種②
スマホを手にしたまま他の生徒たちとともに、怒鳴り声が聞こえたほうを見てみると、ドアが開けられた後方出入口の前で、男子生徒の篠原と矢部が鬼のような形相をして仁王立ちをし、向かい合って立っている女子生徒の竹下を睨みつけていた。
まだ終了のチャイムは鳴っていないが、帰るつもりでいたのか。それとも部活にいくつもりだったのか。篠原と矢部の二人は通学鞄を持っていて、二人に怒鳴られたからか、竹下は顔を俯かせている。
三人の間にスポーツタオルが落ちていることから思うに、篠原か矢部の落としたタオルを竹下が拾おうとしたのに気づき怒鳴ったのだろう。
理由は知らないが竹下は、一部の男子生徒たちから汚い物イジメをされていた。理由なんてないのだろうけど。
理由があろがなかろうがイジメはイジメ。見て見ぬふりするわけにもいかないので、そのままの状態で岡村に無言でスマホを返すと、
「スマホを弄っているのは勝手だけど静かに弄ってないと、安藤教頭と小野女史がとりあげにくるぞ!」と他の生徒たちに言ってから、
「何、怒鳴っているんだ。」と三人のほうに寄っていった。
ブログの記事内容が気になってならなかったがしかたない、今は三人のほうが優先だ。
三人に近づき。竹下の隣に立って腰を屈めて落ちているタオルを拾いながら、
「何、怒鳴っているんだ。」と今一度、篠原と矢部の二人に言っていった。
そしたら、すぐに篠原が竹下を顎でさしながら、
「コイツがさ。浩が落としたタオルを拾おうとしたからさ、怒鳴っただけじゃんか。」と尖った口調で言ってくると続けて矢部が、
「コイツに触られたら、汚れて使えなくなるじゃんか。」と篠原と同じような口調で言ってきた。
その口調から篠原と矢部の二人は、竹下を汚い物としてイジメていたとかではなく。本気で彼女を汚い物だと思っているようだ。
人が人をどう思うかは個人の自由だけど、人を汚い物と思うのは人として少しどうかと思う。
本来。人をそう思うことは、人として間違いだと教えるのは彼らの親御さんの役目だろうが、それを教えられるような親御さんなら、中学生にもなった子供たちが汚い物イジメなどすることはないだろう。
だけど率直に、
「拾ってくれようとしたのに、そんな言い方はないだろう。」と注意をしても聞き入れないだろうから、
「竹下さんは矢部君が落としたタオルを拾ってくれようとしてくれただけなんだろう。それなのに怒鳴るなんて、彼女に失礼だとは思わないか。」と穏やかな口調で二人に言っていった。
が、二人はその言い方を戯れだとでも思ったのか。
「先生さ。大人のクセして、人と汚い物の区別もつかないの。」と篠原が見下すように言ってくると、
「そうだよ。人間じゃない汚い物に、失礼もなにもないじゃんか。」と矢部が鼻で笑いながら言ってきた。
俺は来月で30歳。世間知らずのところもあるが人としての分別は、多少なりともあると思っている。
年配の人に見下され鼻で笑われながら言われるならわかるが、中学生になっても分別もない14歳のガキになんで、見下されたかのように鼻で笑われながら説教じみたことを言われなければならない。
何かが切れた。何が切れたのか自分でもわからないが、俺の中のその何かがプッンと切れた瞬間。
「中学生になっても分別のないおまえらに、そんなこと言われる筋合いはねえよ!」
「おまえらこそ親に、どういう教育をされてきたんだ!」と篠原と矢部の二人に怒鳴っていった。
驚いて隣に立つ竹下と他の生徒たちが一斉に俺を見てきた。
大人気ないとは思ったが悪いことをしたとは思っていない。人が穏やかに言っていったのを見下し鼻で笑いながら反発してきたのは、篠原と矢部の二人だ。
俺に怒鳴られた二人は、しばらく間をおいたのち。
「うぇ~ん。体罰教師!ママに言いつけてやる!」と篠原が泣き叫びながら言うと、矢部も同じように泣き叫びながら、
「訴えてやる!」と俺の手からタオルを引っ張り取ると、泣きながら教室を出ていった。
ママに言いつけて、訴えるなら訴えればいい。どちらが正しいか闘いぬくまでだ。
篠原と矢部の二人が出ていくと竹下が、俺の上着を引っ張りながら、
「
「いいよ。先生は、あたり前のことをしただけだ。」と言っていった。
観察日記 加藤小織 @saori4151
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