観察日記
加藤小織
種①
出席番号最後尾の女子生徒・若杉に通知表を渡してから、窓のほうに目をやってみると、暖かな春の陽ざしが射しているのが見えた。すぐにでも桜を咲かせそうな暖かさだ。
室内に目を戻すと俺が何も指示をださないからか。40人の生徒たちは周囲の者同士で雑談をしたり。塾の宿題をしたり本を読んだりスマホを弄ったりと各々、好き勝手なことをしている。
って?!たしかスマホは、校則で持ち込みを禁止されていなかったか。
まぁぃぃ。他のクラスでも持ち込んできている生徒はいるだろうし。校則なんて破るためにあるようなものだ、見て見ぬふりしておこう。
それより、指示と言ってもな。教室、学級指定の掃除場所の大掃除は昨日までに終わっている。
「またやれ。」と言っても反発されるだけだろう。俺だって反発する。
今日は学年末終了式。来月はクラス替えもあり、今日でこのクラスも解散だ。このまま好き勝手にさせておくか。
終了時間になったら、形だけの挨拶をさせて解散すればいいだろう。
その終了時間まで俺は窓際の自分の机にでもいって、生徒たちの様子を見ながら本でも読んでいればいいかと思い、体の向きを変え自分の机にいこうとした。
ら。体の向きを変えると同時に、教室のど真ん中の席に座る男子生徒の岡村が突然。
「エッ!~」と何かに驚いたかのように叫んできた。
その声に驚き、他の生徒たちとともに岡村のほうを見てみると、彼は皆の目など気にすることもなく背を丸め机の下を見続けていた。
その様子から、俺に見つからないよう机の下でスマホを弄っているうちに、何か珍しい物でも見つけて驚き大声で叫んだのだろうと思い。放っておこうと、大半の生徒たちとともに、岡村からすぐに目を逸らした。
が。まだまだ子供の中学生。中には岡村が何を見て驚き大声で叫んできたのか、気になってならない生徒もいる。
俺が岡村から目を逸らして、すぐ彼の手元を覗きにいったのか。その周辺の席に座っている男子生徒の丸山と向井。女子生徒の七尾と横山が、
「マジかょ!」
「冗談だろう!」
「うそぉ!」
「何で!」と岡村と同じように、何かに驚いたかのように大声で叫んできたため。さすがに放ってはおけず。
「こら、何を大声叫んでいるんだ。」と俺は教壇からおり、岡村たちのほうに寄っていった。
俺が近づくと岡村は驚愕した表情をさせながら顔をあげ、
「こ・これ見てよ。」と声を震わせながら薄グリーンのスマホをさしだしてきた。
自分のスマホだろうか。昨年末のクリスマスに発売されたばかりの最新型のスマホだ。
そのスマホを羨ましく思いながら、岡村からスマホを受けとり。スリープ状態を解除して見てみると、それには驚くなかれ。二年前に亡くなった少女の顔写真が映されていた。
それは二年前の三月の夜・午後7時30分前後。この中学校区でもあるS戸市H地町の一軒の住宅が燃えているのを偶々、車でその近くを通りかかった人が発見、消防などに通報した。
幸い、通報が早かったことと。燃えていた住宅が集落から離れていたことなどから、火はその住宅を全焼させるだけで終えたが、全焼した住宅の中から住人の
暁美さんは翌日、ここにいる生徒たちの何人かと小学校の卒業式を迎えるはずだった。
火の出火原因は玄関先に撒かれた灯油に火を放ったれたことによるもの。
それで警察は遺体で発見された二人のうち一人に刃物のような物で無数に刺された刺し傷があり。もう一人の左胸辺りにも刺し傷があったことから、汚い物イジメや無視イジメが原因で不登校気味だった暁美さんの将来を憂いた初美さんが、先に暁美さんを殺害した後。
玄関先に灯油を撒いて火を放ち、暁美さんを殺害した刃物で自分の胸を刺して命を絶った。
「無理心中事件。」と断定した。
二人の遺体を司法解剖もしていなければ、凶器の刃物も見つかっておらず。また、
発見された二人の焼け方が、どちらがどちらなのか区別もつかなかったほど酷かったらしいのに何故、警察がそう判断したのか謎でならないが、生徒たちが暁美さんの顔写真を見ただけで驚き叫んできたのは、それだけ暁美さんに対してしてきたイジメを認めているということだろう。
ということは岡村たち五人は、暁美さんと同じ西小学校出身か。この中学校区にはHT山西小学校とHT山東小学校しかない。
それより写真の形状からして、某ブログサイトのブログのプロフィールに使われている写真のようだ。
「観察日記。」というブログタイトルらしき文字と、
「種を撒いたのは誰。」という文から察するにブログも開設されているようで。
そのままスマホを下にスクロールさせていくと、
「二0XX年三月十X日。」という日付と、住宅の焼け跡らしい写真が見えてきた。
二0XX年三月十X日と言えば火災が遭った日だ。多分、記事タイトルだろう。そして焼け跡の写真は、下村さん宅の焼け跡の写真に違いない。
一体、誰がこんなことを。生徒の誰かか。それとも初美さんの知人。もしくは親類の誰かか。
記事タイトルと思われる日付をタップし、どんな内容の記事が投稿されているのか見てみることにした。
けど、スマホの画面をタップしようとした寸前。
「人間様のものに触るんじゃね!」
「汚れて使えなくなるだろうが!」という男子生徒たちの怒鳴り声が聞こえてきて、タップしようとしていた俺の指をとめていった。
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