(3)
「……なっ、雛っ! 雛姫! おい、どうしたっ!」
激しく肩を揺すられて、雛姫は唐突に我に返った。
「あ……、ヒロ兄……」
虚ろだった瞳に、ようやく焦点が戻ったのを確認して、真尋はホッと胸を撫で下ろした。
「びっくりするじゃないか、こんなとこでぼんやりして。どうした、なんかあったか?」
真尋に心配そうに顔を覗きこまれ、雛姫は驚いたように首を振った。
「え、うううん。べつになんにも……あれ? いま何時?」
「もうとっくに2時過ぎてる」
「えー、ほんとにっ? いつのまにそんなに時間が経ってたんだろう」
本気で仰天している妹を見て、真尋はやれやれと嘆息した。
「集中するのも結構だが、時間を忘れるほど、なにをそんなに真剣に読んでたんだ?」
「べつに、ただ写真集見てただけなんだけど……。夏休みの旅行、どこにしようかと思って」
「で、決まったのか?」
「うん、と……、気になる場所があったんだけど……あったはずなんだけど……、――あれ? どこだっけ?」
「あんまり張りきりすぎて、ひとりで空想の旅に出ちゃったんじゃないのか?」
「うーん、そうかなぁ。でも、なんとなくそんな気もする。えー、どうしちゃったんだろう、あたし。途中から全然思い出せないや。居眠りしちゃったのかなぁ」
「目を開けたままでか?」
「え? あたし、目開けてた?」
「………………」
雛姫はキョトンと兄を見た。
「いいからもう帰るぞ。まともに冷房の風があたる場所に座ってるから、こんなに躰が冷えてるじゃないか。旅行のことならまだたっぷり時間はあるんだから、あとでゆっくり決めればいいだろう」
「うん、そうだよね。そういえば、すっごくお腹空いちゃった」
あっけらかんと笑う雛姫に、真尋は溜息をついた。
「ほら、行くぞ」
兄にうながされて、雛姫は開いていた写真集をパタンと閉じて立ち上がる。そして、ふと額に手を当てた。
「どうした? 頭でも痛むのか?」
「あ、うううん、平気。ちょっと待ってて。これ、棚に戻してくる」
雑誌と写真集を抱えてあわただしく駈けていく小さな後ろ姿を、真尋はかすかに眉を
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