礼として、この身を捧げてあ~げ~る~」
「ダメに決まってるでしょう、もう彼氏がいるから、愛人は作れない。」
遥は笑顔で言いながら、皆の服を片付け始めた。その動きでTシャツが少し引っ張られて、遥の細い腰がしなやかに見えた。
その背中を見て、理人はふと思い出した。高校時代、遥が自分に話してくれたことについて。
当時、理人にとって「いい子ちゃん」の遥がまさをするなんて思ってもみなかった。その上、実力もなかなかのもので、ほぼ自分に匹敵するほどだった。
二人が親しくなった頃、理人はその疑問を直接口にした。そして、はその質問に答えて、理人はようやく理解した。
遥がまだ小学生や中学生の頃、髪をあえて短く切っていたとしても、女の子に間違われるほど可愛らしい容姿をしていた。そのため、変な奴に目をつけられやすく、クラスの男子からもいじめられることが多かった。だから、自分の身を守るために学びざるをえなかった。
一度は自分の力でいじめてきた相手を黙らせたこともあったけど、大学に上がってから、そのようなことが再び起こることになる。今度は、陰で彼を誹謗していた。
「理人、怒ってるのは分かってるけど、遥が出てきたときは、表情を意識しろ。」
洋介は小声で理人に言った。
「あいつらが匿名掲示板で何言っても、俺たちだけじゃどうしようもないって。それに、遥に知られたら、余計に怒らせるだけだ。」
理人はスマホをポケットにしまい、再び遥の背中をじっと見つめた。
「誰が、無理だって?」
彼は立ち上がり、口元に笑みを浮かべて言った。
「これくらいのこと、出来なければ彼氏失格だろ?」
ノンケの親友に片思いしているけど、なぜか毎晩僕のベッドで寝ています @harunosaki
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